第66話 桜華 vs 藜
時は少し遡り、リリーの破壊の衝撃がタルト達がいる場所まで届いていた。
その音と爆風、震動、衝撃波が遠く離れた場所でも普通に立っているのがやっとである。
「うわわわわわわっ!?
飛ばされるぅーーーーーー!!!」
上空に飛んでいたタルトは爆風で吹き飛ばされないよう、必死に耐えていた。
その目には遠くで核爆弾が落ちたかのような、爆発が写っている。
「凄い威力…巨神兵の一撃みたい…」
『マスター、今の爆発で魔物の反応が全て消失しました…』
「えっ!?二万近い魔物がたった一撃で?」
『間違いありません。
その魔力量は計測不能です…』
「…何なのかよく分からないけど、リリーちゃんは家族の一員なんだ。
単純に町を守ってくれただけだよね。
よし、私も頑張らないと!」
タルトは気持ちを切り替えて地面に降り立つ。
地上では状況が把握できておらず、戦闘を停止し敵も味方も戸惑っていた。
「タルト、今の衝撃は何だったんだ?」
「それが…詳細は後で話しますが、町を攻めていた敵の魔物は全て消失しました!」
「なっ!?
それは本当ですか?
あれほどの数を倒せる戦力が一体、何処に?
私めに秘密の作戦でもあったのでしょうか?」
「一言でいうと…リリーちゃんが…」
「ほう、やっぱりアイツは力を隠してやがったか!
今度、手合わせ願いてえなあ」
「ちょっ、姉上!相手は子供ですよ!」
タルト達の会話を聞いて、怒りを露にする男がいた。
自分が集めた軍隊が、負けるはずもない戦力が全滅とは信じられなかったのだ。
「貴様等っ!!
何を世迷いごとを言ってやがる!
たかが悪魔や天使が加わった程度の人間の軍隊に負ける訳があるはずがねえ!!」
「お急ぎで…ご報告…致し…ます」
丁度、森の中から血だらけの鬼が現れた。
恐らく町での戦闘を監視し、連絡する役目だったのだろう。
先程の爆心地から離れた所にいて、直撃は避けれたのであろうが立つのもやっとの重傷に見える。
ここまで来れただけでも奇跡であろう。
「謎の攻撃により、我が軍は全滅…二万以上の魔物が…一瞬で消滅…しま…ぐはっ…」
そこで力尽きた。
報告を聞いていた藜は愕然としている。
それもつかの間、それは怒りと変わっていった。
「よくも…俺の軍を…。
まあいい、妹を連れて帰り、更なる強大な軍を再編し一人残らず皆殺しだあ!!」
その怒号にタルト達も藜の方へ視線を戻した。
その中で桜華が一人、前へ進み出た。
「これでうちらは時間的制約は無くなったぜ。
もうすぐ大勢の兵がここへ援軍としてやって来るだろうなあ。
そこで提案だが兄貴よ、うちと一対一で勝負しようぜえ!
もう他の誰も傷つかねえようにな。
負ければ大人しく一緒に帰ってやらあ。
うちが勝てば二度と干渉してくるな!」
ここへの援軍はブラフである。
そんな命令は存在しないが、こちらが有利であると思い込ませる為のハッタリであった。
現状、藜と桜華は若干、藜が有利だが戦闘後に天使や悪魔を含めた軍勢を相手にするには余力が残らないかも知れない。
しかも、桜華より強いらしいタルトも残っているのだ。
心理戦での駆け引きとしては、悪くない条件だった。
藜は考える。
人間はどうでもいいが天使や悪魔が来ると厄介だ。
そして、何より謎の戦力が気になった。
それだけ強力な一撃を繰り出せる相手は自分より強い可能性がある。
桜華の提案はとても魅力的だった。
自分の方が圧倒的に有利な条件である。
今までに一度も桜華に負けたことが無いからだ。
ただ、それを理解しているだろう桜華が、何故このような条件を提示するのか分からないのが気になった。
「良いだろう、その条件を飲もう。
負けて従わない場合は、人間は皆殺しになると思え」
「約束は守るぜ、一族の誇りに掛けて二言はねえ」
「はははっ、俺も二言は無い」
桜華らの一族は誇り高い生き方をしている。
約束を交わしたら必ず守り、破るくらいなら死を選ぶほどだ。
そんなやりとりをタルトは心配そうに見ていた。
「桜華さん、本当に大丈夫ですか…?
