第59話 防衛準備

朝になると町の防衛に向けて、分担された仕事に向かうこととした、

タルトとノルンは町から少し離れた場所にいた。


「敵は向こうから攻めてくるでしょうから、この辺に立派な防壁を作りましょうか」

「うむ、一部、畑も潰してしまうことになるが、また作れば良いだろうからな。

町を中心に円形に作らなくて良いのか?」

「全部、作るには時間が掛かりすぎそうなんですよね。

一応、後方にも見た目は同じだけど、ハリボテの壁は作っておきます。

どこから攻めても同じなら正面から来るでしょうから、こちらを出来るだけ強固にしようかと」

「承知した。

まあ、敵がそれに気付くには時間が掛かるだろうから、時間稼ぎの目的は達することになるな」

「それに力自慢で知能の低い魔物ばっかりですから、壁くらい直ぐに壊せると思うでしょうしね」

「敵を良く分析してるな」

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず、ですよ。

昔の人は頭良いですよね」

「昨日からのそれは誰が言ったものなのだ?

長く生きているが、聞いたことがないのだが」

「え!?えぇーーっと、そ、それはぁ…、実家の秘伝です!」

「そもそもタルト殿の実家はどこにあるのだ…」

「まあ、いいじゃないですかっ!

さあ、壁を作っていきますよ!」


異世界転移の事は秘密にしているので、下手な事を言ってしまったと反省しつつ、誤魔化す為に作業に入ろうとした。

地面に手をついて集中する。


同調トレース開始オン…。

構成材質…解明…」

『何を言ってるのですか、マスターは…。

マスターは何もしてないじゃないですか』

(良いの、雰囲気だよ!

それに一回言ってみたかったの!

いいから、この地面から作れる一番強固な壁を作ってよ!)

『…了解です、マスター。

いつもの事ながらしょうがない人ですね。

……この土壌の成分は、金属も少し含まれてますね…これなら、骨子に金属を用いて強固に出来そうです』

(壁のなかに金属?)

『現代で言えば鉄筋コンクリートですね。

崩れそうでも金属が骨となって、周りの壁が支えてくれますよ』

(それ良いね、よし、作ってみよう!)


いまは遥か理想の城ロード・キャメロット!」


タルトが地面に魔力を流し、ウルが制御して壁を構築していく。

あっという間に目の前に高さ20メートル、横幅10メートルの壁が出現した。

上部には人が歩ける通路が出来ている。


『宝具の割には小さいですね…』

(うん…言ってちょっと恥ずかしくなったよ…)


「…これは驚いた…。

こんな立派な防壁を一瞬で作りあげるとは…。

タルト殿の魔法は一体何なのだ…」

「ノルンさん、壁に出来るだけ強固な結界をお願いしますね。

私はどんどん、作っていきますので。

町を囲むには結構、距離ありますし5枚作らないといけないですもんね」

「そうだな、承知した!

時間が許す限り、出来るだけ作っていこう」


タルトが作った壁に、刻印を刻み呪文を唱える。

一瞬、刻印が赤く光り結界が完成した。

タルトが壁を作り、ノルンが結界で補強していくという流れ作業を夕方まで繰り返した。

途中で少し休憩を入れたが、一日で横幅500メートルくらい出来上がっていた。

壁の上に今日の作業を終えたタルトとノルンの姿があった。

二人は壁から夕暮れの町を眺めている。


「こうやって見てると、もうすぐ戦いが始まるようには見えないですね。

家には暖かい明かりが灯り、夕御飯の支度をしていて、平和そのものです。

通りには人がいっぱいで楽しそうにしているのに…」

「タルト殿が人々に希望を与えたのだ。

彼らはその言葉を信じて勝利を疑っていない」

「うぅ…プレッシャーですね…」

「まあ、そう気負いするものではない。

現状でこれ以上の策はないだろう、もっと自信を持て。

彼らがタルト殿を信じてるように、彼らを信じるんだ」

「そう…ですよね!

私には心強い仲間と信じてくれる沢山の人がいるんですよね!」

「それで良い。

その笑顔は彼らに実力以上の力を与えるだろう」

「こんな感じですか?にこっ!」

「…それは、ちょっと嘘臭いな…」

「えぇ、ひどいですよー」


時間は朝に戻り、場所は武器工房。

ここではシトリーが矢の製作を指揮している。

弩弓では鉄の矢を使うことで威力を上げるのだ。


「アナタ達、良いカシラ。

今回の主力である弩弓の矢を製作する役割を担いマシタワ。

つまり、この戦いの命運が掛かってるとも言っても過言ではアリマセン。

戦いでは大量の矢が必要になりマスガ、時間が足りないのデス。

死ぬ気で期日までに間に合わせナサイ!

但し、タルト様の仰った通り、死ぬことは許されマセンワ」


死ぬ気で頑張らないといけないが、死んではいけない。

理不尽な命令だが、この工房ではいつもの事だった。

いつものごとくお頭と呼ばれている男が活を入れる。


「よおし、いいかお前ら!

シトリー様のご命令は絶対だ!

何があっても厳守するように、少しでも遅れたらシトリー様直々にムチでご褒美…ではなく仕置きが待ってるぞ!」

「「「「オオオオオオオオオ!!」」」」


まずはシトリーが原料を魔法で溶かしていく。

この原料はタルトが鉄鉱石から不純物を取り除いた純粋な鉄だ。

本来は剣を製造するのに用意しておいた物だった。

どろどろに溶けた鉄を矢の形に鋳造し、形を整える鍛造の工程を経て完成するのだ。

シトリーは各現場を見て回り、進捗や出来上がった矢の質を確認していく。


「これは…もっと先を鋭利にしないと、敵に刺さりまセンワ、やり直しナサイ」


そのままムチを振り上げ、背中を叩きつける。


「アヒィィー、すぐにやり直しますっ!」


「遅れてマスワネ、もっと急ぎナサイ!」

「ウギャアアァー」


「顔が気持ち悪いデスワネ」

「アアアアアァーー」


「生理的に受け付けられマセンワ」

「オオオオオォォーー」


一日中、ムチで叩かれる音と悲鳴とも喜びとも取れる声が建物のあちこちで響いていたのだった。


その頃、リリスは傷クスリの生成と包帯など治療方法を教えていた。

カルンは弩弓の作成を指揮しており、木の切断・加工を引き受け、組み立てを任せている。

ティートは獣人から戦闘向きの者を集めて、部隊を編成した。

個々の技術の向上を短期間では難しい為に集団での戦い方を練習している。

琉と雪恋は弩弓の使い方を教えている。

桜華は兄との決戦に備えて修行中だ。

モニカは怪我人を運ぶための担架を町の女性達と一緒に作成している。

それぞれが与えられた役割を一生懸命頑張っている。

オスワルドが全体を管理し、遅延している場所へ人材の補填をするなど、忙しく活動していた。


これは翌日以降も繰り返し実施されていくのであった。

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