第160話 反撃の狼煙

また、場所は移りアルマール。

ティート軍から奪い取った出城にて酒盛りをするカルヴァン軍の獣人達。

昼間の戦闘で圧勝したの相まって意気揚々と盛り上がりをみせている。


「昼間の奴らは雑魚しかいなかったな。

数回、武器を交えただけですぐに逃げていきやがった!」

「全くだぜ!

大悪魔を倒した聖女がいるって聞いたがビビって逃げたんじゃねえか」

「ご丁寧にこんないっぱい酒を置いてる所をみると勝つつもりでいたんだろぜ!」

「はははっ!

あれでどうやって勝つつもりだったんだろうなあ!」


すっかり酔っ払った獣人達は我先にと置いてあった酒を浴びるように飲んでいる。

だが、そこは精鋭であり見張りを立て夜襲に備えている。

まあ、攻めてきても昼間のように蹴散らす自信があったので見張り達も少し飲んでいた。


そんな城の周囲にある暗い森に潜む者達がいた。


「頃合いだ。

タイミングを合わせていくぞ」


小声で指示を出すと伝令が闇へと消えていく。

また、ある者は透明の液体を地面に埋められた管へと流し入れている。

その管は地中を通り城を取り囲んでいる堀へと繋がっていた。


「構え」


その合図と共に横にずらーっと何処までも並んでいる弓隊が一斉に上空へ向けて構えた。


「火を付けて放て」


弓兵の横にいる者が矢の先に火を付けると同時に放たれ、まるで火の玉の雨が城へと降り注いだ。

見張りが火を確認したときには既に遅く火矢が当たったところが勢いよく燃え始める。

先程、堀に流したのは濃度の高いアルコールであり、城の木材にもたっぷりと油が染み込ませて一瞬で城が火の海に包まれた。

この火計がティアナが提案し悲惨過ぎるからタルトが没にした策である。

わざと戦に負けて撤退し敵に城を奪わせておく。

予め燃え盛るように細工し夜襲で一気に火をつけ敵の戦力を削ぐのだ。

用意した大量の酒は酔わせるだけでなく細工の油の臭いを誤魔化す為でもあった。


「よし撃って出るぞ!!

城から出てくる者を叩け!!」


炎に照らされて号令を掛けるのはティートである。

火の海と化した城から熱さに耐えきれず獣人達が飛び出してくるが、すぐ外で待機しているティート軍に討ち取られていく。

酔っぱらい火傷を負った敵兵は経験の浅いティート兵でも充分に勝てるレベルだ。


「深追いは無用だ!

予定通りの戦果に達したから撤退するぞ!!」


最初ほどの勢いがなくなり炎が少しずつ鎮火し始めたのを確認し、すぐさま撤退命令を出し戦線から脱出する。

その動きは速く何回も繰り返し訓練された兵達は迷いなく走り出す。

火の勢いが衰えたのに併せ、城の壁が勢いよく破壊され怒りに満ちた獣人達が飛び出してきた。


「雑魚がああ!!!

調子に乗りやがってえええええええ!!!!」


カルヴァンの怒りは絶頂に達していた。

過去、幾度も出撃した戦でも、こんな被害を出したのは初めてだ。

しかも相手はかなり格下であり、まともにぶつかり合えば楽勝な雑魚ばかりなのにだ。


「貴様らあああ!!

地獄の果てまでも追いかけるぞっ、舐めたことを後悔させてやる!」


あまりの気迫に生きた心地がしない部下達はその場からすぐに離れたい気持ちもありティート軍の逃げた方向へ走り出す。

酒と煙によって嗅覚がだいぶ落ちているが何とか先を行くティート軍の後を付けていく。


その追跡劇は一時間ほど続き丁度、森と森の切れ目で出た。

地面が土から砂利に変わっているが獣人達は全く気にせず追跡を続ける。

だが、行く手に不思議な光景が広がり一斉に足を止めた。

そこには横に等間隔で並んでいる提灯がぶら下がっている。

不気味なのはその数でどこまで続いているのか見えないほどだ。

夜明けも近いのか空が少し明るくなり始めている。

丁度、進行方向の先に提灯が密集している箇所があり一人の少女が見えた。


「やっと来たカ。

あまりにも遅いからビビって逃げ帰ったかと思ったゼ!」


そう、そこにいるのはカルンだ。


「何だ貴様は?

悪魔といえどこの数が相手じゃ分が悪かろう?」


カルヴァンが進み出て笑みを浮かべて佇んでいる悪魔に尋ねた。


「ハア?

このカルン様が分が悪いダト?」

「カルン…?

確か悪魔にも関わらず人間に与する恥知らずだな」

「宗旨替えしたんダヨ。

マア、雑魚の相手は疲れるから今日は退いてヤルゼ」


特に何もせず立ち去ろうとするカルン。


「そうそうこれやるヨ!」


横に立っている提灯を倒すと地面に油が撒いてあり火の壁が立ち塞がる。


「この程度の炎が通れないとでも?」


獣人にとってこの程度の炎は何でもない。

寧ろ悪魔であるカルンも知らぬはずはないのに、その行為の意味が全く不明で不気味であった。


「こんなんで止まらないのは想定済みダゼ。

ところで泳ぐのは好きカ?」

「どういう意味だ…?」

「サアナー、自分で考えナ。

もし、また会えたら相手してやるゼ!」


そのまま空中に飛び去ってしまうカルン。

カルヴァンはその場でカルンの言葉の意味を考える。


「悪魔が何もせず立ち去るはずはない…」


ふと足元に目がいった。

足元にある無数の石は丸石ばかりである。

それを見た瞬間、恐ろしい想像をしてしまう。


「全軍、急ぎ正面に見える森まで走れ!!

脇目も降らずとにかく走れええ!!!!」


カルヴァンの突然の命令に戸惑いを見せながらもとにかく夢中で走り出した。

それと同時に地響きかと思う轟音が聞こえてくる。

その正体は考える暇もなくすぐに分かった。

右手から岩石や木材を巻き込んだ濁流が凄い勢いで迫ってくる。

カルヴァン達が立っていたのは普段、川底であり上流で塞き止めたことで干上がっていたのだ。

カルンが提灯を倒したのが合図となり堰を壊し、はち切れんばかりに溜まった水が一気に攻めよしたのだった。

獣人達は武器も投げ捨て必死に走り森のある高台へと急いだが、逃げ切れたのは半分ほどだった。

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