第146話 暴動

翌朝、寝るのが遅かったタルトは外の喧騒にて目を覚ました。

居間へ降りていくとオスワルドとティアナが外の様子を眺めている。

外には村人が集まって何か揉めているようだ。


「おはようございます。

騒がしいですけど何かあったんですか?」

「おはようございます、タルト様。

詳しくは分かりませんが街から来た者と村人が何か揉めているようです」

「少しだけ聞き取れたが、どうも理不尽な要求を求めているようだ。

リカルドが戻ってきたら詳しく聞いてみようじゃないか」


暫くその様子を眺めていると解散したのかリカルドが暗い顔をして戻ってきた。


「おぉ…お嬢ちゃんも起きたのか…」

「おじいさん、何かあったんですか?」

「街から使いが来てのう…今でさえ少ないのに取水量を減らすと言ってきおった。

このままでは税を納めるどころか食べるものも失くなってしまうわい」


リカルドは悲痛な顔をして更にシワが増え年取ったようにみえる。


「どうしてそんなことをするんですか…?

村の人の生活が滅茶苦茶じゃないですか…」

「そんなもんはワシらには分からん。

あの商人は人の顔をした悪魔じゃよ…」

「どうするつもりなんですか…?」

「今は分からん…今晩、集会所で集まる予定だ。

激しく反発する者も多いから街へ一揆を起こしかねない雰囲気だ…」

「でも、私兵をいっぱい雇ってるんですよね…?

一揆なんてしたら怪我しちゃうし下手したら死んじゃいますよ」

「出来る限り今夜の集会で他に手がないか話し合ってみるつもりだ。

じゃが、作物は水がないと育たん。

生活が出来なくなっては村の存続に関わるのだ。

いかに悪どい商人とはいえ、そこまではしないと思うのだが…」

「あのぅ…少しここに滞在しても良いですか?

これからどうなるのかが気になりますし…。

もちろん何が出きる訳じゃないんですけど」

「ああ、好きなだけいるがいい。

たまには誰かと一緒にいると楽しいもんだ。

時間がある時にでも旅の話を聞かせてくれ」

「ありがとうございます!

私もそんなの見聞は広くないですが色々とお話ししたいです」

「それは楽しみじゃな。

ワシは少し畑に行ってくるから好きに過ごしてくれ。

日が暮れるまでには戻ってくるわい」

「体調に気をつけてくださいねー。

ご飯を作って待ってます!」


リカルドは道具を抱えて畑に向けて街道を進んでいった。

残されたタルト達は今まで話せなかった相談を始めた。


「オスワルドさん、ティアナさん。

やっぱり何とか出来ないでしょうか?」

「ここはウェスト・アングリア王国の一部ですからね…聖女様の威光も届かないでしょう。

ここの領主が解決するのが望ましいですが無能なようですから期待は出来ないでしょう。

下手な内政干渉は国家間の問題になりかねませんから慎重に行動を考えましょう」

「人間とは欲深いものだな。

エルフのように森で静かに暮らせないものなのか?」

「返す言葉もありません…ですが、一部のものだけなのは理解頂きたいです」

「確かにタルトのように底抜けの馬鹿正直もいるからな」

「馬鹿とは何ですか!

私はお金より大切なものがあると思ってるだけですもん」

「みな聖女様のようにはなれません。

お恥ずかしいながら昔の私もそっち側の人間だったのは間違いございません…」


オスワルドが言うことも理解できるので無理に力業で解決するのは気が引けた。

特に国家間の問題にでもなれば沢山の人に迷惑をかけてしまう。

ディアラの二の舞は起こさないよう反省はしてるのだ。


「とりあえず今夜、集会があるようですから見守るので如何でしょう?

村人だけで解決できるのが一番望ましいと思うのですが」

「そう…ですね。

もう少し様子をみましょうか」


この日の昼間は村の様子を見て回った。

どこを見ても憂鬱な雰囲気でやる気がないか気が立っているかのどちらかであった。

畑も荒れてる箇所をよく見かけ末期な状態なのが素人でも分かる。

やがて、日が傾きかけた頃、リカルドが畑から帰ると食事を素早く済ませ集会所へと向かって行った。

すっかり夜も更け居間でリカルドの帰りを待っていると少し落ち着いた様子で戻ってくる。


「お帰りなさい、リカルドさん。

話し合いはどうでしたか?」

「一応、代表者が街へ話し合いしに行くことで決まったわい。

これで終われば良いのだが…」

「そうですね、商人さんもやりすぎたと思ってくれますよ!」


翌日、村長を含めた数人が街へと取水量を元に戻してくれるようにお願いに向かった。

夕方に戻ってきたが出発の時より険しい顔つきで帰ってきた事で懇願が失敗したのが分かる。

その夜、集会所には多数の村人が集まっていた。

タルト達も人混みに紛れて会話の聞き耳を立てる。

人々は怒号をあげ一揆を訴えている。

穏健派と思われる数人が必死に訴えているが、とても止められる勢いではない。

やがて、武器となりそうな物を手に取り松明を掲げ叫んでいた。

村の出口で街へ向かおうとする暴徒を数人で止めようとしているが時間の問題だろう。

風雲急を告げる事態となっていった。

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