第32話 決着

タルトの左肩と右の腿からは流血していた。

端からみれば立ってるのもやっとという感じだ。

だが、その顔は諦めておらず、真っ直ぐに桜華を見据えている。


「先手は譲るぜっ!

その状態から何が出来るか見せて貰おうかっ!!」

「行きますよ、シャドウミスト…」


タルトが魔法を唱えた途端、辺りに濃い霧が発生し周りが全く見えなくなった。


「おいおい、なんだこれは?

姿を隠して魔法で狙い打ちする気か?」


だが、一向に魔法は飛んで来なかった。


「そっちから来ないならこっちから行くぜっ!!」


桜華は思いっきり薙ぎ払い、剣の風圧で霧を吹き飛ばした。

視界が開け周りを見渡してもタルトの姿はなかった。

だが、直ぐに空中に浮いているのに気付いた。

しかも既に傷は完治しているようだった。


「なるほどねぇ、さっきのは治癒の時間稼ぎかい。

まさか治癒魔法も使えるとはな。

ますますお前が欲しくなったぜ!」


タルトはそのままゆっくりと地上に降りてきた。


「良いのかい?

うちは飛べないから飛んでる方が有利なのに」

「貴方には正々堂々と勝ちたいんです!

私は魔法少女ですから魔法で勝って見せます」

「あっはっはっはっ!

やっぱり面白いねぇ、剣と魔法のどちらが強いか比べてみようじゃないかっ!!」

「貴方もさっき、会話せずに一気に止めを刺すことも出来たのにそれをしなかったですよね?」

「簡単に止めを受けてくれるとは思えないが、そんな動けない相手を切るなんて好きじゃないんだよ。

殺したい訳じゃないし、敗けを認めてくれると良かったんだがな。

だから、正面から切り伏せて心から敗けを認めさせてやるよ!」

「本当に気持ちのいい人ですね。

さっきの紫電は連発出来ませんね。

あれだけの高速の連撃ですから腕の負担が大きいはずです。

それで利き手が動かなかったから、無理に攻めなかったのかなと」

「よく気付いたな。

だが、次で終わらせてやろう。

下手な攻撃じゃ治癒されちまうからな!」

「最後の必殺技ですね。

それでも、私が勝たせて貰います!」

「参の太刀は時間制原付の身体強化だ。

その間は紫電も打ち放題だ。

一瞬で終わらせるがな、…巫覡ふげき


次の瞬間、桜華から圧倒的な気迫を感じた。

巫覡とは神をその身に降ろすこと意味し、神憑き状態で戦ってるような程、強化される事から名が付いた。

通常の状態でもギリギリ躱せたほどなので、巫覡を使用した場合は目では追えないだろう。

だが、タルトは落ち着いたまま身構えていた。

ステッキに魔力を込めているようだった。


「その魔法ごと切り裂いてやる。

行くぞっ!!!」


目にも止まらぬ速さでタルトに近づいた。


「これで終わりだっ!紫電っ!!」


桜華が技を発動させようしたが、タルトは動かない。

反応が出来ないだけと思い、桜華は自分の間合いに入れようと一歩踏み出した瞬間…


ずぼっ ずぶずぶずぶ…


踏み出した足が地面に沈み、その剣は空を切った。

しかも、どこまでも底がなくどんどん沈んでいく。


「なっ!?

何だこれはっ!?

さっきまでこんなのはなかったぞ!!」

「罠に嵌まりましたね。

ゼロ距離のマジック…バスターーーッ!!!」


避けることも足場が悪くて剣も振れない状態で桜華に直撃した。

凄まじい爆発音と共に爆風が吹き荒れた。


「姉上っ!!!」


土埃が落ち着くと立ち尽くすタルトと倒れてる人影が見えてきた。

桜華は仰向けのまま倒れて動いてはいなかった。


「はあっ、はあっ…。

最後のは全然見えませんでしたよ」

「あっはっはっはっ!!」

「姉上…?」

「敗けだっ、敗けだっ!

もう動けねえ!

さっきのは何だったんだい?」

「あれは霧で時間稼ぎしてる時に治癒と併せて作っておいた底無し沼です。

剣には踏み込みが大切だったと思ったので、足場を悪くする事を思い付いたんです」

「なるほどな、霧が晴れたとき空中にいたのも地面から注意を逸らす為だな?」

「あはは、ばれちゃいましたか。

手品でも注意を引いてるのとは、違う場所に種があるそうですよ」

「手品が何だか分からねえが、大したもんだ!

落とし穴で負けるとは、とんだ笑い話だな」

「これで私の勝ちですから、仲間になってくれますね?」

「ああ、二言はないっ!

その前にここから出してくれると嬉しいんだが?

さっきのは時間制限もあるし、使用後は動けねえんだ」

「あっ、すいませんっ、すぐ引っ張りますね!」


タルトは空中から思いっきり引っ張り底無し沼から救出した。

ついでに服の洗浄魔法も掛けて泥を取ってあげた。


「姉上、大丈夫ですかっ?

さっきの爆発で死んじゃったかと思いましたよーーーー」

「こら泣くなっ!それに勝手に殺すなっ!

最後のは死なない程度に手加減されてたしな」

「気付いてたんですね。

仲間になって貰いたかったし、誰も死んで欲しくないんです。

こんな世の中で甘いとは分かってるんですが…」

「いいんじゃないかっ!

うちも無闇に殺したい訳じゃない。

戦うのが好きなだけで殺したいんじゃないからな」

「桜華さん…」

「じゃあ、早速、聖女様の眷属にして貰おうか!

弟と二人だが宜しく頼むな!」

「僕もですか!?

まあ、聖女様の考えには大賛成ですが…」


二人の契約をさっと済ませ、町に戻ることにした。


町に戻ると正門にリリスとカルンが待機していた。

横にはリーシャもいて、楽しそうに話していた。

こちらに気付き手を振っている。


「オオ、勝ったみたいダナー。

その鬼が新しい仲間カ?」

「ただいまー!

鬼族の桜華さんと琉さんです。

仲良くしてあげてねー」

「ええっと、リーシャです。

よろしくおねがいします」

「はっはっはっ、可愛い娘だね!

こちらこそ宜しくな!」

「こっちの二人がリリスちゃんとカルンちゃんです!

もう疲れたしお風呂入りにいこー!」


歓迎の意味を込めて皆でお風呂に入ることにした。


「ここでも風呂に入れるとはな!

それにしてもいい湯だなあ」

「うぅ…桜華さんも巨乳だ…」

「なんだ、聖女様は胸の大きさを気にしてるのか?

どうでもいいことに拘るんだな」

「とても大切なことですっ!

大きい人には分からないんですっ!」

「まだ子供なんだし、これから成長するんじゃないか?」

「魔法少女は成長しないんですっ!

もう期待できないんです…」

「ふうん…じゃあ揉んでやるよ。

大きくなるって聞いた事があるぜ!」

「えっ、えええええ!!

ちょっと、どこ触ってるんですか!?」

「おっ!?小さいけど柔らかいんだな」

「あっ、駄目っ、くすぐったいっ!」

「タルト様の為にワタクシも手伝いマスワ。

アア、これがタルト様の胸の感触ッ!」

「シトリーさんまでっ、あっ、あっ、もう…だめ…」

「ヨシ、アタシはリリスを揉んでヤルヨ!」

「コラッ、カルン、ヤメロッ!

くすぐったいゾッ」

「ほら、リーシャも手伝えッテ」

「えっ、えっ、えつ?」


その頃、琉は一人で大衆浴場にいた。

タルト専用は女性用しかなかったである。

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