相手の上が僅かに能力が高いように見えましたが…」
「タルト…うちを信じな!
仲間を信じてくれ!その強い想いが、うちに力を与えてくれる!!」
「…はい!分かりました!
ここで必ず勝利することをここで信じて待ってますよ!
もし、負けたらその胸でいっぱい泣いちゃいますから」
「ありがとなぁ、行ってくるぜ!」
桜華と藜は距離を取りながら武器を構えた。
桜華は愛用している刀身が長い日本刀を使用している。
対して、藜は両手に金属の棒に取っ手が付いたトンファーを持っている。
打突武器だが、ガードも可能で攻防一体となった武器である。
藜の鍛え抜かれた肉体から繰り出されるのは、流れるような連続技だ。
片方で相手の攻撃を捌き、もう片方で反撃出来ることで、隙が一切無い戦闘スタイルである。
桜華は小さい頃から、何度も戦ってその強さは身に染みている。
「妹よ、いつでも掛かってくるがいい!!」
「舐めやがって…後悔させてやるっ!!」
姿勢を低くしたまま、桜華が間合いを詰める。
死角となる下からの剣擊が藜に襲い掛かるが、左手のトンファーで受け流され空を斬る。
だが、桜華も負けじと返す刀で斬り掛かるが、これもあっさりと受け流される。
「壱の太刀、
受け流されるのは想定済みであり、攻撃の手を緩めない。
分裂した複数の刃が襲いかかった。
「ふん、芸がねえな!」
藜は両手の武器で全ての刃を受け止めた。
「今度はこちらからいくぜっ!
両手の武器に炎を纏い、連擊を繰り出してくる。
トンファーの一撃を避けても、炎が襲い掛かる二段仕掛けとなっていた。
桜華はダメージの少ない炎は無視し、武器からの一撃に集中している。
鬼の一族は魔法が苦手なため、武器に自属性を纏わせるなど、簡単な事しか利用が出来ない。
しかし、それを最大限活かし技へと昇華させているのだ。
命を懸けた死闘の中で、桜華は相手の技を見極め最低限のダメージに抑えている。
格上の相手に対しては、手傷を負うのは当然であり最小にしつつ、攻撃を仕掛けるしかないのだ。
藜の圧倒的な手数に防戦一辺倒になっている。
このままではじり貧となってしまうので、奥義で反撃に出た。
「弐の太刀、
同時に発生した三本の剣閃が襲い掛かる。
藜はその全てを見極め、弾いていく。
そのまま、ガラ空きとなった桜華の胴へ奥義を繰り出す。
「喰らえ、
両手の武器に纏った炎を全てのせて高速で突きを繰り出す。
強力な打撃と炎の同時攻撃は、今ままで多くの強敵を倒してきた技だ。
奥義直後で動けない桜華の腹部に直撃し、後方へ吹き飛ばされた。
辛うじて受け身は取ったが、その場で倒れて起き上がらない。
「「桜華さん・姫様!!!」」
タルトと雪恋は心配して駆け寄ろうとしたが、桜華に制止された。
「かはっ…ぐっ…うちは…大丈夫だ。
ここはうちを信じて…一人でやらして…くれ…」
喀血しながら何とか起き上がる桜華。
腹部の服は焼けてしまって、火傷を負った肌が露になっている。
「ふははははっ!
あの体勢で俺を足場にして後方へ跳ぶことで威力を軽減するとはな!
昔より強くなったみてえだなあ」
「まだまだ…見せたいのはこれからだぜ!」
強がる桜華だが、受けたダメージの影響は大きかった。
身体は悲鳴をあげ、長期戦は望めそうにない。
長きに渡った戦も正念場を迎えていた。
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