第29話 目安箱

領主のオスワルドは村人からの嘆願書を読んでいた。

これはタルトの指示で各村に目安箱を置いて、要望や相談を集めていたからだ。

大体の依頼はオスワルドだけで処理をしていたが、手に負えない場合はタルトに相談をしていた。

今日も依頼に目を通していたら、気になるものを見つけた。


「これは…。

内容は畑に現れる魔物の討伐依頼か」


オスワルドは部下に小隊を編成させ、調査を指示した。

可能であれば討伐までだが、強ければ無理せず撤退するよう念を押した。


数日後、小隊が帰還し報告を受けた。


「申し上げます!

この辺では見かけない魔物で近づくとかなりの速さで逃走しました。

取り囲んで攻撃を仕掛けたところ、思わぬ反撃にあったので指示通り撤退しました」

「そうか、ご苦労だった。

重傷者はいるか?」

「いえ、すぐに撤退したため軽傷のみです」

「それは良かった。

相手は中々の強敵のようだな」

「最初は逃げ回るばかりで油断しました。

無数の針を飛ばしてくる厄介なやつです」

「そうか、では俺が出よう!」


オスワルドは部下では対応できない場合、率先して対応を行っていた。

この日も数名の部下を連れ、魔物討伐に向かった。


その数日後、オスワルド邸にタルトの姿があった。

ベッドに横たわるオスワルドに治癒魔法を掛けていた。


「おおおおおおっ!

聖女様に治癒して頂けるとは夢の様です!

この痛みが快感に変わりますっ!」

「うぅ…治療するの止めようかな…」


前回の事もあり、あまり治療をしたくなかったがオスワルドなりに努力した結果だったので嫌々ながら対応していた。


「それで、そんなに強い魔物だったんですか?」

「素早く逃げ回りこちらの攻撃が当たらず、隙をみせると針で攻撃されました。

無様を晒して申し訳ございません」

「いえいえ、これくらいの怪我で済んで何よりです。

死なないことが何よりも大切ですよ」

「御慈悲に感謝します。

聖女様なら問題ないでしょうがお気をつけ下さい」

「うん、気を付けて行ってくるね!」


治療を終えて別室で待っていたノルンとシトリーと合流し問題の村に向かった。

そこで村長から被害状況などを聞くことにした。


「これは聖女様。

こんな遠くまでわざわざありがとうございます」

「村長さん、厄介な魔物に襲われていると聞きまして討伐に来ました」

「襲われるというとちょっと違うかもしれません。

近寄らなければ何もしてこんのです」

「何もしてこない?

普段は何をしてる魔物なんですか?」

「それが…畑でじっとしてるんです」

「それは…動かないって事ですよね?

何をしてるんでしょう?」

「良く分からんのです…。

だが、畑仕事をするために少しでも近づくと攻撃されるんです」

「変な魔物ですね…。

あまり被害が出てないので安心しました。

ここはどぉーんとお任せください!」

「ぜひ宜しくお願いします!」


村人に案内をしてもらい目的の畑に向かった。


「あれは…」


噂の魔物はすぐに見つかった。

確かに畑のど真ん中にじっと立ち尽くしている。

この距離では逃げもせず攻撃もしてこない。

だが、タルトは一目見ただけであるものをそうぞうした。


「サボテンダー…」


そう、タルトよりも小さいサボテンが立っていた。

その上部には目と口っぽいのが見える。


「あれは…。

この辺の魔物ではないな」

「ノルンさん、知ってるんですか?」

「確か、昔に見覚えがある。

名前はサボッテルンだったな」

「サボッテルン!?

