第131話 事情
タルトは勢いよく店のドアを開ける。
「エグバートさぁーん、奥の部屋を借りますねー!!」
「おいおい嬢ちゃん。
くれぐれも店を壊さないでくれよお」
「大丈夫ですって!
話をするだけですから、さあ奥に行きましょ…」
タルトが振り返るとパーシィがモニカに迫っていた。
「お嬢さん、店が終わったら食事でも…ふべっ!!」
パーシィの頭にステッキが振り下ろされ直撃した。
そのまま引きずられていくパーシィ。
たんこぶが出来て不満そうなパーシィを含め、一同が席に着いた。
お茶を持ってきたメイド姿のハーフの女の子にちょっかいを出そうとしてタルトに睨まれるパーシィ。
「タルトちゃんはつれないなー。
可愛い娘を見かけたら声を掛けなきゃ失礼でしょー。
あっ、もしかして嫉妬かなぁ?」
「いっぺん死ななきゃ治らないようですね…」
「タルトさん、落ち着いてくださいっす!
殺したい気持ちは分かりますけど、これ以上殴ったら本当に死んじゃうっす!」
「気持ち分かっちゃうんだねぇ…」
タルトを抑えるエトワルにちゃちゃをいれるパーシィ。
「ふーっ、ふーっ、しょうがないから始めましょうか…」
「タルト殿も落ち着いた事だし事情を聞かせて貰おうか?」
息の荒いタルトに代わりノルンが質問する。
「りょーかい、タルトちゃんに殺されないように真面目に答えようかねー。
教会の説明は今さら不要だね?
少し前からこの街とタルトちゃんの噂が届くようになってねー。
過去にもそういう人物は現れたらしいけど実現した事例はないからほっといたんだけど、最近の大悪魔まで倒す実力は危険視されてねー。
それで実際に見聞するために派遣されたわけさぁー」
「もし危険だと判断したらどうするのだ?」
「それは即、抹殺しろと命を受けてるよー」
「つまり教会としてこの街は危険と判断したと受け取って良いのか?」
真剣な顔でノルンは問い詰める。
「天使のお姉さんは怖いねー。
まあ教義に従えばそういう判断になるんだよね。
だから、闘いを挑んだけどあっさり負けたんだなー」
「で、どうするのだ?
全面戦争を望むのか?」
「まっさかー!無駄に血は流したくないなー。
俺っちは平和主義者だよ」
「でも、どうするんすか?
このまま帰って説明しても許して貰えないっすよ」
エトワルの疑問は当然だ。
教義に反するこの街の現状は教会として放置できないのだ。
そのまま説明すれば大規模な討伐隊が派遣されかねないだろう。
「あぁー、それねー。
報告としては問題なしと言おうと思うんだよねー」
「それって虚偽報告じゃないっすか!?
バレたら只じゃ済まないっすよ!」
「ほう、何と報告するのだ?」
「そうだねー、大悪魔には偶然勝利しただけで聖女と呼ばれる少女はエトワルより弱かったと。
それに獣人も待遇の良い奴隷で人間と関係が良好だったというのはどうかなー?」
「えー!リーシャちゃんは奴隷じゃないですよー!
可愛い妹なんですから!」
奴隷という言葉に反応するタルト。
「うん、それはよく伝わったよー。
ただ、無駄な争いをしないための嘘だと思って欲しいんだよね」
「うぅ…嘘ですかぁ…どうしてそんなに嫌うんでしょう…?」
「長い戦争でね、家族を殺された人も沢山いるんだよー。
そんな簡単に割りきれないし信じてくれないかなー」
「そうだな…パーシィの言う通りだろう。
タルト殿の考えが新登場するには時間が掛かるのだろう。
だが、そのうち嘘だと気付かれるのではないかな?」
「だろうねー。
直ぐではないけど、いつかはバレるね。
だから、あまり目立つことはしないでねー」
「でもバレたらパーシィさん達が酷い目に会うんじゃないんですか?
どうしてそこまで…」
タルトはさっきまで戦っていた相手だが、本気で心配そうな顔をしている。
「やっぱりタルトちゃんは良い娘だねー。
初対面の俺っち達をそんなに心配してくれて。
まあ、簡単にいうと信じてみたくなったのさー。
この街を作り上げた可愛い聖女様をねー。
あっ、バレたらここに避難するから受け入れ、よろー。
ここは可愛い女の子が一杯で良いよねー」
「えっ!?
僕はどうすれば良いんすか!?」
「自分の好きなようにしなー。
俺っちに罪を擦り付けても良いし、付いてくるも良いしねー」
エトワルは気まずそうにタルトの方を見る。
「安心してください!
望むなら誰でも受け入れるのがアルマールです!
あっ、でも、差別したり誰かを傷付ける人はお断りですよー」
「さっきはごめんなさいっす…。
まだ、少し混乱してるっすけど理解できたっすよ…。
少なくてもここにいる人達は信じるっす」
敵対関係にならずホッとするタルト。
「それでお二人はこれからどうするんですか?
良ければゆっくりと街の様子を見て観光していってくださいね」
「実は既に数日は滞在してるんだよねー。
あまり帰りが遅いと斥候が派遣されちゃうかもしれないから、そろそろ引き上げないとね」
「そうなんですか、残念ですね…。
時間をかけてゆっくり知って貰いたかったんですけど…」
「タルトちゃんの事かい?
それなら、可愛さが十分に伝わったよー。
確かにお互いの事を理解するには時間が必要だよね!」
「ち・が・い・ま・す!!!
知って欲しいのはこの街の事です!」
「ははは、冗談だってー。
お詫びにこれをあげるよ」
パーシィは胸ポケットから一通の封筒を取り出して机の上に置いた。
その封筒は高級な紙が使われており、しっかりと蝋で封がされている。
蝋にはしっかりと紋様が浮き出ており、今まで見たことないものであった。
宛名などが一切、書かれていない封筒を持ち上げマジマジと観察するタルト。
「これは…?」
「これは招待状さー」
タルトの質問に笑顔で答えるパーシィであった。
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