第44話 タルトの判断

「ティート君の気持ちは伝わりました。

でも、仇討ちには力を貸せません」


タルトの返答にティートは愕然とした。

心の何処かでは必ず力になってくれると期待を抱いていた。

断られるとは、微塵も思っていなかったのだ。

それは本人を見てから特に強くなっていた。

それがあっさりと否定されてしまったのだ。


「何故ですか、タルト様!!

理由があるなら教えてくださいっ!」

「そうだなあ、うちも聞いておきたいぜ」


納得出来ないティートはタルトに懇願する。

桜華は真意を見極める為、ティートに同調したが他のメンバーは静観していた。


「…理由ですか。

ティート君は何の為に仇を討とうとしてるんですか?」


ティートは逆に質問されて戸惑った。

今まで説明したのに、何でそんなことを聞かれたのかが分からなかった。


「何の為って、両親の仇ですよ!

アイツを倒して、大元帥の役に就くことで父の後を継ぎたいのです!

そして、力を手にいれてミミの居場所を作ってやるんです」

「その為なら他の全てを捨ててですか?」

「はい、この命でも何でも惜しくはありません!」

「はあ…、ではミミちゃんも同じ考えですか?」

「えっ!わたしは…」


突然、話を振られてミミは驚いた。


「ミミも同じだろう?

両親の仇を取りたいと思ってるだろう?」


ティートは妹に助け舟を出した。


「ティート君は黙っていて下さい。

今はミミちゃんに聞いてるんです」


静かだが、タルトから物凄い威圧感が出ており、ティートは背筋に冷たいものを感じた。


「わたしは…兄上とおなじ…なのです」

「ミミちゃん。

私はミミちゃんの本当の気持ちが聞きたいな。

ミミちゃんの何をしたいのかな?」


タルトはミミに優しく語りかけ、頭を撫でた。

ミミはどうするか、しばらく悩んだ末、抑えてた気持ちが溢れて涙を流した。


「わたしは…わたしは兄上といっしょにいたいのです!

お父さんとお母さんのことはくやしいけど…兄上までいなくなっちゃうのはいやなのです…」

「ちゃんと話してくれて、ありがとう。

ずっと我慢してたんだね」


ミミは溢れる涙が止まらず、泣き続けた。

タルトは優しく抱き締めて頭を撫でる。


「ミミ…」


ティートはそんな妹の気持ちに気付いてやれなかった。

本当の気持ちに嘘をついて、自分に合わせてくれていた優しい妹の気持ちに。


「さて、ティート君。

両親は死んでいますが、ミミちゃんは側にいるんです。

君がこれからしなくては、いけないことは本当に仇討ちですか?

その選択は自分の命は元よりミミちゃんにも危害が及びます。

この子を危険に晒したり、悲しませる事が君の願いなのですか?

ミミちゃんは兄であるティート君と一緒に居たいだけなんです」

「それは…」


ティートは今まで信じてたものが音を立てて壊れた気がした。

仇討ちなんて、自分の欲望であり、その怨念に取り付かれ周りの事が見えてなかった。


「それに私が仇討ちに力を貸すことになれば、この町の人たちにも被害が出るでしょう。

関係もない戦いに巻き込まれる事になりますから、そんな決断は絶対に出来ません」

「タルト様らしいご決断デスワ」

「タルトはこの子の気持ちを見抜いていたんだな」


周りのメンバーはタルトらしい回答に満悦のようだ。

ただ、ティートは呆然としている。


「俺は…どうすれば…、

どうすれば良いんですか?」


そんな兄を心配そうに見つめるミミ。


「私としてはミミちゃんの気持ちに答えてあげて欲しいですね。

それなら、二人の生活と安全は守ると約束します」

「タルト様…。

分かりました、これからはミミの幸せになれるよう努力します!」

「お父さんも最後に家族の心配をしたんでしたよね?

仇討ちよりも二人が幸せになることを両親も望んでるはずです。

その為になら出来る限りの援助しますね」

「俺達の為にありがとうございます…」


ティートは椅子から離れて土下座した。

お世話になることも、そうだが、目を覚ましてくれた事への感謝の気持ちが大きかった。


「では、これにて一件落着!」


タルトはここぞとばかりのどや顔であった。


「それで早速お願いがあるのですが…」

「お願い?

何でも言ってみなさい!」

「まず、しばらくミミを預かって貰えるでしょうか?

その間にもっと修行をしたいと思うんです」

「ミミちゃんを預かる!?

も、もちろん大丈夫だよ!」

「ありがとうございます!

それで桜華様、俺に師事願えるでしょうか?」

「うち?人に教えた事なんてないぞ」

「俺はミミを守れるように強くなりたいんです!

俺の師匠になってください!」

「師匠って呼び方は悪くねえなあ。

だが、出来るかねえ」

「桜華殿、私も手伝おう。

普段、兵士に教えてるので手伝えることもあるだろう」

「流石、ノルン。

それは助かるねえ!」

「お二人とも宜しくお願いします!」


ティートは深々とお辞儀した。

生来から真っ直ぐな性格なのだろう。


「さて、ミミちゃんは私の家で面倒見るからねー。

この子はリーシャちゃんだよ。

これからは一緒に暮らす家族だからねー」

「え、と、ミミです。

よろしくおねがいします」

「り、リーシャです。

よ、よろしく…おねがいします」

「二人とも同じくらいの歳だし仲良くね!」


こうして町に新しい仲間が増えたのであった。

この日の夜はエグバートの店で歓迎会を開催した。

歓迎会が終わった後、タルトはミミを連れて家に戻った。


「ここが今日からミミちゃんの家だよ!」

「お、おせわになります」


タルトは中を簡単に案内していった。


「さて、長旅で疲れてるだろうからお風呂でゆっくりしようか!

体も綺麗にしないとね」

「うわー、こんなにいっぱいのおゆなのです!」

「こっちにおいで。

リーシャちゃんと順番に洗ってあげるから」

「じ、じぶんであらえるのです…」

「ここではシャンプーといって泡立てるから慣れてないと難しいからね。

恥ずかしがらないで大丈夫だよ!」

「うぅ、おねがいするのです…」


タルトはミミの髪を洗い始めた。


「ミミちゃんは髪が長いから丁寧に洗わないとね」

「あわがすごい良いにおいがするのです」

「香料が混ぜてあるからねー、

このまま尻尾も洗っちゃおうかな。

うわ、フワフワして気持ちいい!」

「あ、あ、しっぽはだめなのです!」

「大丈夫だよー、汚れ易いから綺麗にしないと。

それにしても大きいんだね」

「あぁ、へんなかんじがするのです…」

「さあて、体も洗おうねー。

やっぱりフニフニでスベスベだね!」

「く、くすぐったいのです…」

「お胸は仲間で良かったよ。

でも、柔らかくて気持ちいいー」

「だ、だめなのです…。

ふあっ!もんじゃだめなの…です」

「全部洗わないとねー」

「そ、そこはっ!

だめ…なのです…あ、あぁ」

「はあい、綺麗になりました!

お風呂に入って待っててね。

じゃあ、次はリーシャちゃん、おいでー」

「おねがいします、タルトさま」


こうして初めての銭湯で寛いだあと、三人はおなじベッドで眠りについた。

タルトが暴走しかけたのを、ウルが強制終了させたのは言うまでもない。

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