絵里香 大久保
ついに、道の駅に戻ってきた――。
破壊の跡が生々しい建物だが、それを見た時、絵里香も大久保も不思議な懐かしさを感じた。
道無き道を進んできたこともあり、傷だらけだった。何度も転倒したために青痣も数え切れない。途中、迷いそうにもなった。そのたびに方向を確かめ、最小限の失敗で食い止めた。
顔を見合わせると、微かに笑った。まだ早いが、達成感がわきつつもある。
梨沙と阿田川の顔が思い浮かぶ。
二人の死を、無駄にはしない――。
その気持ちを胸に、最後の坂を登り切った。
そして駐車場に向かう。キーがないので拳銃でガラスを割り、トランクを開けた。
「これだ」大久保が石像を持つ。
「さあ、早く元に戻そう」
絵里香が大久保を促す。2人揃って振り返る。
硬直した――。
「M……」
そこに、赤い目をした怪物が立ちふさがっていた。
思わず後退る2人。
Mがゆっくりと近づいてくる。大きな目に赤い光を点滅させながら――。
絵里香は笛をくわえ、吹いた。
Mの歩みが止まる。だが、二人を見つめ続けている。
「絵里香ちゃん、これ」大久保が石像を絵里香に手渡した。「俺が引きつけるから、急いでそれを戻すんだ。笛を吹きながら行け」
「大久保君ッ!」
叫ぶ絵里香を後ろに下げるようにすると、大久保はダイナマイトと拳銃を取り出した。
ダイナマイトを腰にさし、その手でライターを持つ。震えてはいたが、動きに躊躇いはなかった。
「さあ、行って。絶対に成功させるんだ」
大久保は叫ぶと、銃を撃った。Mの胸あたりに当たった。だが倒れない。
Mは目の光を一際大きくすると、再び歩き始めた。大久保に向かってくる。怒っているのか? それともおもしろがっているのか?
笛を吹いても、もうその動きは止められなかった。
「絵里香ちゃん、急げ」
「大久保君……」
「俺は君が好きだった。でも君は、俺が思うよりずっと強い人だったね」
大久保が振り返って微笑んだ。
「さあ、早く行って」叫ぶように言うと、大久保はまたMを撃った。続けざまに何発も。
「私だって、大久保君のことが好きだったんだよ」
大声でそう言うと、絵里香は泣きながら走り出した。
ハイキングコースを目指す。振り返ると、こちらを見ながら笑っている大久保の顔が見えた。
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