第180話 石片
オルウェンは渋々ながらホームである廃屋にタルト達を連れていく。
兵士等は街へ戻しオルウェン含め6人だけである。
建物に入ると監視役の子供達が出てきた。
「オルにいちゃん、そのひとたちだれ?」
「ぼくたちとおなじハーフのこもいる」
リーシャ達がいるお陰か警戒されることなく奥から沢山の子供が出てくる。
「こらお前達、この人達に失礼をするんじゃないぞ!
ここにいるマリア様はこの国で一番偉い女王様だ」
「うそー、なんでそんなひとがここにいるの?
もしかしてつかまえにきたの?」
誰かが言った一言で少し怯え始める子供達。
そこへ騒ぎを聞き付けたメリーもやってきて何かに気付き驚いている。
「あれっ!?
めがみさまだ、びょうきをなおしてくれてありがとうございました!」
メリーはタルトの前まで走り寄って丁寧にお辞儀をする。
「メリー、お前が言ってた女神様ってこの人なのか?」
「うん、そうだよ!
めがみさまにもういちど、あいたかったの」
メリーはタルトにぎゅっと抱き付く。
タルトもしゃがんで抱き締めて頭を撫でてあげる。
「うんうん、よしよし。
すっかり元気になったね、メリーちゃん!」
「ぅん…めがみさま、いいにおい…」
「メリーちゃんも耳がモフモフしてて気持ちいいよー」
タルトに対してすっかり懐いている妹のメリーにあわてふためくオルウェン。
何者かは分からないが人智を越えた力と女王との関係をみるに自分達の命運を握っている人物であるのは間違いない。
そんな相手に対して無邪気に甘える妹をどうすればよいか分からないのだ。
「タルト様…いえ、女神様とお呼びした方が良いでしょうか?
妹のメリーが…そのすいません」
「呼び方は何でも良いですよー。
よく聖女って呼ばれてます」
「聖女って、もしかしてバーニシアの聖女様ですか!?」
「そうですよー。
それにメリーちゃんは可愛いから何でも許しちゃいます!」
いつまでもメリーを愛でているタルトに対しマリアが呆れて声を掛ける。
「タルトちゃん、そろそろ話を進めてくれるかな?
みんな待ってるから、ね?」
「ふぅー、ケモミミを堪能したよー。
さて、オルウェン君やここにいるみんなの今後についてだね」
「聖女様、寛大な裁きをお願いします!
もし、罰を与えるなら俺だけに!」
オルウェンが深々と土下座をして懇願するが、すぐに子供達が駆け寄ってくる。
そして、メリーもタルトにしがみつき涙目でお願いをした。
「めがみさま、おにいちゃんはわるくないです。
ぜんぶメリーのためなの!」
これにはタルトも少し驚いたが優しい笑みを浮かべ子供達に話しかける。
「大丈夫、誰も罰を与えたりしないよ。
それよりもみんなを助けたいの。
ここよりちゃんとした家でご飯を食べれるようにね」
喜ぶ子供達に対し困った顔をするオルウェン。
「申し出は嬉しいのですが先日もお話しした通り、ここでおなじ境遇の同族を助けたいんです。
俺だけ残っては駄目でしょうか?」
「ああ、その話ね。
だから、選択肢をあげようと思うの。
まず一つ目はバーニシアに移住して学校で勉強した後、好きな仕事をして暮らす」
「もう一つの選択肢とは…?」
「もう一つはマリアちゃん直属のスパイになってもらうの!」
「スパイとは何でしょうか?」
「今、この国にはここの領主のような悪い人たちが沢山いるのは知ってるよね?
