第109話 輪廻

九尾の狐との戦闘は一時休戦され、予想外の展開で会話が始まった。

念のため、戦闘フォームは維持してある。


(先程から見るにそなたは妾が傷つかぬよう手加減しておったな?)

(そうです、まさか会話できると思わなくて…。

強さを見せつけて大人しくしてもらおうかと)

(ほう、何故そのような事をする?

妾を従属させたかったのか?)

(そういんじゃなくて…この先の里で定期的に生け贄の習慣があると聞いてやめさせようと思ったんです)

(それでは何故、妾を殺そうとせなんだ?)

(あなたは神獣として信仰の対象なんです。

そんなことをすれば里の人が怒っちゃいますし、出来れば私も生き物は殺したくないですし…)

(甘い奴だな…ふむ、そなたは嘘は言っていないようだ)

(だから、生け贄なんてやめて貰えないですか?

お腹空いてるなら他の食材を用意するので)

(ハッハッハッ、妾が生け贄を喰らっていると思っているのか!)

(違うんですか?)

(そもそも生け贄など所望しておらぬ。

太古の昔、妾の祖先が始めた習慣だったのだろう。

だが、言葉が通じぬため伝えられなくての。

生け贄だった者は妾の身の回りの世話を終生しておったわ。

時には逃げ出すものもいたが、戻らなかったのであれば迷ったか魔物に襲われたのだろう)


急に判明した生け贄の真実に拍子抜けしたタルトであった。


(じゃあ、あなたは里の人を襲う気はないんですね?)

(特に興味は無いわ。

攻撃するものがあれば容赦はしないがな)

(良かった~、あとはこれを里の人に伝えないと)

(さて…里の者が素直に信じるかの。

部外者であるそなたの言葉を信じられるか?)

(それは…。

でも、ザイツさんもいますし)

(あやつは妹を助けたいのじゃろ?

それは嘘を言う動機がある)

(じゃあ、どうしたら…)

(ふむ…しょうがない、妾も同行してやろう。

そなたに従うように見せれば信じるじゃろう)

(良いんですか?

良かったー、本当に良い狐さんですね。

ところで名前は何て言うんですか?

ちなみに私はタルトです!)

(妾に名などないわ)

(でも、親はいるんですよね?)

(妾に親などおらん。

輪廻転生は知っておるか?

寿命が尽きたときに赤子として転生するのだ。

力は継承するのだが、記憶はほとんど失われ断片しか残らんがな)

(そうなんですか…じゃあ、私が名付けて良いですか?)

(そなたが?まあ、良かろう)

(九尾の狐といったら、やっぱりタマモだね!

タマモだからタマちゃん!)

(タマ…、そのちゃん付けはどうにかならんのか?)

(ええー、可愛いのにー。

しょうがないから他の人にはタマモで紹介しときますね)

(全く…不思議とタルトと話してると心が和むのう。

それにそのペンダントは見覚えがある)

(これは女神様の紋章だそうですよ。

大昔に女神様に会ったことあるんですよね?)

(微かに覚えておる…どこか懐かしい気配はそれか…)

(じゃあ、タマちゃん。

ちょっと待ってて下さいね、まずは皆に説明します)


木々の後ろから様子を伺っていた他のメンバーも呼んでタルトが要点だけ説明していった。

モーラが生け贄にならずに済んだので大泣きするザイツ。

泣き止むのを待つ間、タマモがミミを見つめている。


「タマちゃん、ミミちゃんが気になるんですか?

同じ狐ですし、通じ合うものがあるとか」

(その子は妾の血が色濃く出ているようでな)

「タマちゃんの血って…。

そういえばティート君とミミちゃんは見た目が全然違うのはどうして?」


ティートは虎、ミミは狐と純血とハーフの違いはあるが、同じ父親とは思えないほど似ていないのだ。


「獣人は多種多様いまして、長い間に血が混ざりあっているんです。

だいたいは両親のどちらかに似るんですが、ミミのように先祖の血が現れる事もあるんです」

「でも、タマちゃんは輪廻転生してるから血が混じらないんじゃ…?」

(それが不思議でこの子を見ておったんじゃ。

まあ、過去の妾が何かしたのかもしれんしの。

どれ、その子をこちらに)


言われるがまま恐る恐る前に出るミミ。


(ハーフだからか力が眠っておるようじゃ。

妾が起こしてやろう)


大きな尻尾で包まれるミミ。

ぼんやりとやわらかい光が発せられ、ミミの内側から何かが涌き出てくる。


「これは…まりょくが…ちからがわいてくるようなのです!」

(これで良い、すぐにでも変化や分身が使えるようになるだろう。

もっと励めば他の術も使えるかもしれんぞ。

それとこれを授けよう)

「これは…いしのようにみえるのです」

(助けが欲しい時に念じるがよい。

妾が駆けつけようぞ)

「ありがとうございます、たいせつにするのです!」

「さて、これで無事に解決ですので最後に…。

それーーーーーーー!!」


タマモの尻尾にダイブするタルト。


「おおおおおおおおぉぉぉぉーーー!!

このモフモフたまらないですぅーー!!」

(やれやれ…憎めない奴じゃの…)


この後、タマモの背に乗って里に戻ったら人々の度肝を抜かれたようで呆気に取られていた。

長に事情を説明すると素直に信じてくれたようだ。

さすがに神獣を従えたのを見ればタルトが女神の使いと疑うものはいなかった。

そこでオスワルドから議会の提案を行うと快く受け入れてくれた。

最後にモーラを訪ねて、全てが終わったことを伝えた。


「この度は本当にありがとうございました。

兄妹ともに返しきれないご恩を受けまして…」

「ねえ、モーラさん。

お願いがあるんですけど」

「聖女様のお願いであれば何なりと」

「では、ザイツさんも一緒にアルマールの学校に行きませんか?

それで里の外の事も勉強して橋渡し役になって欲しいんです」

「承知しました。

出来る限り頑張ります」


こうして森の民訪問は無事に終了した。

その後、バーニシア国内にオスワルド子爵領内限定で民による議会が出来た事について周知された。

それは各国の情報網にも伝わっていく。


場所が変わりディアラの王都。

ディアラ王と大臣のマレーが草からの文を読んでいた。


「あの小娘が!

民による政治だとっ!

王制度に対する挑戦ではないか」

「バーニシア王も何故、お許しになられたのでしょうか…?」

「あやつは小娘に逆らえんのだ。

傀儡に成り下がりおって…。

だが、単純に小娘を亡きものにすれば良いわけではない。

防衛や様々な技術の恩恵を我が国も受けておる。

何とか良いように操れないものだろうか」

「陛下、ここは一計を案じてみては如何でしょう?」

「何か考えがあるようじゃの」


二人の画策は夜更けまで続けられたのであった。

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