第132話 招待状

「何の招待状ですか?」


封筒を開けながらパーシィに聞いてみる。


「そうだねー、天国か地獄への通行券さー」

「何だか不吉ですね…どれどれ…」


封筒には一通の手紙が入っており、自然と手紙を読むタルトに視線が集まる。


「聖女様、手紙には何と書かれているのでしょう?」

「ちょっと待ってください、オスワルドさん。

えーっと、簡単にいうと大悪魔カドモス討伐をした私にぜひお会いしたいって書いてあります」

「誰がですか?」

「ウェスト・アングリア王国って書いてありますよ。

これって何処でしたっけ?」

「何ですとっ!?

ウェスト・アングリア王国といえば七国連合の西方にある大国です!

人間の国としては最大の国力を持っています…。

パーシィ殿、これをどうして貴方がお持ちなのですか?」


驚愕したオスワルドがパーシィに疑問をぶつける。


「それがねー、そこの王が大悪魔討伐という偉業を成し遂げた聖女様を招きたいと言ってるらしくてねー。

こんな辺境の素性が知れない者は危ないと止められたようで、教会にタルトちゃんの調査を依頼されたのさー。

それで俺っちが派遣され問題ない人物なら招待状を渡す手筈なのさー。

ただ、一応教義に反した実情があったから戦う形になっちゃったけど、信頼に足る人物だと判断できたしねー」

「それなら話し合いだけでもいいじゃないですかー」

「言葉ではいくらでも誤魔化せるからねー。

それに大悪魔を倒した実力は見極める必要もあったのさー」

「それでウェスト・アングリア王国に行けば良いんですね?」

「ちょっと待ってください、聖女様。

パーシィ殿、これは危険を伴うのではないですか?

本当にただ会いたくて招待状を出したのでしょうか?」


オスワルドの質問に目を閉じて考えるパーシィ。


「そうだねぇ…ただ会って祝辞を述べたい気持ちは間違いなくあるだろうねー。

でも、獣人や悪魔と仲良くしてるのがバレたら危険分子と判断されるかもねー」

「それでは行かないとどうなりますか?」

「王命に近いから拒否すると今後、どんな事になるか分からないねー。

ここバーニシアにも迷惑かけるかもよー」

「では、招待を受けて何事もなく穏便に済ますのが最善という事でしょうか?」

「まあ、そうなるだろうねー」

「どうされますか、聖女様?」

「もちろん招待は受けましょう。

同行者も選抜して軽く挨拶だけしてくるだけなら問題ないんじゃないかな?