サボテンダーじゃないのか…」

「さぼてんだーが何かは分からないが、あいつは危険な相手だぞ」

「あんな植物はこんがり焼いてあげマスワ」

「いや、あいつは燃やすと分裂するんだ。

沢山の小さいサボッテルンは手が付けられないぞ」

「面倒な相手デスワネ。

弱点はご存知デスノ?」

「聞いただけだが追いかけて捕まえると大人しくなるらしい。

その上で箱に入れておけば干からびるそうだ」

「じっとしてるけど何をしてるんだろう?」

「動かないからサボッテルンと呼ばれるようになったと聞いたぞ」

「全くどうしようない魔物デスワネ。

さっさと捕まえて終わらせマショウ」


三人は三方に散ってサボッテルンを追いかけ始めた。

タルトが陽動としてわざとらしく大袈裟に突っ込んだ。

サボッテルンは一定の距離を詰められると逃走を始めた。

しかし、逃げた先にシトリーとノルンが先回りし待ち受けていた。

待ち伏せされたサボッテルンは無数の針を二人に向けて高速で放出した。


「甘いデスワ!」

「甘いっ!」


飛んできた針をシトリーは炎で焼き尽くし、ノルンは剣を払った風圧で相殺した。

だが、視界からはサボッテルンが消えていた。


「目眩ましか!」

「チッ、忌々しいデスワネ」


三人の追いかけっこは再開された。


一時間後…


「「「はあっ、はあっ、はあっ」」」

「すごいすばしっこいねー」

「全くだ、先人はどうやって捕まえたのだ?」

「ホント、ムカつきマスワ!」


三人が満身創痍で息を切らしながら、休憩してる少し先に相変わらずじっとしている。


「じっとしてるのって、もしかして…」


タルトはサボッテルンをじっと見つめある事を思い付いた。

針で攻撃される間合いのギリギリまで進み地面に手を着いた。

そのまま目を閉じ集中した。


コテンッ


突然、サボッテルンが地面に倒れた。

そのままタルトはトコトコと歩いていき、ヒョイッと倒れたサボッテルンを持ち上げた。


「ナッ!?」

「馬鹿なっ!?」


タルトは持ち上げたサボッテルンを箱に収め、丁寧に箱を密閉した。


「何をしたのだ?

あんなに苦労したのを一瞬で…」

「何でじっとしてるのかと考えたんだけどね、植物だから水分や栄養を地面から吸収してるんじゃないかと思ったんだよね」

「それで何故倒れたのだ?」

「地面に睡眠薬を生成して混ぜたらあっさり寝ちゃったんだよね」

「サスガ、タルト様デスワ!」

「たぶん畑の肥料に惹かれてここに来たんじゃないかな?」

「なるほど。

はぐれてさ迷っていたのが、最近、開拓され良い肥料が撒かれた畑に惹かれて来たのか」

「これで一件落着ですね!

でも、これどうしましょう?」

「干からびれば良いのデスワ」

「放てばまた迷惑をかけるから、仕方がないな」

「なんか可哀想だよね…。

そうだ!」


タルトはサボッテルンを箱に収めたまま、村長に安心するよう伝え帰路についた。

村人は捕獲したことを聞き大歓声が上がった。


数日後、サボッテルンは領主館の訓練所にいた。


「どうしたっ!

それくらいの針を避けるか迎撃するか出来なくてどうする!

もう一度だ!!」


ノルンは剣の指導としてサボッテルンを活用していた。

そこにはタルトとリリスの姿があった。


「アイツが噂のサボッテルンダナ。

箱から出して大丈夫ナノカ?」

「うん、肥料をあそこだけに撒いてあるから動かないんだ。

あとは近寄らなければ問題ないよ」

「夜中逃げだりしないノカ?」

「どうもジャンプは出来ないみたいだから、ここの壁は越えられないみたい」

「でも、訓練してるヤツラは針が刺さりまくってるゾ…」

「だから、私がいる時だけの特別メニューなの」

「ナンカ、オスワルドだけ針に刺されて嬉しそうナンダガ…。

相変わらずブレナイなアイツは」

「あはは…」


(なんかどこかの学校の名物みたい。

そのうち油風呂とかやったりして…)


この訓練はここの名物になった。

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