第69話 龍人

決戦の翌朝、朝食を終え会議室に主要メンバーが集まっている。

この戦争での詳細報告やリリーの件について話し合われる予定である。

最初にオスワルドから城壁防衛の詳細や被害状況について説明を行った。


「ーーーー、以上で報告になります。

あれだけの大軍勢による侵攻を受けたのに、多くの怪我人や畑への被害だけで済んだのは奇跡としか思えません」

「本当に良かったです。

これで天国の町長さんに良い報告が出来ますね」


膝上にリーシャを抱き締めて座っているタルトであった。

昨日、帰ってきてからずっと心配だったリーシャから離れられないのだった。

そのお陰でゆるーっとした空気が流れている。


「では、もうひとつの議題に移りたいと思います。

私が領主の権限を使った、箝口令によってあの場にいた者以外は真実を知りません。

ここにいる方々と老兵達になります。

それでは、リリーからは難しいでしょうから、ジルニトラ殿にお願いします」


ここまで眼を瞑りながら、静かに聞いていたジルニトラが口を開いた。


「だいぶ待たせてしまいましたのお。

まずお伝えしたいことがあるのだが、全ての事を語ることは出来んのじゃ。

それは我が一族の禁忌となっておる」


そうしてジルニトラは一同を見渡した。

代表してタルトが返事をする。


「それで大丈夫です。

私達を救ってもらったのに、これ以上迷惑は掛けられません。

許される範囲でお願いします」

「聖女様のお許しを頂いたので話させて頂きますかの。

最初に竜属はご存じの通り多種多様なものがおりますが、全てを統べているのが我ら龍人になります。

遥か昔には人間から崇められ、龍神と呼ばれる事もありましたかのお…。

基本的にはこの大陸の北に聳える険しい山脈から出ることはありません。

光と闇のどちらにも属さず、長い長い戦争を傍観していますのじゃ」

「どうして傍観してるんですか?

それだけの力があれば平和に出来るのに…」

「聖女様の言うこともよく分かりますがの…。

その理由は教えることが出来ないのじゃ」

「そうですか…お二人が竜だなんて信じられないですね」

「他の竜種は如何にもという竜の姿をしているが、我ら龍人は普段、人の形をしておりますな。

戦う際にはご覧になったような真の姿になりますがの。

まあ、この姿でも負けることはないと思いますがな」

「今度、手合わせ願いてえなあ!」

「ほっほっほっ、この姿であれば良いですぞ。

竜の姿で戦うのは生命の危険があるとき以外は禁止されておるのじゃ」

「でも、あの時…禁忌を破ってまで何で助けてくれたんですか?」

「それはのう…ワシらは遥か昔にそれまでの生活に嫌気がさしてリリーを連れて北の山脈を出たのじゃ。

人間として生活して、暫くしたら場所を移してのう」

「えっ!?リリーちゃんて何歳ですか?」

「確か…千年は越えてたのお」


これにはその場にいた全員が驚愕した。

どうみても幼女にしか見えないのに、天使や悪魔よりも長生きだったのだ。


「まあ、千年なんてまだまだ子供じゃよ。

さて、先程の質問への回答じゃが、リリーがこの町をえらく気に入っての。

いや、ここの住人が好きになったようじゃ。

今までにあの子が物事に興味を持つことはほとんど無かったのにのお。

しかも、リーシャやミミといった友達が出来るとは驚いたわい。

その者達を守りたいあの子の気持ちを優先しただけじゃよ。

だが、あのような手助けは今回だけと思ってくれ、本来は禁止されているのだからのお」

「はい!もっと強くなるよう頑張ります!

でも…禁忌を破っちゃって大丈夫ですか?」

「まあ目撃者もいないし、生活圏を侵された反撃ということにしておきますのじゃ」

「それは良かったです。

それが原因で他の地に移動しなくちゃいけなくなったら寂しいです…」

「安心してくだされ。

リリーの気が済むまでここにいるつもりじゃよ」


ここでシトリーが質問を投げた。


「北の山脈を出たのと戦争を傍観しているのは、因果関係があるのカシラ?」

「鋭い質問じゃな…。

詳細は言えぬが関係はあるのお」

「ソウ、残念デスワ…。

あれだけの力を持っていれば、全てを支配できるかもしれないノニ、干渉してこないのが長い間、不思議デシタワ」

「ほっほっほっ、語れなくてすまんのお」

「では、話は変えるがジルニトラ殿はタルト殿をどう思う?」


ノルンは前々から気になっていた事を切り出した。


「どう…とは?」

「タルト殿は人間とは思えぬ能力を秘めている。

しかも、常識外の魔法を行使出来るのだ。

我らより長く生き、様々な知識をお持ちの貴方なら何かご存じかと思ってな」


急な質問でタルトはビクッとなった。

まさか自分の事を聞かれるとは思わなかったからだ。


「そうですのお…ワシにもよく分かりませんのう。

ただ、聖女様が付けているペンダントは嘗ての女神様の紋章を型どっている。

分かるのはそれだけじゃな」


タルトは自分の胸元を見る。

この世界に来たときに、いつの間にか身に付けていたのだった。

しかもどうやっても外れないので、呪いのアイテムじゃないかと心配していたのだった。


「これ女神様に関係するものなんだ。

良かった~、それなら安全なものだねー」

「ジルニトラ殿でも分からないのか…。

それにしても、いにしえの女神に関係があるというのは興味深いな…」

「そんなの関係ねえジャン。

タルト姉はタルト姉ダロ?

