黒崎

 森の中を時に転がり、時に木にぶつかりながら走った。斜面を転がり落ちることもあった。惨めなことこの上ない姿になった。


 息も絶え絶えとなった黒崎は、ようやく止まると、巨木に背中を預け、しばらく休んだ。


 くそう――。


 悔しさがこみ上げてきた。こんなに感情的になったのは数年ぶりだった。


 沢崎、そして東谷の顔が目に浮かび、拳を幹に叩きつける。


 装備を確かめる。自動小銃、拳銃とナイフ、そして手榴弾が一つ。先ほど部下の死体の側から拾ってきた。


 これで、あの二人を倒すことができるだろうか?


 まともな戦いならまず勝ち目はない。それは、嫌と言うほど思い知らされた。


 だからといって、このまま尻尾を巻いて帰るわけにはいかない。


 今逃げてきた方向を振り返った。


 奴らを殺す。どんな手段を使ってでも――。


 銃を握りしめた。俺はこんな事では終わらない、と意志を強く持つ。


 その時、ガサガサッと上空で音がした。


 何だ、あれは?


 見上げて驚愕する黒崎。


 黒く大きな鳥のような生き物が、木々の間を飛びまわっていた。よく見ると、体に火がついている。


 あれがMか?


 咄嗟に木の陰に隠れ、再度覗き見るようにした。


 Mは体についた火を木の葉や幹にこすりつけることで消そうとしているようだった。


 しばらくすると、Mはもの凄いスピードでそこから飛び去っていった。沢崎達のいる方向だ。


 しばし迷った末、黒崎はMの後を追った。


 Mと沢崎達が遭遇する。当然どちらも無傷では済まない。そこに、つけ入る隙が生まれる可能性がある。


 まだ、俺の運も尽きてはいない――。


 黒崎は本気でそう思っていた。

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