第52話 陽動

こちらはシトリーとティート班。

ティートは飛べないため、シトリーが抱えて飛んでいる。

緊急事態でもあり、高速で飛んでおり村まですぐに到着出来そうであった。

上空から小さく村が見えてきた。


「シトリーさん、村の西方に戦闘をしているのが見えます!」

「さすが獣人デスワネ。

飛ばしマスワヨ!」


この村では自警団が劣勢であった。

数は15体はおり、自警団も数が少ない。


「うわあっ!」


自警団の一人がゴブリンに蹴り倒された。

そのまま武器を振り上げて、止めを刺そうとしている。

もう助からないと思った途端、ゴブリンの首は胴体から離れた。

その横には槍を構えたティートが立っている。


「お待たせしました!

これより参戦いたします、怪我人を後ろに下げてください」


そして、上空からシトリーがゆっくり舞い降りた。


「シトリーさん、いきなり投げないでくださいよ…」

「アラ、緊急事態だったからしょうがないデスワ。

お陰でその男性が救われたんデスカラ」

「それはそうですが、投げる前に一言いっていただければと…」

「次からは気を付けマスワ。

それより、皆さん大丈夫デスカ?」


二人の到着により自警団の士気も高まった。


「シトリー様、ティート様、ご助力有り難うございます!

怪我人はおりますが、死者は出ておりません。

ゴブリンロードが出てきていたら、もっと被害が出ていたと思いますが…」

「後は任せナサイ、そこで休んでいると良いデスワ」

「シトリーさん、ここは俺が。

もし、抜けたものがいれば対応をお願いします!」

「…良いデスワヨ。

ノルンや桜華との特訓の成果を見せてミナサイ」


ティートは槍を構え、近寄ってくるゴブリンを一刺しで屠っていく。

四方からの攻撃も上手に捌いていった。

ゴブリン達も敵わないと思い、むやみに突撃せず距離を保つようになった。


「距離をとればやられないと思ったのか?

舐めるなよ、壱の槍、松風マツカゼ!」


ティートは高速で槍を薙ぎ払った。

その穂先からは真空刃が発生し、ゴブリン達を次々と襲った。

一瞬の間にゴブリンロード以外は片付いた。


「お前は少しはやるようだな、真空では傷付かないようだ」


ゴブリンロードは怒り狂ったように、突進し大剣を振り回した。

見た目に合わず、その攻撃はなかなかの速さだった。

だが、獣人であるティートには全く及ばず、簡単には躱されていく。


「遅いな、その程度か?

では、これで終わりだ!

弐の槍、蒼穹ソウキュウ


ティートは突きの構えをとり、ゴブリンロードの心臓目掛け、超高速の突きを放つ。

ゴブリンロードも驚異の反応を示し、両手で防御する。

だが、その突きは高速の回転も加わり、ドリルのように抉っていき、胴体まで軽々と貫いた。


「お見事デスワ。

技名は桜華らしいデスワネ」

「はい、師匠に一緒に考えて貰いました」


シトリーは自警団の方を振り返り、傷の具合を確認する。


「あまり深手の者はいなさそうデスワネ」

「はい、相手の人数も多かったので、無理せず防戦に徹底してましたから」

「ソウ…」

「シトリーさん、何か気になりますか?

俺には指導された通りに動けた結果だと思いますが」

「そうとも言えるけど、不自然さも感じられマスワ…。

ゴブリンは本来、知能が低いのにゴブリンロードが様子見をしてイタワ。

真っ先に突っ込んで仲間に力を見せつけるのが普通ナノニ…」

「確かにそうかも知れませんね。

そこに意図的なものが介在してるということですか…」


二人はゴブリン達に違和感がなかったか、自警団へ色々と聞き取りをすることにした。

確かに、積極的に攻めてこなかった気がするが、他には変なところはなかったようだった。


その頃、タルト達も一番、遠い村の手前に来ていた。

村には侵入を防ぐ、柵が作られており、越えようとする敵を弓や槍で攻撃していた。

ゴブリン達も柵が越えられず、足踏みしているようだった。


「何とか被害が出ないうちに間に合ったみたい」


タルトは安心して、柵の手前に降り立った。


「お待たせしました!

リーシャちゃん達は自警団の警備をお願い!

私がゴブリンを相手するから」

「わかりました、タルトさま!」

「はいなのです!」

「ん、わかった」


リリーは真っ直ぐにゴブリンに向かっていく。


「リリーちゃん、全然分かってないよっ!

なんで、一人で突っ込むの!?」


リリーはゴブリンの猛攻を軽くあしらいながら、徒手空拳だけで屠っていく。


「何それっ!どこの圓明流の伝承者よ!」


残りはゴブリンロードのみとなった。

リリーの背は膝くらいしかなく、体格の差は圧倒的だ。

その太い腕では、リリーなんて軽く握りつぶされそうだ。

ゴブリンロードは何が起こったか分からず、混乱してるようだったが、リリーを敵と見なし雄叫びをあげる。


「グアアアアアアアアァァ!!」


ゴブリンロードは鉄製の棍棒を振り上げて、力の限り振り下ろす。

リリーはじっとそれを見つめて微動だにしていない。


「リリーちゃん、避けてぇーーー!」


タルトの悲痛な叫びも空しく、棍棒はリリーに振り下ろされた。

直撃したように見えたが、棍棒はリリーの小さな左手で受け止められている。


「うるさい…」


リリーはふっとジャンプしたかと思ったら、回転し後ろ回し蹴りをゴブリンロードの腹部に喰らわせた。

ゴブリンロードは動かなくなったかと思ったら、突然粉々に吹き飛んだ。

リリーは何事もなかったかのように、テクテクと戻ってきた。

タルトを含め、その場にいたものは呆気にとられていた。


「何…今の…?

柔破斬?…秘孔でも突いたの?

ひでぶって断末魔が聞こえた気がしたよ…」

「?…ただ蹴っただけ」

「すごーい!リリーちゃん、かっこうよかったよ」

「すごいのです!こんど、おしえてほしいのです」

「ん、簡単」


『マスター、観測結果では蹴りと同時に魔力を流し込んでいるように思われます。

ゴブリンロードの体内で魔力が爆発したのではないでしょうか』

(何か恐ろしい技だね…。

あの娘は何者なんだろう)

『確かに不明な事が多すぎます』

(でも、私にとっては守るべき大切な家族の一人だけどね!)


タルトは気にするのをやめて、怪我人の確認を始めた。


「怪我した人はいなさそうですね、良かったです!」

「聖女様の教えに防護柵もありました。

お陰で皆無事だったのです、感謝しても足りないくらいです」

「それは何よりです。

でも、ゴブリンロードみたいな大型だと簡単に突破されますから気をつけて下さいね」

「確かにアイツだけは見てるだけで攻めて来る気がなかったように見えましたね」

「うーん、そんなことして何がしたかったんでしょう?

見て楽しんでたんでしょうか…」

「そういえば、普通のゴブリンも消極的だったかもしれないですね」

「それって時間稼ぎみたいな…」

「…陽動…」


リリーがボソッと言った。


「リリーちゃん、陽動って何の為に…。

目的は村じゃないってことは…。

もしかして、アルマールから私達を誘き出すのが狙い!

だとしたら、今は誰も残ってない!

手薄の町を襲われたら、大変だよ!

急いで戻らないと!」


タルトは3人を抱えて高速で飛び立った。

嫌な予感がして止まらなかったのだ。

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