第45話 将来への投資
「突然ですが学校を作ります!」
いつものごとく、皆を集めて唐突に宣言をするタルトであった。
「がっこう…とは何でしょうか?
聖女様、ご説明をお願いできますか?」
オスワルドが知らないのも無理はなかった。
この世界に学校は存在せず、貴族階級などが自宅学習するくらいだった。
宗教上、技術の発展を禁じられてるので、知識を広めるような行為は良く思われないのだろう。
その為に識字率はとても低いのであった。
「ふっふっふっ、良い質問ですねー。
学校とは…、そう、民明書房の教科書を使い、名物として油風呂や
ここで皆がポカンとしていることに気付いた。
「…えぇー、こほん。
簡単に言えば主に子供を集めて色々な事を学ぶ場所の事です。
将来を担う、子供に自分達で考えて道を切り開けるようになって欲しいんです」
「それは良い考えだと思うが、タルト殿はどんなことを教えるのだ?
やり過ぎるとフォス教の不興を買うことになるぞ」
ノルンの指摘はもっともであった。
タルトがその気になれば、現代日本の知識であれば教える事が出来る。
それこそ、発電設備や自動車を作るなど産業革命どころではない。
また、火薬から銃を作り、核兵器でもウルの知識があれば可能だった。
だが、タルトはそんな世界は望んでいなかった。
色々、足りない素朴な生活で純粋な人達に触れて、今の生活が好きだったのだ。
「それは分かっています。
だから、まずは生活に必要な知識として、文字や算術、農耕技術などを教えます。
次に魔物の生態から最低限の戦闘技術を教え、自己防衛出来るようにします。
他には道徳を教えて、心優しい大人になれるよう教導したいですね」
「将来への投資という訳デスネ。
素晴らしい考えデスワ!」
「確かに生きる術を教えるのであれば、問題ないと思われます」
「タルト様、俺も是非、そこで学びたいと思います」
「ティート君も大歓迎です!
大人向けにも希望があれば、勉強会みたいなものが出来ればと思ってます。
そこで問題が誰が教えるかですが…」
ここでオスワルドが手を挙げた。
「聖女様、我が領地にいる学士にお任せください。
戦闘についても、引退した老兵に募集を掛けるのはどうでしょう?」
「それは助かります!
まずは選抜メンバを集めて教育内容を決めましょう」
「うちが戦闘訓練してやるぜえ!」
「桜華さん、手加減してくださいね…。
時々は特別講習で良いかもしれないですね」
「そうですね、優秀なものがいれば兵士として採用したいですね」
「うん、適性をみて職業が選択できるようにしても良いですね」
他のメンバーからも色んな意見が出て、活発な討論が続いた。
概ねの方針が決まり、この日は解散となった。
その後、町の外れに校舎の建設が始まった。
他の村からも受け入れるため、宿舎も併設する予定である。
また、教師候補を集めて、タルトが直々に内容を説明した。
教師からの意見も取り入れ、より良い内容への修正も行われている。
開校へ目処が見えた頃、各村への案内も行われた。
基本、無料で勉強と宿泊、食事付きのため、応募が殺到した。
学習期間を2年と定め、順番に受講させる事とした。
年齢もずらして、年下の面倒を見させることも教育の一環とした。
もちろん、種族は問わない。
準備も自分の手を離れてタルトはリーシャとミミを連れて、町から離れた一軒の家を訪ねていた。
「すいませーん、誰かいますかー?」
中から一人の老人が現れた。
「どちら様ですかな?
おおっ!これは聖女様、こんな寂しい所にどんなご用ですかな?」
出迎えてくれたのはジルニトラであった。
後ろには孫と思われるリリーもいた。
二人とは村の拡張時に出会って以来、時々、食料などをエグバートの店に買いに来るので、顔見知りであった。
「こんにちは、ジルさん。
リリーちゃんも久しぶりだね!」
「こんな所では何ですから、中へお入り下さい。
これ、リリーよ、お茶の準備をしてくれるかい?」
こくっ
リリーは頷くと奥の台所に向かっていった。
客間に案内され、椅子に座るとリリーが台所から戻ってきた。
「お茶…」
「ありがとう!
ちゃんと出来て偉いねー。
リーシャちゃんは知ってると思うけど、この子は新しく来たミミちゃんだよ。
仲良くしてあげてね!」
「えと…ミミです。
よろしくなのです」
「ん…」
リリーは頷くとリーシャとミミの隣に座った。
「改めてお伺いしますが、どうされましたのじゃ?」
「突然、すいません。
ちょっとお願いがあってきたのですが、今、町に学校という学ぶ場所を作ってるんです。
そこにリーシャちゃんとミミちゃんも通うので、ぜひリリーちゃんも来て欲しいと思いまして」
「そうでしたか。
学校とは面白い発想ですな。
だが、ワシらは世捨て人のような生活をしておりまして、リリーは人が多いところは苦手ですからどうしましょうかのう…」
「私、行く…」
「おおっ、リリーよ。
人がいっぱいいるのだぞ?」
「大丈夫…リーシャとミミいる。
行こ…面白いもの見せる…」
「わわっ、どこいくの、リリーちゃんっ」
リリーは二人の手を引っ張って、外に遊びに行った。
「ふふっ、同じ年頃の子と遊びたかったのかもしれないですね。
ここに来て正解だったみたいです」
「そのようですな。
手の掛かる子ですが、宜しくお願いします」
「ここはちょっと遠いですので、私の家に泊まることになりますが、ここにジルさん一人で寂しくないですか?