マリアちゃんが女王になって少しずつ改善に向かっているけど国土も広いし協力者が足りないんだよね。
そこで潜入技術を身に付けたスパイとして様々なところに潜り込んで情報を集める仕事だよ!」
ハーフは奴隷として様々な雑用係として沢山働いている。
ここにいる者であれば怪しまれずに潜入し内部の情報を入手出来るのだ。
「潜入して働くとなると危険が生じますね…」
「全くないとは言わないけど潜入に必要な技術と戦闘訓練は受けて貰って合格した人だけがなれる感じかな。
それに国が管理する斡旋所を作って定期的に勤め先の監査と健康チェックは行うから相手も下手に手を出せないはずだね」
「そこまでお考えとは…」
「近いうちには奴隷は全部登録制にして斡旋所からしか派遣されないようにするつもり。
どう、オルウェン君はそこで働いてみないかな?」
「喜んで働かせて頂きます!」
オルウェンは自分でも気付かないうちに涙を流していた。
生を受けてから今まで自分の全てを受け入れてくれ、人の優しさを貰ったのは初めてだった。
常に日陰に暮らし何もしてないのに忌み嫌われ、一晩でも安心して寝れたことはない。
それが安心と生き甲斐を与えて貰い心を奮わされた。
「マリアちゃん、まずはこの子達が住める場所を手配して希望を聞いてみよう。
それと育成所を作ってスパイの教育かな。
表向きはカモフラージュしないとね」
「うん、出る前にアンにお願いしておいたよ」
「そうだ、ちゃんと所属の名前も付けないと。
何がいいかなぁー」
「普通、そういう人たちを草って呼ぶんでしょ?」
「マリアちゃん、そんなんじゃ格好よくないよ。
そうだ、君たちは今日からモフモフ仮面
「「「えっ…?」」」
皆がダサいと思いつつ口に出せなかった。
恩人であり聖女であるタルトがどや顔で嬉しそうなのにそんな事は口が裂けても言えない。
翌日、子供達を手配した家へと移すと廃屋に廃屋に残された盗品を確認していた。
簡単に闇市場で換金出来そうなものはすでになく残されてるのは処分に困ったものばかりだ。
「どうしよっかー、これ?
元々は悪い人たちが持ってたものだし返す必要はないけど捨てるのもねー」
「そうだね。
じゃあ、盗品を兵がたまたま発見した事にして国の所有物にするっていうのはどうかな?」
「そうしよう、マリアちゃん!
さあて問題も解決したし帰らな…ん…これって?」
急に話すのをやめて何かをじっと見つめてるタルト。
不思議に思いマリアも覗き込むと見たことないレリーフが彫刻された石片であった。
「何を見てるの?
変わった彫刻が気になったとか?」
「えっとね…この彫刻に似たものを見たことがあるの。
古い遺跡でね、いくつかあって探してるんだけど場所が分からないの」
「そうなんだ。
誰から盗んだか聞いて入手先を調査してみようか!」
「お願いできるかな?」
「タルトちゃんにはいつも助けて貰ってばかりだからこれくらい任せてね!
だから、分かるまで数日だと思うからもうちょっと滞在して欲しいな」
「それくらいなら大丈夫だよ!
何かヒントでも分かると良いんだけどなー」
こうして城へ戻り数日を過ごした。
オルウェンやメリーの様子を見にいきリーシャ達も含めて皆で遊んで楽しい日々はあっという間に過ぎ去っていく。
夕方、城に戻るとマリアに呼ばれ一緒にお茶をしながら調査結果を聞くことになった。
「タルトちゃんが気になっていた石片だけど売り主を辿っていったら最初がケントの商人だって分かったよ」
「ケントって七国連合のひとつで確か…農業が盛んな国だよね?
国王様は優しいお爺ちゃんだったなー」
「バートン様に面識があるの!?
まあ、聖女様だし当然か…。
私の小さいときにお会いして色々と教えて頂いたの」
「それで遺跡がケントにあるの?」
「ええ、商人の話だと大きい湖のほとりで石片が発見されたんだって。
だから、その付近にあるのだと思うけど」
「ふぅん、良し、ケントに行って国王様に何か知ってるか聞いてみる!」
「うん、気を付けてね」
「ありがとう、マリアちゃん。
また近いうちに遊びにくるねー!」
こうしてタルトはウェスト・アングリア王国を後にしてケントへ向かうのであった。
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