第79話 精霊

隠し階段を降るタルト一行。

長い螺旋状となっており、進むごとに空気がヒンヤリしてくる。

暗闇と静寂に包まれており、タルトの炎も少し先で暗闇に飲まれ、一行の足音だけが空間に響き渡っていた。


「なんか寒くなってきたよー。

ミミちゃん、尻尾をモフモフして良い?」

「だ、だめなのです!

さっきいっぱいモフモフされたのです」

「確かに、この格好じゃ少し寒く感じるな。

悪魔は薄着が多いが寒くないのか?」

「人間より寒さや暑さには強いナ。

これくらいなら全然、平気ダゾ。

エルフは駄目ナノカ?」

「基本的は人間と変わらないように思う。

ワタシは結構、寒がりな方だな」

「リーシャちゃんやミミちゃんはどう?」

「リーシャはすこしさむくかんじます」

「ミミもなのです」

「耳と尻尾があるだけで、ハーフの場合は身体が人間と変わらないから寒さに弱いんだねー。

うぅーん…魔法で何とかなるかなー?

こんなんでどうかな?」


タルトはステッキを軽く振って、みんなの身体に風を纏わせるイメージをする。

その風には暖かさを持たせる感じで…。


「わわ、あたたかいです!」

「ほんとだ、ぽかぽかしてきたのです!」

「風魔法の応用か?

確かに快適になってきた…ちょっと待て…ちょっと暑くないか…いや、暑いぞ!」

「うわっ、ほんとだ!サウナみたいになってきたっ!

あちっ、あちちちち…魔力をセーーーーブ!」

「ふぅ、丁度良くなったな」

「人間やエルフは不便ダナー。

ちょっとの変化に弱すぎダゼ」

「ああ、聖女様の温もりを感じる…おや?

ちょっと、寒いような…いや、寒いぞ!

聖女様、寒いです!私だけ凄い寒いです!」

「気持ち悪い表現をした罰です。

まったくオスワルドさんは…」


何だかんだ騒いでいるうちに階段の最下部に到達した。

正面には今までと違って、金属製の扉が待ち受けている。


「ここも私が開けますので、皆さんは警戒しててください」

「オスワルドさん、気を付けてくださいね!

まだ、罠があるかもしれませんから」


オスワルドは全身を使って思い切り扉を押していく。


「ぐぐぐ…ぐぐ…はあ…はあ…ピクリともしません…」


魔力で身体強化をした状態での全力だったが、全く動く様子は見受けられなかった。

ティアナは扉に近寄り、手で触れたり模様を念入りに調べたりしている。


「僅かだが魔力の痕跡を感じるな…。

この扉は封印されているのかもしれない」

「力任せでは開かないって事ですか?」

「どうだろうな…それ以上の力があれば無理矢理開けられるかもしれないが。

もしかしたら合言葉かもな」

「合言葉…扉を開ける…。

よし、私がやってみますね!」


タルトは扉の前で思い切り息を吸った。

閉じた扉の定番である、あの言葉を…


「開け、ゴマ!!!」


シーンと静寂が襲う。

どや顔のタルトであったが、段々と頬が赤く染まっていく。

他のメンバーには意味不明な単語であったので、その様子を見守ったままだ。

せめてツッコミを入れてくれる人がいれば、この静止した時間を破壊してくれたのだが…。

遂に耐えきれなくなったタルトが扉をポカポカと叩き出した。


「馬鹿馬鹿ー!思いっきりスベったじゃんっ!!」


タルトの手が扉に触れた瞬間であった。

扉に一筋の光が灯ったと思ったら、眩しくて何も見えないの光に包まれた。

ギギ、ギギっと音をたてて開く扉。

光も弱くなり、奥の部屋の暗闇に吸い込まれていく。


「何だ?何が起こったんだ?

タルトの呪文が効いたのか?」

「何テ、言ったんダ?

ゴマって聞こえタガ」

「さすが聖女様です!

古の封印の解き方までご存じとは!」

「えっ?えっ?えっ?えっ?

あのー、そのー…ま、まあ、これくらい余裕…かな」


引くに引けなくなったタルトは無い胸を張って自慢げにしている。

その背後の暗闇から冷たい空気が這い出ていた。


「うわっ、冷たい!

