第53話 学校防衛戦

タルトはアルマールへ向かって高速で移動中、嫌な記憶を思い出していた。

初めてアルマールへ訪れた帰り道、シトリー達に襲撃された時の事だ。

あの時は死者は出なかったものの、多数の重傷者が出て、村が半壊した。

その後にカルンを失いかけた事。

もうあんな事は起こってほしくなくて、頑張ってきたのである。

腕の中にはリーシャが心配そうにタルトを見つめている。


「大丈夫だよ、リーシャちゃん。

私は大丈夫だから…」


リーシャに語りかけるようで、半分は自分に言い聞かせていた。

そうじゃないと不安で押し潰されそうだったのだ。


「見えてきた…町に火が!」


町からは火の手があちこちで上がっていた。

だが、争った跡が残っているが、どこを見ても人も魔物も見当たらない。

その時、非常時の対応マニュアルを思い出した。

町が襲撃を受けた際に、人々の行動をマニュアル化し徹底して教え込んでおいたのだ。


「多分、学校だ!」


学校にはノルンが聖なる結界を作成する魔方陣を描いており、普通の魔物であれば侵入できないようにしてある。

自警団が殿しんがりをしながら、人々を学校へ避難させる事になっていたのだ。

学校へ向かうと結界を壊そうとしているゴブリンの群れが見えた。

その数は200体程おり、ゴブリンロードやゴブリンキングも混じっている。

自警団は結界の中から弓や槍で応戦している。


「リーシャちゃんたちは結界の中に!」


タルトは上空からリーシャ達を降ろすとゴブリンの群れに向かっていった。


「マジック…ショットガン!」


ステッキから散弾のように魔力弾が発射され、ゴブリンを一掃していく。

ゴブリンロードやキングには効果が薄いようで、結界への攻撃を続けている。

その猛攻に結界に亀裂が入り始めた。


「結界がもう保たない…。

皆、結界から離れて建物に避難してぇ!!」


タルトの叫び声に応えるように、森を駆け抜けてる人影が現れた。

そのままゴブリンロードを一太刀で斬り捨てた。


「町の方角から煙が上がってるので、急いで駆け付けてみれば、とんだ修羅場だなあ!」

「桜華さん!」

「聖女様、お待たせしました!

このオスワルドにお任せを!!」


更に上空からも人影が現れる。


「ミミ、大丈夫か?

後は俺に任せておけ!」

「全く雑魚のくせに面倒を掛けさせるナンテ…。

全て燃やし尽くしてくれマスワ!」

「ティート君にシトリーさんも…。

皆、一気に終わらせるよ!」


いまだ、ゴブリンロードとキングが50体程残っている。

普通の人間が相手をすれば、勝てる数ではないがタルト達の相手ではない。

これだけの人数がいれば、学校を防衛しながら迎撃が容易だった。


「おらおらぁ!!

どんどん、掛かってこいやあ!」

灼熱疾走バーストオーバードライブ!」


桜華がキングを仕留め、周りのロードをオスワルドが相手する。

身体強化出来るとはいえ、人間のオスワルドにゴブリンキングの相手をするには全力を出す必要がある。

今のように連戦する場合には危険であった。

合図もなしに役割分担できたのは、日頃からの訓練の賜物であった。


炎獄の牢獄ダークフレームプリズン…。

燃え尽きナサイ!!」


灼熱の炎の壁がゴブリン達を取り囲む。

ゴブリンキングが力任せに壁を突破するが、全身に大きな火傷を負っていた。

だが、そこにはティートが待ち受けている。


「逃さんぞ、蒼穹そうきゅう!」


火傷を負い、動きの鈍ったゴブリンキングなどティートにとって的そのものである。

逃げ遅れたゴブリンは壁が段々、縮んでいき業火で焼き尽くされていく。


「皆、すごいや!

私も負けてられないよ、疾風の槍ウィンドウランス!!」


タルトの周囲に旋風から高速で回転する真空の無数の槍が現れた。

それが高速でゴブリン達を襲う。

ほぼ透明で高速で飛んでくる槍を目で捉えることは出来ず、身体中に貫通した穴が空いていく。


タルト達は学校の正面で迎撃していたが、側面からゴブリンキングが突撃してきた。

近くまで森に接していたため、接近に気付かなかったのだ。


「しまった!

まだ、残っていたなんて…距離が遠い」

「うちが近い!任せなっ!」


結界は先程の攻撃で破られていた。

桜華も全力で走るが、校舎に達するまでに少し間に合わなさそうだった。


「私めにお任せを!」


ゴブリンキングが出てきた森から、すごい勢いで飛び出す人影があった。


弧月 乱舞こげつ らんぶ


その人影がゴブリンキングに一気に追い付き、二本の小太刀を抜く。

そのまま走り抜けながら、目にも止まらぬ速さで切り刻んでいく。


「やるなあ、雪恋。

二刀合わせて十六連撃とは」

「…それほどでも。

姫様が相手では児戯に等しいかと」

「ちっ、つまらねえ謙遜しやがって!

だが、助かったぜ、ギリギリ間に合わなさそうだったからな」

「この襲撃は私めの本意ではありませんでしたので…」

「今の発言はどういう事ですか?

まるでこの襲撃に関わってるように聞こえますが…?」


タルトが不安そうな顔で立っていた。


「大体、想像がつくんだがー」


桜華が言いかけた時に、学校からエグバートが飛び出してきた。

その顔は普段、見せないくらいに狼狽しているのが分かる。


「はあ、はあ、はあ。

嬢ちゃん達、無事に魔物を倒してくれてありがとなっ。

学校に怪我人がいるんだ、早く治療をしてやってくれないか?」

「あっ、はい、すぐ行きます!

桜華さん、雪恋さんの事、お願いします!」


タルトはエグバートに付いて校舎へ急ぐ。

教室に入ると重軽傷者が横たわっている。

エグバートは一番、奥にいる怪我人の所へタルトを案内する。


「嘘…」


そこには町長が重傷を負って横たわっている。


「このジジイは年甲斐もなく、最後まで町民を学校へ誘導してやがったんだ。

おかげで怪我は負った者はいるが、大したことはない。

だが、町長は命からがら何とか最後に学校に辿り着いたんだが、俺らじゃどうしようも出来ない程の怪我を受けていやがった…。

お願いだ!何とか助けてやってくれ!」

「任せて下さい、絶対助けて見せます!」


タルトは町長の横に座り、意識を治癒魔法へ集中する。

タルトの体全体が白く淡い光を放ち、町長に両手をかざして魔法を掛ける。

全身に傷が付いているが、特に腹部の傷が深く血が止まらずに出ていた。

治癒魔法によって血が止まったかのように、見えたが直ぐに出血し始めた。


「嘘…何で止まらないの…?

お願い!治って…」


タルトは全力で治癒魔法を掛け続ける。

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