森の奥 M(怪物)
黒崎によりMという呼称がつけられたその生き物は、今、ようやく田沼の体を離した。
ぐしゃりと地べたに落ちる田沼には、何の精気も残っていない。ほとんどの血液は吸い取られ、内蔵も喰われていた。
久しぶりに――人間とはスケールの違うスパンだが――Mは満足できる狩りができた。
以前同様、人間は美味かった。だが、まだ、人間の感覚で言うところのウオーミングアップの段階だ。
最後の、今足下に落ちている人間は充分に恐怖心を与えたので旨味を増していた。やはり、襲ってすぐに喰うのではなく、充分に恐怖を感じさせた方が良い。
Mは、人間は恐怖を感じたり増悪を覚えたりした時に旨味を増す、ということを知っていた。
それは、体内成分の分泌の状況によるものであるが、そこはどうでも良い。
とにかく、そのような感情を持つ者を襲うか、あるいはそういう感情を起こさせてから喰うのが良いのだ。
Mは人間の負の感情を感じ取ることができる。そして今、やはり何故なのかはわからないが、この森にはそれらが満ちあふれていた。
更に恐怖を与えてやると、ますます味は良くなっていくはずだ。
不意に、Mは自分に向けられた激しい憎悪感に気づき、ゆっくりと振り返る。そこに、人間が一人立っていた。
Mにとっては喰いたくてたまらなくなるほどの憎しみと恐怖を、その人間は持っていた。だが、Mはその人間が自分にとって危険であることも瞬時に感じとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます