第23話 戦いの真実

ノルンが来てから数日が経った。

既に傷は完治したが、この不思議な町に興味が引かれ滞在を続けていた。

町を散歩しながら多種族の交流を眺めていたら後ろから声を掛けられた。


「ノルンさん、何をしてるんですか?」

「これはタルト殿。

ここはいくら見ても不思議に思える光景でな」


タルトにはその目が優しく見守るように感じた。


「まだ居たのデスネ。

元気になられたら穴蔵に帰られては如何デスカ?」

「全くこんな悪魔が人々を共存しているとはな」

「そこには天使は入りまセンワヨ。

天使なんて滅びた方が清々シマスワ!」

「まあまあ…ノルンさんもシトリーさんも落ち着いて…」


二人の言い合いが始まりタルトが仲裁するのがお決まりになっていた。

そこに疲労困憊で泥だらけになった青年が駆け寄ってきた。


「はあ…はあ…はあ…。

お助け…ください…聖女様…」

「大丈夫ですか!?

すぐに治癒魔法を掛けますね!」

「私は大丈夫です…。

それよりも村をお救いくださいっ!」


青年は隣の村に住んでおり、多数の悪魔が突然、襲撃してきた事を語った。


「隣の村ってカルンちゃんにお使い頼んでいるんだったっ!」

「はい、カルン様が村人の盾となって戦っておられます…。

私は聖女様に連絡役としてすぐに走り出しました…」

「シトリーさん、すぐに助けにいこう!

リリスちゃんは念のため、ここで待機して別の襲撃に備えて!」

「タルト殿、私も同行しよう」


3人は急いで隣の村に飛んでいった。


近づくと家が燃え黒い煙が上がっているのが見えてきた。

上空で停まると中央広場で10人くらいの悪魔とカルンが見えた。

カルンは後ろの子供を庇っており、実力が全然出せていないようだ。


「ナンダ、コイツ。

悪魔のくせして人間を庇ってヤガル」

「第二階級のわりに防戦一方ダゼ!」

「ソロソロ飽きたし止めを刺してやるか!

そら死ニナッ!!」


カルンは立ってるのもやっとの状態で、もう攻撃を躱す余裕はなかった。

そもそも最初から後ろの子供を庇い、避けられず防御ばかりしていた。

そのカルンに向かって大柄の悪魔が強烈な一撃を繰り出した。


ガキイィィーーーンッ


悪魔の一撃はノルンによって弾かれた。


「ナッ、なんで天使がココニ!?」


続いてタルトとシトリーが地面に降りたった。


「貴方たち………カルンちゃんに何をしたぁーーーーーーー!!!!」


タルトの魔力が暴走し目で見えるほど実体化し渦を巻いた。


「ナンダ、この魔力ハッ!?」

「コイツ人間ダゾ!?」

「タルト殿の力がこれほどとは……」


シトリーがタルトの前で出て跪いた。


「タルト様、アイツラの始末はワタクシにお任せ頂けますデショウカ?

汚れ仕事は貴方様には似合いマセンワ」

「シトリーさん……、うん、分かったよ。

気を付けてね」


タルトの魔力が落ち着きを取り戻した。

シトリーの静かな怒りを感じて譲る事にした。

シトリーは立ち上がって悪魔達の方へ振り返った。


「ワタクシは第二階級のシトリーと申しマスワ。

妹分のカルンを可愛がってくれたお礼をさせて頂きマスワヨ」


タルトの魔力に呆気にとられていた悪魔達も我に返った。


「第二階級ダト?

さっきのヤツも大した事なかったゼ!」

「一人でこの人数に勝てると思ってるノカ?」


悪魔達は格上のカルンに勝ったことで調子づいていた。


「アナタ達ごとき、カルンでも余裕デスワ。

ただ、人間を守るというハンディがあっただけデスノ。

格の違いを思い知りナサイ。

ダークフレームサークルッ!!」


シトリーと悪魔達の周りに黒い業火の壁が現れた。


「これでダレも逃げられマセンワ。

覚悟は宜しくテ?」

「クソガッ、殺してヤルッ!」


悪魔達が一斉にシトリーに襲いかかった。


「バインド……」

「ナッ、動けネェ…」


黒炎の壁から炎で出来た鎖が飛び出し、悪魔達を拘束した。

それを見てシトリーは上部の空いている所から炎の外に出た。


「もう会うことはありまセンガ、ゴキゲンヨウ」

「まっ待て!?

