第157話 囚われた聖女

アルマールの各地で激戦が始まった頃、ここはウェスト・アングリア王国の王城。

案内されるがままに気付かず牢屋に閉じ込められたタルト。

そこにはオスワルドとティアナの姿もあったので問い詰める。


「どうして何ですかっ!?

何で捕まらなきゃいけないんです!

どうしよう、どうしよう!

取り敢えずここを破壊して外に出ます?」

「まあ、落ち着けタルト。

騒ぎを起こしては余計な疑いを持たれるぞ」

「そ、そうですね…」

「それで…どんな事をやらかしたんだ?

怒らないから素直に白状してくれ」

「えっ!?

私が何かした前提ですか!?」

「ワタシやオスワルドが問題を起こすとは思えないしな。

タルトは他国の王を殴るという前科があるからな」

「うぅ…言い返せないですぅ…。

でも、今回は何もしてないですよぉ…」

「意識はしてなくても何か罪になるような事をしたんじゃないのか?」

「えぇ…何かあったかなぁ…。

いやー、何もないですよー」


首をかしげて頑張って思い出そうとするが全く思い当たることがなかった。

そこに鉄格子の向こうに見覚えのある人影が見えた。


「聖女様、大丈夫でございますか?」


それはマティルダであった。


「マティルダさん、何で私達ここに入ってるんですか?

もし知ってるなら教えてください」

「実は…ある領主の土地で盗賊がおりまして…」

「盗賊?

それと何の関係が?」

「ええ、それがモフモフ仮面と名乗り聖女様と背格好や髪型が似ていたそうで…」

「へ、へえぇ…世の中には似た人が三人はいるらしいですからね…」


完全に目をそらし気まずそうなタルト。

ティアナも頭を抱えている。


「ですが、ご安心ください。

明日の夜には出られると思われます。

戴冠式の為に厳戒体制となっており、疑わしきは勾留せよと命令なのです」

「それじゃ遅いですよ!

戴冠式に出たいんですけど!」

「それは…ここを出られても難しいと思います。

戴冠式はごく一部の者だけで執り行われますから外部の聖女様が参加するのは…」

「何とかならないんですか!?」

「そう言われても…。

どうしてそんなの参加されたいんですか?」

「それは…。

マリアちゃん、じゃなくてマリア王女が身の危険を感じているんです。

戴冠式は人目も少なく危険だと思うんですよ」

「戴冠式には護衛の兵もおりますし、ゴート公爵も同行されます。

危険はないんじゃないでしょうか?」


タルトは言いにくそうに下を向いてしまう。


「その…ゴート公爵が怪しいとも言ってまして…」

「そういうことですか…。

確かに強い動機になりますね…」

「だから、私が守らないと!」

「何とか掛け合ってみます。

それが駄目でもマリア様に味方してくれる兵を連れて私が救援に向かいます」

「ぜひお願いします!」

「聖女様はこれ以上、騒ぎを起こさないように静かにここでお待ちください」


マティルダは慌てて去っていった。

それを見届けタルトが振り返るとティアナが何か言いたそうな顔をしている。


「大変申し訳ございませんでした」


すっと正座から土下座をするタルト。


「はぁ…原因はやっぱりお前だったか。

まあ、それをとやかく言うつもりはない。

あの時は悪くない対応だったと思うしな」

「ティアナさん!」

「それはいいとしてさっきの話はどういうことだ?」


ティアナとオスワルドにとって王女暗殺の事は初耳であり、とても看過出来る話ではない。

昨夜の出来事を二人に簡潔に説明を行った。


「どうしてこう人間とは権力や金などに執着するのだ?

全く理解できんよ」

「言葉もありません…。

同じ人間として恥ずかしい限りです」

「オスワルドさんは何も悪くないですよ。

それに私だって人間ですよー」

「聖女様は気高い精神をお持ちです。

私など聖女様に出会わなければ同じような事をしていたはずです」

「いや…そんな私はそんな尊敬されるような人物じゃ…。

そんなことよりもマリアちゃんですよ!」

「そう…ですね。

そんな悲劇を起こさせる訳にはいきません!」

「だが、どうするんだ?

ここから逃げ出すのは可能だろうが罪を認めたようなものだぞ。

王女は助かってもワタシ等は牢獄行きだな」

「王女を助けたら見逃してくれませんかね?」

「それとこれとは別だろうな。

王女といえど法には従う必要はある。

それをねじ曲げては法治国家とは言えまい」


その場に沈黙が流れる。


「取り敢えずマティルダさんを待ちましょう。

無理に突破せずとも出してくれるかもしれませんし」

「まあ、そうだな。

強行突破は最後まで保留だ。

マティルダが手配した護衛だけでも充分かもしれんな」

「流石に多数の目撃者がいれば下手な事はしないかもしれませんね。

聖女様、今日はゆっくり休んで明日に備えましょう」

「うん、そうですね。

私がちゃんと守るからね、マリアちゃん…」


こうして地下牢での夜は更けていく。


翌朝、日が射さないが兵士が交代したり朝食を食べてるのをみると朝だと辛うじて分かった。

何もすることなくボケ~っとまっているとマティルダがやって来た。


「おはようございます、聖女様。

朝食をお持ちしました」

「おはようございます、マティルダさん!

出れそうな感じですか?」

「夕方くらいには出してあげられそうですが、それでは間に合いません。

何人か信頼の出来る兵士に声をかけ先程、出発したマリア様を追いかけようと思います」

「そうですか…」

「今日は私にお任せ頂いて明日以降はお願いできないでしょうか?」

「何としても夕方までお願いしますね!

その後は私が絶対に守りますから!」

「はい、この命に代えましても!

では、急ぎ追いかけますのでこれにて失礼します」


昨夜と同様に慌てて出ていくマティルダ。


「取り敢えずご飯を食べましょう!

腹が減っては戦は出来ませんよ!」

「そうですね。

聖女様はよく食べられますからな」

「むぅー、しょうがないんですぅ。

魔力を消費したらお腹が空くんですから」

「さっさと食べて策を練ろうじゃないか。

穏便に済ます方法をな」


三人は黙々と食べ物を胃に流し込んだ。

お腹も満たされ作戦会議に入ろうとした瞬間、急激な眠気に襲われる。


「まさか…ここまで敵の手が…のびてるとは…」


オスワルドは耐えきれず、そのまま倒れ込む。

ティアナとタルトもその場で横になり眠り込んでいた。


「聖女といってもこの程度か。

事が終わるまでここで寝てるんだな」


様子を見ていた兵士がそう言い残すと立ち去っていった。


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