第124話 大悪魔の末路
「きゃっ!」
タルトはその場に尻餅をつき、舞い散る血しぶきを見た。
カドモスの胸に真っ赤な手が生えているようである。
「ゴフッ…シトリー…貴様ァ…」
「アラ、ワタクシは最初から貴方を信じた事はありマセンワ。
それにこういう汚れ仕事はタルト様に似合いませんモノ」
「お前は…何時でも気高かったナ…ずっと…配下に欲し…カッタ…」
「ワタクシはずっと貴方の事が嫌いデシタワ」
「フッ…どうせ…死ぬ身ダ…一つ教えてヤロウ…。
この城を…襲ったのは…命令に従ったに過ぎヌ…」
「誰の命令デスノ?貴方が従うとすれば王くらいシカ…」
「もっと…上ダ…」
「更に上っテ!?」
「…」
既に返事が出来ない事を悟る。
ずるっと腕を引き抜きカドモスを見下すシトリー。
「大変っ、すぐに治癒魔法を!!」
「タルト様、もう息絶えてマスワ。
この男に相応しい惨めな最後デス」
「そんな…どうして誰かが死なないといけないの…?」
「タルト様は純粋ですからお分かりにならないかも知れませんが、世の中には救いようのないクズがいるのデスワ」
「そうなのかな…他に手段はなかったのかな…?」
カドモスの遺体を見つめ自問するタルト。
「聖女様、これは向こうから仕掛けた戦争です。
自衛したに過ぎませんし、戦争では被害は出るものです」
「オスワルドさん…」
「聖女様、それよりもアルマールに急いで戻りましょう。
奴の話では悪魔が襲撃しているはずです」
「…そうだね。
まずはみんなを守らなくちゃ!
この人をせめて埋めてあげようか?」
シトリーが指をパチンと鳴らすとカドモスは業火に包まれた。
「タルト様の御慈悲として、これで弔いとしまショウ。
後には灰のみが残りマスワ」
「ありがとう、シトリーさん…。
よし、街へと帰ろう!」
タルト達はその場を立ち去り、急ぎアルマールへ向けて飛び立っていった。
時は少し遡りタルト達がアルマールを出て暫く経ち、日が落ちた頃の事である。
アルマールでは家路を急ぐ人もまばらになり、家々の窓には暖かい明かりが灯っている。
城門の前に立ち雪恋はその光景を見つめていた。
「なんと平和な光景なのだろう。
今、この街を守れるのは私めだけなのだ。
気合いをいれて死守しなければ託して頂いたタルト様に申し訳ない」
腰にぶら下げた小太刀を抜き刀身を確認する。
日頃から手入れは怠らず、淡い光を放っているようにも見える。
「それにしてもタルト様はご無事であろうか?
相手は最上位の悪魔と聞く。
いや…タルト様がいるのだ、負けることなどあり得ない。
心配するなど恐れ多いことか…」
雪恋は小太刀を鞘に納め、周囲を見回す。
日は落ち周辺の森はうっそうとした暗闇であるが鬼族である雪恋には問題なく視認できる。
その目に旧フランク王国方面の空から複数の飛行体を捉えた。
「来たか…数は…三十くらいか」
段々と近づくにつれ飛行体が悪魔の一団であるのがはっきりと見えた。
相手も雪恋の姿を見つけたのか目の前に降り立った。
「オイ、こいつ一人しかいねえゾ!」
「カドモス様のおっしゃる通り警備が薄いみたいダナ」
「さっさとコイツを片付けて街を破壊しヨウゼ!」
いきり立つ悪魔達を前に雪恋は落ち着いていた。
「やはりカドモスの差し金か。
ご託はいい、掛かってくるがいい」
この一言に悪魔達の怒りが爆発した。
「お前一人で何が出来るって言うんダ?
さっさと死にやがレ!!」
痺れを切らした一人の悪魔が雪恋に襲い掛かるが、スーッとする抜けるように躱された。
「テメエ、逃げるんじゃ…あれ…?
景色が…」
すり抜ける際に首を切断していたのだが、太刀筋どころか抜刀も見えなかった悪魔達は驚愕した。
「さあ、次の者は誰だ?
一斉に掛かってきても構いませんよ」
さっきまでの威勢が消え文句を言い出す始末である。
「こんな強いヤツが残ってるなんて聞いてネエゾ!」
「オイ、誰かアイツをどうにかシロヨ!」
「ウルセエ!
お前が行けヨ!」
元々、寄せ集めで自己中心的な悪魔が連携を取るなんてまずあり得ない。
上位の存在であるカドモスに恐怖により支配され従っているに過ぎないのだ。
ここにいるのは元人間の第三階級の悪魔で構成され、人間時代も悪事を犯す者達なのである。
「マア待て。
カドモス様は街を破壊し住民を殺せと仰っていたノダ。
コイツは無視して街へと行けばいいんじゃネエカ?」
「そうだナ、コイツは鬼族だから飛べねえンダ。
制空権を持ってる俺達の追い付ける訳がネエ」
雪恋を無視して次々と飛び立つ悪魔達。
彼らにとって高い城壁など無意味であり、上空から遠距離攻撃も可能である。
しかし、雪恋には飛行不可のため街を防衛するのは難しい状況であった。
「何て事だ!私めが飛べないばかりに…。
急ぎ街へ戻り一人でも多く守らなくては!!
くっ…せめて遠距離への攻撃手段は身に付けなくては…」
自分の頭上を抜かれ街へと侵入しようとしている悪魔達を必死に追いかけ始める。
だが、今まさに悪魔達が城壁へと迫っていた。
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