正体が何であっても関係ねえナー」

「カルンちゃん…」

「リーシャもそうおもいます!

タルトさまはだいすきなおねえちゃんです」

「うぅ…リーシャちゃんっ!

私も大好きだよぉーーー!!」

「ふわえぁっ、くるしぃですぅ…」


いつものことながら、場が和む景色である。


「いや、変な詮索をするつもりではなかったのだ。

何故か分からないが、タルト殿に惹かれてしまうのだ。

だから、興味が尽きなくてな」

「私めも、そう思います。

初めて見たときから何か感じるものがありました」

「ほっほっほっ、それも女神様に関わるのかもしれませんな」


こうしてタルトの事はうやむやのまま、会議は終了した。


それから一週間後、広場で勝利の宴の準備が進んでいた。

死者がゼロだった事から約束のサービスを期待した大勢の町人が集まってきている。

すぐに開催したかったが、怪我人の治療や戦の後始末に時間が掛かってしまった。

それとタルトの仕込みにも時間が掛かったのだが。


ここはエグバートの店。

タルトが用意した衣装を着たメンバーが集まっていた。


「皆さん、良く似合ってますよ!

いやー、頑張って準備した甲斐がありましたー」


タルトは凄い喜んでいるが、他の面々は微妙な空気だ。

用意した衣装というのが水着だったからである。

この世界にそんなものは存在しない。

だから、露出の高い下着姿のようなものだ。


「タルト殿…これは一体…?」

「えっ?これはビキニといって泳ぐのに適してるんですよ」

「別に泳ぐわけでは…布面積が小さくて。

私めの裸同然の格好なんて…」

「いやー雪恋さんは胸が大きいから似合いますねー」

「タルト様のお願いであれば、何でもこなしてみせマスワ」

「やっぱり綺麗な人ばっかりだから、男性に喜ばれると思うんですよねー。

エグバートさん、どう思います?」


突然、振られたエグバートだが目のやり場に困っていた。


「いやー、確かに魅力的だが刺激が強えなあ…。

しかもモニカまで…嫁入り前だというのに」

「しょうがないでしょ、お父さん。

タルトちゃんのお願いだし…」

「うちは気に入ったぞ!

暑いときはこれでいいんじゃねえか?

動きやすいしなあ」

「姫様、そんな破廉恥な…」

「確かに動きやすいナ。

マア、普段も似たような薄着だけドナ」

「カルンの言う通りダナ。

こんな格好で喜ぶなんて、男は単純ダゼ」


端っこに立っているオスワルドと琉はそのやり取りをじっと見ている。

二人とも男性用の水着を来ており、その筋肉がよく分かる。

女性客向けに準備したのだ。


「琉殿、生きていて良かった…」

「オスワルドさん、僕もです…」


男は馬鹿だった。


広場の準備も整ったので、会場に向かうことにした。

フードをかぶり水着が見えないようにしている。

広場にはところ狭しと人が集まり、既に宴会が始まり盛り上がっていた。

タルトは中央に設置されたステージにピョンと飛び乗るとフードを取った。

会場からは大歓声が上がる。


「みなさーん、お待たせしましたーー!

今日はメイド喫茶のスペシャルイベント、水着の日でーす!」


声に合わせて他のメンバーもフードを取った。


「「「「「おおおおおおおおぉぉおお!!!」」」」」


「これは泳ぐのに適した服ですが、今日は頑張ってくれた皆さんへのサービスです!

お触りは禁止ですよー」


会場のボルテージは最高に達していた。

歩く度に揺れる巨乳を持ったノルン、シトリー、カルン、桜華、雪恋、モニカの人気は凄かった。

スクール水着を着たリーシャ、ミミ、リリーは年寄りに囲まれている。

オスワルドには若い女性が、琉にはマダムが黄色い歓声を上げている。

リリスとタルトには微妙な趣味を持った人が集まっているように見えた。


「まあ…最初からこの結果は分かってましたけどねー…」

「男は胸が好きなんダナー。

ワタシとタルトは人気ない訳ダゼ」

「リリスちゃん…皆が喜んでくれれば良いんだよ…はぁ…」


この日のサービスデイは終日、大盛況であった。

タルト一人だけ元気がなかったが…。


一方、その頃、バーニシア王都にも戦争の詳細が伝えられ、民衆にも喜びの声が溢れていた。

その矢先、アルワド王に一通の手紙が届いた。

王はその手紙を読むなり、血相を変えた。


「ゼノンよ、いるか!

すぐに聖女様へ伝令を出すのだ」


タルトが知らない間に事態は予想外の展開へ進むのであった。

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