第30話 新たな訪問者

アルマーニには新たに市が作られた。

これは中央大通りに自由取引が出来、僅かな税率が設定された商業特区である。

一応、町へ商店登録すれば自由に商売が出来たため、様々な種類の店が出店し賑わいをみせている。

また、商人同士の取引も活発に行われており、他国から商品を販売や仕入に来る者も多かった。

タルトとマイルズは市の活況ぶりを見て回っていた。


「聖女様がご提案されたこの市はご覧の通り賑わいをみせておりますぞ。

畑で栽培した香辛料も高値で取引され、好評を得ておりますな」

「何か美味しそうなものがいっぱい並んでるね!

見たことない食材もあんなにいっぱい。

歩きながら食べれるような物を売ってる出店も作ったら楽しそう!」

「それは良い考えですな。

観光に来たものが色々な国の料理を手軽に食べれれば流行りますぞ!

早速、誘致するよう手配しておきます」

「うん、楽しみにしてるよ!

そしたら皆と食べ歩きしたいなー」


タルトはゆっくりと歩きながら並べられている商品を見ていった。

そうすると人だかりが出来ている店を発見し、人を掻き分けながら何を売ってるかを見ようとした。

店頭には見慣れたものが並んでいる。


「これは……!?」

「これは一番人気の商品ですぞ!

聖タルト神殿にあります聖女様の石像を模した木彫りと陶製の像になります」

「えええええぇぇっ!!

妙にリアルで着色もされていて恥ずかしいんですけどっ!」


像はどちらも精巧に作られており、魔法少女時のタルトがモチーフである。

木彫りは顔立ちまではっきり分かるが、色合いなら陶製の方が良かった。

店の中にびっしりと並べられており、すごい勢いで売れている。

壁にはタルトの肖像画が貼ってあるが、非売品のようだ。


「いやぁー、聖女様の神々しさを表現するには着色は欠かせませんでしたな」

「ああああっ!

よく見るとパンツまでリアルに再現されてるっ!?」

「これを再現するのは難しかったのですぞ。

飛んでるときも何故か誰も見ることが出来ず、想像で作りましたからな」

「いやっ、そんな苦労話されても駄目ですからっ!

それに飛んでる時って、皆してなに見てるんですかっ!

女の子のスカートのなかを覗くなんて犯罪です!」


ちなみに、この世界にはそんな法律はない。


「これが特に若い男性に大人気でしてな。

良い収入となって町の発展に役立ってますから、ご容赦頂けると…」

「確かにフィギュアってそういうものだけど…。

じゃあ、せめて胸をもう少し大きく…」

「胸ですか…?

なるべくリアルに再現しておりますが…」

「いいから、お願い!

少しでもいいから大きくしてくれたら許可するから!」

「聖女様たってのお願いならやむを得ませんな」


数日後から店頭には少し胸が大きくされた人形が陳列された。

実際にタルトにあった事がある者はツッコミしたかったが口に出すことはなかった。

その後、着せ替え可能な人形を見つけたタルトが愕然としたのは、また別の話である。


あらかた店を見終わったタルトは正門近くまで来ていた。

そこで正門の外で門番たちが集まっており、武器を手に取り戦闘体制となっていた。

タルトは急いで駆けつけ、門番の一人に声を掛けた。


「何があったんですか?

魔物でも攻めて来たんですか?」

「これは聖女様!!

あそこのいる二人組が聖女様を連れてこいと言うので、断ったらいきなり攻撃を受けまして…」


タルトは門番が指差す方を見ると、若い男女が立っていた。

女は20歳代と思われ長い黒髪を結んでおり、どこか和を感じさせる美人だ。体は肌が見える足や腕から引き締まっているのが分かるが、胸も大きく女性らしさも見受けられた。

背中には大刀を背負っており門番の一人を片手で軽々持ち上げていた。

男の方は女と比べると弱々しそうでオロオロしてるように見える。

二人とも和と中を混ぜたような服装で頭には角らしきものが生えていた。

女の方がタルトに気付き、手で持ち上げていた門番を放り投げてこちらに振り返った。


「今、聖女って言ったか?

もしかしてそこのちっちゃいのが噂の聖女様か?」

「ええぇっと、私が聖女をしてるタルトですが、まずは門番の方を攻撃するのは止めてください」

「見た目は普通の人間の子供だな。

お前以外に用はないから、関係ない奴は下がってな!」

「私に何の用ですか?」

「お前強いんだってな?

噂では山を動かしたり、悪魔の大群を一人で根絶やしにしたとか色々と聞いたぜっ!」

「何ですか、その噂はっ!?

そんな怖いことしてないんですから!」

「姉上、二人だけで攻めこむなんて駄目ですって!

噂通りなら殺されちゃいますよー」


横の男は今にも泣き出しそうで、女を必死に止めている。


「あなたたちは何者ですか?

何が目的なんですか?」

「悪い悪い、まだ名乗ってなかったな!

うちは鬼族の桜華オウカだ!

そして、こっちの弱そうなのが弟のリュウだ」

「琉と申します…。

姉は無礼なことを言ってますがお許し下さい…」

「だからお前は強くなれないんだ。

目的が知りたいんだったな?

そんなの単純に強い奴と戦いたいだけだ!」


(あっ、駄目だこの人。

強敵と書いてトモと読む人だ。

しかも、会話は拳でね♪とか言いそう…)


タルトは呆れながら桜華の話を聞いていた。


「戦う以外の選択肢はないんでしょうか?

こちらは戦う意志がないんですが…」

「僕もそう思います!

すぐに姉を説得して連れて帰りますのでっ!」

「琉は黙ってなっ!

町を攻撃すれば少しはヤル気が出るかな?

あまり弱い奴を虐めるのは好きじゃないんだが、態度次第ならしょうがないな」

「私が戦えば他の人には攻撃しないんですね?

本当は話し合いで解決したかったんですが…」

「ああっ!?

話し合いは拳で語り合えば良いだろうが!」

「あっ、やっぱり…」


しぶしぶ決闘の申し込みを受けたタルトは被害が出ないように町から少し離れた。

桜華も戦えるならと素直に移動の指示に従った。

少し離れたところにある広い原っぱで二人は対峙した。

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