第98話 毒vs毒

死の王の影と名乗る人物がゆっくりと近付いてくる。


「哀れな悪魔に死を」


動けないシトリーに狙いを定め、手刀を振り下ろそうとした。


「王手には早いゼ!!」


影と名乗る人物目掛け、鋭い爪の一撃が襲う。

さっと躱して後方へ飛び去る。


「おやおや、まだ動けるとは。

どういう手品ですかね」

「ワタシには毒は効かネエゼ。

今のは初めての毒で無効化にちょっと時間がかかっちまったガナ」

「リリス…」

「シトリー、カルン、今、解毒してやるカラナ。

暫くすれば動けるようにナルゼ」


リリスは体内で精製した解毒薬を二人に飲ませる。

飲んだ場合では即効性はないが、徐々に回復すると思われた。


「クックックックックッ。

貴女を倒せば動けない二人を処理するだけの簡単な仕事です。

解毒される前に終わらせましょうか」

「甘くみるんじゃネエゾ。

お前はこのリリスが倒してヤルゼ」


リリスは悪魔三人の中で最も格闘術に秀でていた。

武器や魔法で攻撃するのではなく手刀での攻撃を得意としている。

その爪には即死させるほどの毒物が仕込まれており、僅かな傷で勝利を得られるのだ。


現時点で精製出来る最高の劇薬を精製し、攻撃の機会を伺う。

だが、仮面で表情が読み取れず、構えを取らない相手ではタイミングが掴めずにいた。

このままでは埒が明かないので、全力で攻めるよう気持ちを切り替える。


「行くゼ!!!」


踏み込んだ地面が弾ける。

一気に最高速に達して敵の懐に飛込み、残像が見えるくらい素早い連続攻撃を繰り出す。

完全に捕らえたと思ったが、空しく全ての攻撃が空を斬った。


「今度はこちらから行きますよ」


大振りに腕を薙ぎ払う。

リリスは一瞬で間合いを見極め、余裕で躱せる距離で身体を反らす。

だが、腕が伸びたかのように襲いかかった。


「馬鹿ナッ!?腕が伸びたダト!?」


それもギリギリで躱せたが、思わず体勢が崩れる。

その隙を狙われ回し蹴りが腹部に直撃した。


「グハッ…」

「ああ、すいません。

足癖が悪いとよく言われるんですよ」

「ハァ、ハァ…チッ、直ぐに足癖を治してヤルヨ…」

「まだ、減らず口が叩けるのですね。

その顔が死の恐怖に怯えるようになるのが楽しみですよ」


それから一進一退の激しい攻防が繰り広げられる。

お互いに必殺の一撃を与えられず、膠着状態が続いている。

リリスの方が圧倒的にリーチは短いが、小柄な身長と素早さで互角に闘えていた。


「しぶとさは害虫並みですね。

そろそろ決着をつけましょうか」

「ケッ、死ぬのはお前ダガナ!」


リリスは相手の攻撃を紙一重で躱し、カウンター気味に死角から仕掛ける。

敵は左腕を前に出し防御の構えをとったので、そのまま腕を爪で切り裂いた。

その傷からリリス特製の猛毒に冒される。


「終わりダゼ!

これでお前は動けネエ、止めダ!」


猛毒で動けないだろう相手に止めを刺そうと手刀で心臓の位置を狙う。

勝利を確信したときこそ、心に油断が生じるものだ。

動けない相手で反撃なんて予想もしてなかった為、完全に反応が遅れた。

止めの一撃を放った右腕を易々と掴まれ、相手の爪がリリスの柔肌に突き刺さる。

急いで引き抜くが、目の前の視界が揺らいで、酔っ払ったようにその場に倒れ込む。


「キサマ…何故、毒が効かネエ…?」

「アッハッハッ、勝利を確信した表情からの今の驚いた顔!

良い表情をしていましたよ。

せめて最後に教えてあげましょう。

私の身体は生命活動を行っていません。

先程の腕が伸びたのも関節を外しただけです。

そんな私に毒なんて効くわけがないでしょう?」


リリスは言うことを聞かない身体で何とか距離を取ろうと必死にもがく。


「おや?そっちに行きたいのですか?

お手伝いさせて頂きましょう!」


動けないリリスを強烈な蹴りが襲いかかり、小さな身体が勢いよく吹っ飛ぶ。


「あら、すいません。

やっぱり足癖が悪いみたいですね」

「カハッ…ハァ…ハァ…」


それでもリリスは必死に這って移動しようとしている。

だが、その動きは遅くあっさりと追い付かれてしまう。

もう諦めたのか移動するのを止め、相手の方を向き座り直す。


「もう諦めたみたいですね。

仲間のお二人はまだ動けない。

他に助けは来ない。

もう一度解毒を待つほど私はお人好しではありません。

現在の助からない状況がキチンと理解出来たみたいですね。

ご褒美に苦しまないよう一瞬で殺して差し上げましょう!」


無表情の仮面のまま、右腕を振り上げる。

リリスは抵抗する力もないのか、その腕をじっと見つめている。


「その首をはねて綺麗な顔をコレクションに加えてあげますよ。

腐らないように加工して部屋を飾る美術品として。

さあ、貴女に安らかな死を与えましょう」


毒で動けないリリスに向けて、無情にも右腕は振り下ろされた。

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