第67話 決着
桜華の心はとても静かであった。
身体はボロボロ、奥義は全て防がれている絶望的な状況にあり昔の自分であれば、がむしゃらに攻撃を仕掛けていたに違いない。
タルト達に出会い色々なことを学び、現在の状況を冷静に考えている。
藜のトンファーと抜群の格闘センスは最高の相性であり、近接戦において絶対的な防御力を誇っていた。
自分の攻撃は全て捌かれ、その隙をつかれカウンターを受けるという結果しか見えてこない。
今の自分の力量では一撃を入れることも叶わないだろう。
そんな状況で桜華は刀を鞘に納めた。
「どうした?
武器をしまうなど、負けを認める気になったか?」
「違えよ。
これは絶対に負けられない戦いだ。
皆が死力を尽くし、町は防衛できた。
あとはうちが勝つだけだからなあ」
「この状況が理解できない訳ではあるまい。
俺にはお前の攻撃は届かない。
しかも、さっきの一撃で立ってるもやっとであろう?」
「あと一撃だ。
次の一撃に全てを込める」
「仕方ない。
死なない程度に動けなくしてやろう」
桜華は抜刀術の構えに入る。
これ以上、体力を消耗できないので、次の一撃で決めなければ負けるだろう。
藜はそれを見て考える。
春霞、紫電は既に通じないのは証明済みだ。
勿論、元々知っていた技であったし、対応策をイメージ出来た。
次の技は桜華が出ていってから、編み出したもので未知である。
しかも、一撃で自分を倒せる程の威力を秘めていると思われるので、慎重に対応する必要がある。
おそらく
どんな技であれ、刀身に最大の注意を払い、今まで通り受け流せば良いだけだ。
腕に力を込める。
「そろそろいくぜえ、巫覡…」
「来るがいい妹よ、巫覡!」
二人の身体に魔力が駆け巡る。
鬼気迫る殺気を放ち、周りで見ている者にもビリビリと届くほどだ。
桜華が納刀したまま、間合いを詰める。
相手の懐に飛び込み、最速で刀を抜く。
「伍の太刀、
藜も構えから高速の抜刀術を想定しており、考えるより先に身体が反応している。
予想よりも速い抜刀速度だが、ギリギリでガード出来そうである。
桜華が放った高速の刃が襲い掛かるが、両手の武器で防御を行う。
ガキイィィィーンッと金属音が響き渡り、お互いの武器がぶつかり合う。
その瞬間、ぶわっと風が吹き抜けたのを藜は感じた。
「くぅっ…」
桜華は力が抜けたのか片膝を地面に着けた。
「終わりだ、
烈火爆炎擊とは藜の最大の奥義である。
武器を敵に交差させるように放ち、交差する瞬間に両武器に纏わせた炎を大爆発させる一撃必殺技であった。
今回は桜華を殺さないよう、多少の手加減を加えようとしている。
だが、技の発動の直前に謎の衝撃波が藜の全身を走った。
「ぐふっ!?」
そのまま血を吐きながら、倒れたのは藜の方であった。
桜華が放った綾波という技は、刀による斬擊が目的ではなかった。
刀身に風で作り出した衝撃波をのせて、相手を内部から破壊する技である。
斬擊を防がれても、その衝撃は風のように波となって敵の全身を駆け抜ける。
如何に身体を鍛えてようが、内部から筋肉や内蔵を破壊されては防ぎようがない恐ろしい技であるのだ。
そもそも、桜華の属性は風であるが、魔法が苦手な鬼の一族であった為、剣技ばかり磨いていた。
だが、タルトやシトリーから魔力の操作方法を学び、武器に纏わせるこの技を身に付けたのだった。
まだ、修行不足で相手を殺せる程の威力はなかったが、戦闘不能には出来るレベルである。
「最後のは…何だ…?」
「はぁ…はぁ…、あれは仲間と一緒に編み出した技だ…。
苦手な魔法を馬鹿にしていたが、教えてくれる奴が沢山いてなあ。
色んな奴がいて、お互いに高め合うことで、うちはもっと強くなれるぜ」
勝負がついたのでタルトが近づいてきた。
「桜華さん、大丈夫ですか?
すぐに治癒しますね!!」
タルトは主に腹部を中心に治癒魔法を掛けていく。
「治癒魔法か…便利な奴がいるな…」
「こいつは命を預けられる
だから、巫覡を使っても安心なんだぜ」
「そこは普通に親友でいいじゃないですかっ!?」
「信頼できる友か…その絆に負けたのだな…」
藜は倒れて動けない状態で敗因を考えている。
「なあ、タルト。
こいつにも治癒魔法を掛けてやってくれ。
まあ、自分で歩けるくらいまでな」
「くっ、貴様、何を考えている!!」
「別に…勝負は決したんだ。
馬鹿兄貴は約束を破るような男じゃねえ。
一応、これでも家族だからなぁ」
桜華の顔が真っ赤に染まっている。
そんな様子を見てタルトは嬉しそうであった。
「桜華さんのお願いじゃ、しょうがないですね。
すぐに終わりますから、じっとしててくださいね」
タルトは藜にも治癒魔法を掛けていく。
すぐに動けるようなったのか、立ち上がった。
「貴様、治癒魔法といい不思議な能力を持った人間だな」
「私は魔法少女です!!」
「魔法…少女?
よく分からんが、妹が強くなるわけだ…。
ふっ、修行を足らなかったのは俺のほうか」
「うちで良ければ、いつでも相手してやるぜえ!
何だかんだいって、さっきの戦いは楽しかったからなあ」
「ちっ、すぐに対応策を見つけてやるからな」
「バトルマニアですねー…。
命懸けの戦いだったのに、似た者兄妹です…」
タルトが呆れるのも束の間、藜は部下を連れて引き上げていった。
「終わりましたね…」
「終わったなぁ…」
「姫様、お見事でした」
「さすが姉上です」
「みなには世話になったぜぇ。
何かあった際には、何でも力を貸すからなぁ」
「さあ、帰りましょう!
皆が心配して待ってますよ!」
タルト達は行きと違って、真っ直ぐに城壁方面へ歩いていく。
敵本隊が木々や岩を薙ぎ倒していったので、進むのが非常に楽であった。
森を抜け、リリーの破壊跡を見たときは唖然とした。
気を取り直し第五城壁に向けて、歩み始めるとシトリー達が飛んで来るのが見えた。
「タルト様、お疲れ様デシタ。
勝利し戻ってこられるのを信じてお待ちしておりマシタワ」
「皆さん、お疲れ様でした!
被害状況はどうですか?」
「詳細は後で話すが死者はゼロだ。
タルト殿の策とリリーのお陰だな」
「それは良かったです!
リリーちゃんの事は気になっていたんですよ。
上空からでも距離があって詳しくは分からなくて…」
「その件は後でジルニトラ殿から聞けることになっている」
「とりあえず凱旋して皆を安心させましょう!
その後は今日は休みにして、明日の朝に会議としましょうか」
学校にいる町民にも終戦が伝わり、続々と家路に付いた。
町の建物には被害はなく、すぐに普通の生活に戻れそうだった。
タルト達も疲れていたので、食事をしたあとお風呂に入って休むことにした。
こうして長い一日は終わるのであった。
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