M 佐久間 飛田

 あの女――。


 佐久間は右足を押さえながら立ち上がる。だが、絵里香に対する怒りを抱いている場合ではなかった。


 バキバキバキバキッ!


 「ぎゃあ、うぎゃああぁぁ」


 飛田の体が壊されていく音、命を絞り出しているかのような叫びが容赦なく耳に飛び込んでくる。


 「ひぃ」と叫んで、佐久間は走った。右足の痛みを必死に堪え、とにかく走る。だが、もつれて倒れ、斜面を転がった。


 何かにぶつかって体が止まる。生暖かい液体がべっとりと腕についた。


 血だった――。


 ぶつかったのは、飛田の死体だ。月明かりに照らされた顔は、まるでミイラのようにクシャクシャになっていた。目が恨めしそうに佐久間を見つめてくる。


 「うわぁっ!」


 立ち上がろうとして、しかし右足が思うように動かず、またしても斜面を転がった。


 何とか草を掴んで動きを止め、体を引きずり起こすと、目の前に赤い光が輝いていた。


 Mだ。さっきのように、赤い目を点滅させながら近づいてくる。


 佐久間は必死に銃を撃った。そのうち何発かは命中した。だが、Mの動きは変わらない。止まらない。


 すぐに弾は尽きた――。


 「た、助けてくれ。他の奴らが逃げた場所も教えるから、助けてくれ」


 相手が怪物であることを忘れたかのように、必死に命乞いをする佐久間。


 赤い目が、大きく輝いた。その光は佐久間の全身を染めた。


 Mは、大きく羽を広げると、スッと佐久間を包み込む。


 「たす、たす、たす、助けて……」


 佐久間が声をあげるたびに、Mの目が輝きを増した。

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