もう手を出さねえから助けてクレッ!」


シトリーは微笑を浮かべて飛び去った。

黒煙の壁は上部も塞がり完全に密閉され球状に変化した。

段々、球は小さくなり中の物体を焼き付くす。


「「「「ギャアアアアァーーー」」」」

「汚い断末魔デスワネ…」


炎が消えると何も残っていなかった。

決着がつき張り詰めた緊張感が解けたカルンが倒れた。


「カルンちゃんっ!?」

「遅い…ゼ……タルト…姉……」


カルンは目を閉じ喋らなくなった。

その顔からは生気が感じられない。


「もう手遅れのようだ……」

「うわああああああああああっっっっsーーーー!!!」


ノルンが脈を確認したが何も感じなかった。

それを聞いてタルトは叫び泣き始めた。


(私のせいだ。

こんな世界なのにもっと防衛の対策をするべきだった…。

魔法少女になって強くなったと思い込んでた。

本気を出せばなんとかなると調子にのって。

それがカルンちゃん一人も助けられないなんて……)


辺りを見渡せば、あちこちに村人の死体があった。

血と何かが焦げる臭いが充満している。

タルトはこの世界に来て初めて戦いというものを知った。

戦いの本質とは殺しあいだ。

日本では戦争なんて過去の事で、命を掛けた戦いの本当の意味なんて知るよしもない。

弱きものは蹂躙されるのがこの世界の常識だ。

そんな場面に初めて出くわしたのだった。


(自分は何て無力なんだろう……)


横たわる少女の前でただ泣くことしか出来なかった。


「タルト様……。

カルンは良く頑張りマシタワ……」


シトリーが慰めの言葉を掛けるがタルトには届いてなかった。

タルトはふと、昔見たテレビ番組を思い出した。


(……確か急死に一生とかいう番組で…。

……脈が止まってもまだ細胞は生きてるって聞いた事がある……。

今ならまだ蘇生が可能では…?)


タルトの目には光が戻った。


(ウルっ!!治癒は私が行うから空気を肺に送り込んでっ!

絶対に助けるよ!!)

『マスター、貴方なら出来るはずです。

自分を信じて!』


全力で治癒魔法をカルンに掛ける。

その大量の魔力で光輝いた。

カルンの傷がみるみる塞がっていく。


「…これは奇跡か…?」


その光景の神々しい光にノルンは思わず呟いた。


(魔法が効いてる……、まだ細胞が生きてる。

これなら助けられるっ!!)


治癒が終わり外傷が消えると、カルンの胸の上に手を添えた。


「……ショックウェーブッ!!」


ビクンッ


AEDの要領で心臓に電気ショックを与えた。


「……もう一度!」


ビクンッ


「……カハッ」

「カルンちゃんっ!!!」


カルンは息を吹き替えした。

タルトは力強く抱き締めた。


「…痛テェヨ…タルト姉……。

死んじマウッテ……」

「今まで死んでタノヨ、アナタ。

タルト様がお救いになったのデスワ」

「マジカ……遂に死人を生き返えらせタノカ…。

何でもアリダナ……」

「…もう駄目かと思ったよ……。

本当に良かった……」


ノルンはその光景に驚愕していた。

長い年月生きてきたが死んだ者を生き返らせるなんて聞いたことがない。

それが人間の少女が目の前で奇跡を起こした。

そう、奇跡としか形容しようがなかった。


「貴殿は一体……」


タルトは落ち着きを取り戻し、周りを見渡した。

たくさんの死体が転がっている。


「私は皆で平和な世界が作りたかっただけなの……。

それは不可能な事なのかな……?

何も知らない子供の夢だったかな…」


落ち込んでるタルトにシトリーが優しく声を掛けた。


「ワタクシは貴方様の甘い夢が好きデスワヨ。

いつの日か実現できると信じてオリマスワ。

微力ながらワタクシ達が支えマスノデ」

「シトリーさん……」

「タルト姉、アタシもいるんダゼ!

安心シナ」

「…さっきまで死んでたのに安心出来ないよ……」


タルトの目からは大粒の涙が流れた。

しかし、表情は満面の笑みだった。


「……タルト殿、少し宜しいか?」

「どうしたんですか、ノルンさん?

そんなに改まって」

「その夢に私も協力させて貰えないだろうか?

何百年も戦い続けてきたが、一条の光が見えた気がする。

今までと違った未来がある気がしてな」

「…ぜひ、こちらからもお願いします!」


ノルンは血の契約を行い、眷属となった。

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