奥の部屋は凄い冷えてる!」

「炎だけ入れて中を照らしてくれ。

魔物が潜んでいるかもしれん」


複数の火の玉がスーっと部屋の中へ入っていく。

奥の方まで淡い炎の明かりで照らされ、全体像が見えてきた。

大きな正方形の部屋となっており、入り口から真っ直ぐ通路が伸びている。

その周りには透明で綺麗な水路で埋め尽くされ、中央に祭壇のようなものが鎮座していた。

魔物の気配は無かったが、周囲を警戒しつつ、中央の祭壇に向かい通路を進む。

祭壇の階段を登ると魔方陣のようなものが描かれた壇上となっていた。

一行が壇上に着くと魔方陣がボヤーっと青く光始め、中央に水が集まり人型となっていく。

それは髪の長い女性になり、タルト達の前に降り立った。


『封印を解いて頂き有難うございます。

私は水の精、ウンディーネと申します』

「わああ、凄い綺麗なひとー!

ウンディーネさんていうんですね。

私はタルトといいます」


タルトは目を輝かせてウンディーネに話しかけた。

その光景を他のメンバーは驚いている。


「タルトには何か聞こえたのか?

この精霊らしきものの言うことが理解出来るのだな?」

「アタシには何も聞こえネエナー」

「リーシャもなにもききとれません」

「リリーも分からない…」

「えっ!?みんな聞こえないの?

頭のなかに響くように聞こえるよ」

『それは貴女が精霊を宿した稀有の存在だからです。

それにしても、私が知っている光の精とは異なるようですが…』

『私はウルと申します。

マスターと私は異世界から来たのです』

『異世界…ですか。

封印されてどれほどの年月が過ぎたのか。

今、地上はどのようになっているのですか?』


ウルは簡単にこの世界で手に入れた情報を説明した。


『そんなことが…。

光と闇の勢力が争い続けているなんて』

「ウンディーネさんが封印される前は平和だったんですか?」


ウンディーネの言葉はタルトが翻訳して伝えて、会話が出来るようにしていた。


『封印される前にそのような勢力はありませんでした。

そもそも、天使、悪魔、獣人、鬼といった種族はおりませんでした』

「オイ、ちょっと待てッテ!

アタシらは何処から来たって言うンダ?」

『それは分かりません。

知っているのは竜族、人間、魔物だけですね』

「我らエルフも昔はいなかったのか…。

先祖はどこから現れたというのか」

「ウンディーネさんを封印したのは闇の勢力じゃなかったんですね。

一体、何があったんですか?」

『私は悪しきモノに封印されました。

精霊は自然現象に意志が宿ったようなもので、死や消滅することはありません。

我らが邪魔だと判断し、封印することにしたのでしょう。

そのものは死の王と名乗っておりましたが…』

「死の王…?

なんか如何にも悪者っぽい名前ですねー」

「死の王なんて、聞いた事ナイゼ」

「エルフの伝承にも残っていないな…」

「それほど古い話であれば、既に滅んでいるのではないでしょうか?

私達、人間は短命ですが寿命の無い生物はいないものと思われますが」

「そうですねー。

でも、死の王というくらいですから死を司る者が死ぬのも変な感じですよね」

『その者が何者かは分かりませんが、恐るべき力を宿しているのはすぐに見てとれました。

あの者が寿命で死ぬような生物とは思えません。

どちらかといえば我らと同じ精霊に近い存在に感じました』

「まあ、今はいないみたいですから安心してください。

もし出てきても私が退治しちゃいますから!」

『忘れずに記憶の片隅へしまっておいてください。

ところで、此処へは何をしに来られたのでしょうか?』

「それはですね、私は何の属性も持たないので力を貸して貰えないかと思いまして」

『それは造作もございません。

私の分身を貴女に宿しますので、力の制御はウルにお任せします。

他の精霊の力を借りて、この世界に再び平和をもたらせてください』


ウンディーネの身体から青い光が浮き出てきて、タルトに吸い込まれるように消えていった。


「ありがとうございます!

私には頼れる仲間も沢山いますのでお任せください!

ウンディーネさんも気を付けてください。

何かあればすぐに駆けつけますよ」

『貴女の進む道に光が照らされる事を祈っております。

私は長き封印で弱まった力を癒すために此処で眠りにつかせて頂きます』


役目を終えたウンディーネは水の塊に戻り、床へ吸い込まれるように消えていった。

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