良ければ一緒に暮らしても大丈夫ですが」
「はっはっはっ。
一人で大丈夫ですよ!
まあ、時々、顔を見に伺いますのじゃ」
「何時でも来てくださいね!」
タルトとジルニトラはしばらくお茶を飲みながら会話を楽しんだ。
親戚の叔父さんと話してるようで、何だか気楽に話せる感じがした。
「そういえば、ジルさんは女神様の事を何か知ってますか?
良く名前は聞くんですが、誰も詳しいことを知らなくて…」
「ふむ…、聖女様が女神様を知らないとは…」
「すいません…、いつの間にかその名称が定着しちゃって」
「いや、気にせんでくだされ。
女神様については、昔話を知ってるだけじゃよ。
今よりどれくらいか分からない大昔には二人の神様がいたそうだ。
一人が男性でもう一人が噂の女神様です。
当時は争いもなく全ての種族が仲良く暮らしていたそうですじゃ。
聖女様の目指す世界に近いのではないですかな?」
「そう…ですね。
過去に実際にあったのであれば不可能ではない気がしてきました」
「ほっほっ、頑張ってくだされ。
その幸せの世界も急に終わりが訪れました。
女神様がお隠れになり、悲嘆した男の神も去ったそうですじゃ。
その後に現れたのが、光と闇の神様で非常に仲が悪いそうですじゃ。
地上の各種族もどちらの眷属となり、長い争いが始まったそうです。
それが今の戦争の始まりと言われておりますな…」
「何だか悲しいお話ですね…。
その神様をぶっ飛ばせば平和になりますかね?」
「はっはっはっ、神様をぶっ飛ばすとは面白いお方ですじゃ!
貴方様なら出来るかもしれませんな」
「そう言われるとやる気が出てきました!
かつての平和を取り戻して見せますね!」
「これは新しく可愛らしい女神様の誕生ですかな?」
「もう聖女だけで十分ですよー。
分不相応って感じですね…。
最初はリーシャちゃんの為に頑張ってたんですけど、今は守りたいものが増えちゃって…でも、助けられるのは手が届く範囲だけで力のなさを実感してます…」
「聖女様はよく頑張っておられます。
力あるものは、それに伴う責任も負うことになりますが、精一杯努力していると思いますのじゃ。
神とて万能ではないのです。
こんなジジイが生意気かもしれませんな。
はっはっはっ!」
「ジルさん…。
そうですよね、今は出来ることを頑張ります!」
丁度、その時にリーシャ達が帰ってきた。
何をしてきたのか、聞きたいくらい三人の服は泥だらけであった。
「お帰りー、って、どうしたの?
泥だらけになって!」
「ただいまです、タルトさまー。
リリーちゃんにぬまにはえる、きれいな花をみせてくれたんです」
「その時にぬまからまものがあらわれたけど、リリーちゃんがいっしゅんでたおしのです!」
「あれくらい余裕…」
「もう分かったからじっとしててね。
洗浄魔法かけるから」
タルトがステッキを出して魔法を掛けていく。
単純に汚れだけを分解してるだけなのだが。
「洗浄魔法とは面白いものが使えますのぉ」
「いえいえー、汚れを取るくらいしか使えませんよー」
「ありがとうございます、タルトさま!」
「ありがとうなのです。
すごいのです、いっしゅんでもとどおりに」
「便利…毎日これで良いのに…」
「あはは…、リリーちゃん、ちゃんと毎日着替えようね…」
少ししてからタルト達は帰ることにした。
「入学の案内を今度、送りますね!
じゃあ、リリーちゃん、次は学校でね!」
「お気を付けてお帰りください。
孫の事を頼みますぞ」
三人が帰ったあと、ジルニトラとリリーは茶器を片付けていた。
「リリーよ、ずいぶんと気に入ったようじゃの?」
「…駄目?…あの二人といる、楽しい…。
ジルも同じ…タルト気に入ってる」
「確かに。
あの子がどのような道を進むのか楽しみじゃな。
だが、あまり干渉するでないぞ」
「大丈夫…」
後日、タルトからの案内に従い、リリーは町に住み学校に通うこととなった。
こうして開校を無事に迎えたのであった。
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