パーシィさん達に付いていけば良いんですか?」

「俺っちは先に戻って今回の報告しないとねー。

問題なかった事と招待を受ける事を伝えて来るので、後日に詳細が書かれた正式な招待状が届くはずだよー」

「分かりました、それが届いたら向かうようにしますね」


こうしてパーシィとエトワルの二人はアルマールを立ち、教会へと戻っていった。

今回の出来事でアルマールは以外と敵に囲まれている危うい状態だと気付かされたのであった。

闇の勢力以外にも教会や大国、天使など攻撃される可能性があるのを思い出した形だ。

財政状態も豊かで移住者も増えてきてることから正式に兵の募集を行い、軍を編成することにした。

武芸だけでなく学者や一芸に秀でた者も積極的に採用していった。

あっという間にバーニシアの兵力を上回る軍隊へと変貌していくので、大臣のゼノンと相談し国軍の肩書きと駐屯地という扱いで表向きのカモフラージュとした。

勿論、バーニシアに危機が迫れば速やかに救助に向かうのは言うまでもない。


部隊は大きく5つに分割することにした。

最初にハンターや自警団だったものから成る近衛兵で、主に街の防衛を担当している。

相手が魔物であれば弩弓を用い、重装備兵を調練し鉄壁な防御力を誇った。

次に魔法が得意な魔法師団である。

各部隊の補助として同行し戦いをサポートするのだ。

三番目が衛生部隊である。

これも他の部隊に同行し負傷者の救護を担当することで生存率がかなり上昇するのだ。

四番目がティート率いる獣人部隊だ。

人間を上回る身体能力給を活かし、戦場を遊撃部隊として駆け回る最大の戦力である。

最後が鬼族で編成された部隊である。

何かしらの理由で里を追われ、桜華を頼ってきた者で数は少ないが個々の戦闘力は他を圧倒している。

この軍編成を進言したティアナが軍師となる。

最近はタルトが渡した兵法書にはまっていて、期待の新軍師であった。

オスワルドを総大将とし全体の指揮を取らせる。

また、タルトの直下にシトリー達を置き、対強敵への対応や各部隊の支援を行う。

まだ、編成したてで軍と呼ぶには尚早であるが、日々の鍛練にて少しずつ形になってきていた。


パーシィ達も馬での移動であるため、帰国するには暫く掛かるようであり、ウェスト・アングリア王国からの正式な招待状はまだ届いていなかった。

皆は編成された部隊の指導で忙しく朝からほとんど出払っていた。

タルトはリーシャ達と部屋でのんびりしているとオスワルドが訪ねてきた。


「聖女様、おはようございます。

少し宜しいでしょうか?」

「おはようございます!

のんびりしてただけなので大丈夫ですよー」

「少し気になる情報がありまして。

旧フランク王国の城跡を調査していた部隊からですが、地下にかなり古い遺跡の入り口が見つかりました」


カドモスが支配していた城跡を最前線の拠点とするために調査と整備を行う部隊を派遣していた。

城自体はとても綺麗に保存されており、調査を優先として行っていたのだ。


「以前、領地内にあった遺跡を覚えていますでしょうか?」

「地下で精霊と出会った場所ですよね?」

「ええ、そうです。

どうやら報告にある遺跡の様子がとても似ているそうなのです。

前回と同様に強い魔物がいるかもしれませんので奥まで入ることは禁じています」

「もしかしたら奥に精霊がいるかもしれませんね!

よおし、今から遺跡探検に向かいましょう!!」

「大変、申し訳にくいのですが、軍の編成で同行が出来ないのです…」

「そうですかー、リーシャちゃん達も学校もあるし危ないから留守番しててね。

ちょっと誰かいないか声を掛けてこようかな」


タルトは自分の準備を済ませ部屋を出て、他のメンバーを勧誘に向かった。

まずは調練場へ行くとティートとノルンが兵の指導をしている。


「ティートくーん、ノルンさーん!

調子はどうですかー?」

「これはタルト様!!

以前より人数も増えて大部隊となっております。

皆、やる気に満ちて真剣に取り組んでいますよ!」

「それはこちらも同じだな。

タルト殿を慕って来た者が多く、ここで働くことに遣り甲斐を感じているようだ。

ただ、素人やハンター上がりが多く、個々の技術差や部隊としての連携が全然駄目だな。

まだまだ時間が掛かりそうだ」

「お忙しそうですねぇ…。

この調子で頑張ってくださいね!」


何だか忙しそうで声を掛けづらく誤魔化すことにして、足早に立ち去る。

次に向かったのは学校だ。

ここでは弩の作成や薬の精製を行っているのだが、リリスとカルンも指導に忙しそうで声をかけそびれてしまった。


「あれっ?私ってもしかして暇人…?」


一人だけ時間が空いてることに罪悪感を感じながらトボトボと街に戻ってくる。

寂しさを覚えながら自然とエグバートの店に足が向いていた。

何気なく店に入るとそこには馴染みの顔があった。


「どうした、タルト?

元気がねえなあ、こっち来て一緒に飲むか?」


いつものように明るい性格の桜華を見て、少し元気になったタルトであった。


「もぅ…私はまだ飲めませんよ。

桜華さんはお一人ですか?」

「ああ、みんな忙しそうだからな!

うちは軍とは関係ねえから一人で寛いでたのさ」

「良ければ一緒に遺跡探検しませんか?

みんな忙しそうで困ってたんです…」

「何だか楽しそうだなあ!

いよおし、すぐに行こうぜ!」


こうして桜華と合流し旧フランク王国の城跡に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る