絵里香 西田

 西田の足取りは次第におぼつかなくなる。絵里香にかかる重さがどんどん強くなる。


 「大丈夫ですか?」


 彼の表情を確かめながら訊いた。西田は小さく頷いたが、口を開くこともできないようだった。


 ようやく、ハイキングコースの入口が見えてきた。


 「もうちょっとです」励ますように言う絵里香。


 すると、西田の目が大きく見開かれた。心なしか、絵里香の負担が減ったようにも感じる。


 例の祠らしき物が見えてきた。


 「よし」


 西田が絵里香から離れた。慌てて支え直そうとするが、彼はそれを手で制した。


 「石像をよこせ」


 大丈夫だろうか、と訝ったが、西田の迫力に、絵里香は言われるままにした。


 西田は石像を抱え、よろよろと祠に向かう。絵里香はその後ろから、いつでも支えられるように着いて行った。


 祠の前に来ると、西田は身をかがめた。だが、中腰になることができず、その場に倒れ込む。


 「西田さん」


 抱き起こそうとする絵里香。


 西田は気を失ったように目を瞑っていた。


 「西田さん、しっかりして」


 西田の目がゆっくりと開く。


 「教えてください。どうやって置けばいいんですか? 私がやります」


 絵里香は叫ぶように言った。


 「いや、俺がやる」


 西田は上体を起こすと、月明かりに向けて石像を翳すようにした。そして祠を見る。それを何度か繰り返した。時折咳き込み、倒れそうになりながら。


 お願い、急いで――。


 絵里香は祈った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます