東谷 沢崎 小川 M

 ダイナマイトの爆発音やMの鳴き声を頼りにようやく駆けつけた東谷と沢崎は、目の前の光景を見て唖然とした。


 小川がMにしがみついている。


 何という男だ――。


 あの怪物に肉弾戦を挑むとは……思いもよらないことだった。 


 たぶんMも驚いているのではないか? 飛びまわる様は、これまで人間達を小馬鹿にしたようだったのが、明らかに苛立ちを見せていた。目の点滅が異様に早い。


 少し離れた木の陰に、国広達5人がいた。隠れて小川の戦いを見ている。


 隣では、沢崎が自動小銃とサーチライトを手にしていた。そして、ゆっくりと国広達の方へ向かう。


 東谷は、やはり銃を構えながら、沢崎とは別の方向に進んだ。2人同じ場所では一度にやられてしまう可能性があるからだ。


 Mは、どんな飛び方をしても小川が離れないのに業を煮やしたのか、再び背中から落下していった。 


 まずいっ!


 あの高さで落ちたら、小川がいかに頑丈でもただでは済まない。 


 東谷は走った。だが、どうにもできなかった。Mと小川が地面に落ち、ドスッという音が響いた。


 Mが最初に立ち上がる。その赤い目が、ようやく光を増した。だが、すぐに、輝きが薄くなっていく。


 小川がよろよろと立ち上がったのだ。そして、まだMに向かっていく。


 Mが羽を広げた。


 「小川さん、もういい。後は俺達に任せろ」


 東谷は叫んだ。


 小川がこちらを向いた。そして、微かに口元を緩めて笑うと、その場に崩れ落ちた。






 Mは小川を見下ろしていたが、木の陰から顔を覗かせていた沙也香に気づき、一声「キー」と鳴くと飛び上がる。そして、あっと言う間に国広達5人の目の前まで行き、舞い降りた。


 「きゃあぁぁっ!」


 沙也香の、そしてみどり、長尾の悲鳴が響く。国広と国府田が銃を構えるが、二人とも震えて撃てない。撃てたとしても無駄だが――。


 沢崎の自動小銃が火を噴いた。Mの背中に何発も当たる。だが、やはり効き目はない。多少蹌踉けるようにしたが、Mは沢崎に向き直った。


 「化け物、俺が相手だ」


 沢崎が叫ぶ。そして、サーチライトの光をMの目に向けた。


 Mはその光を嫌った。顔を背け、飛び上がる。上空を旋回し始めた。


 東谷は小川に駆け寄った。だが、彼はほんの少しだけ顔を向け、笑みを浮かべると、そのまま再び目を開けることはなくなった。


 「小川さんっ」


 呼びかけても、何の反応もなかった。全身から全ての力が抜け、呼吸もしていない。


 その時小川は、ようやく妻と子に受け入れられていた。薄れていく意識の中で、2人が向こう側の世界へ迎え入れてくれようとしているのを見た。


 やっと、一緒になれる……。そう呟いた。


 東谷は小川に向けて一礼すると、立ち上がり、Mの行方を見据える。


 Mはひとしきり、苛立ちに任せるように空を旋回すると、凄い勢いで東谷に向かってきた。


 かろうじて横に飛んで避ける。地面を転がり、素早く立ち上がったとき、東谷はダイナマイトを手にしていた。逆の手にライターを持つ。


 Mは今度は沢崎に向かった。彼も素早く避ける。


 何回かそれを繰り返した。ダイナマイトのタイミングを計っていた東谷だが、Mはその隙を与えてくれない。






 沢崎が自動小銃を撃った。何発かMに当たり、飛行体勢を崩した。怒ったのか、Mは沢崎の前に降り立つ。


 待っていたとばかり、沢崎は小銃をMの目に向けて撃った。だが、その直前、Mは目の赤い光を消した。すると、弾丸は全て跳ね返された。


 唖然とする沢崎。目こそがMの唯一の弱点ではないか、と考えていた。だが、それは間違いだったようだ。Mは再び赤い光を目に灯すと、ジリジリと沢崎に迫る。


 東谷はダイナマイトに火をつけ腰にさし、自動小銃をMの背中に向けて撃った。そして走る。Mをめがけてひたすら走る。


 Mが振り向いた。まるで滑るように移動すると、東谷の目の前に立ち、羽を勢い良く振った。その先の直撃を受け、東谷は倒れた。更にMが近づいてくる。東谷が小銃を撃つ。


 Mは「ギー」と吼えた。大きな目の下に、鮫のような歯が並ぶ口が開いた。


 今だ――。


 東谷は素早く立ち上がると、腰にあったダイナマイトをMの口に押し込んだ。


 Mは驚いたようだ。目の前の東谷の存在も忘れ、羽をバタバタさせる。


 「東谷、こっちだ」


 沢崎が叫んだ。そちらに向かって、東谷は転がった。合流し国広達の元へ走る。


 振り返ると、Mはまだ、口から体内に放り込まれた異物を何とか出そうと藻掻いている。


 「破裂しちまえっ!」東谷が叫ぶ。


 国広や国府田達が、固唾を呑んで見守った。


 だが、期待は見事に裏切られた。


 Mは大きく羽を広げ、それを鳥のように何度か大きく羽ばたかせると、口からダイナマイトを吐き出した。地面に落ちた途端に爆発し、Mは一旦後方に吹き飛ばされたが、爆音が退くとともに立ち上がる。


 そして「ギーッ!」と一際高く咆吼すると、こちらに向き直り、あの赤い目の光をこれまで以上に輝かせた。


 駄目か――。


 東谷も、沢崎も、後退りするしかなくなった。

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