武装集団

 受信機から流れる木戸という刑事の声は、宇野と田沼にも聞こえていた。


 黒崎は、マイクを手で塞ぎ、宇野を見る。


 「どう思う?」


 宇野は一旦首を傾げてから「そんな話、信用できません。だが、この木戸という男が嘘を言っているようにも思えない」


 同感だった。だが、田沼は違うようだ。


 「作り話に過ぎません。我々を混乱させるために妙な話をでっち上げているだけだ。惑わされてはいけません」


 今にも無線機に食いついていきそうな勢いで言う田沼。かなり怒りを覚えている様子だ。


 「連中がそんな話を作ったとしても、何も得はない。どうも妙な感じがしますね」


 宇野がそう言うと、田沼は彼を見て「そうやってこちらを惑わせるのが、連中にとっては得なんですよ。捨てておくのが一番いい」と唾を飛ばす。


 黒崎はまだ何か言いたそうな田沼を手で制した。そしてまたマイクに向かう。


 「君の言っている、その死体の話には信憑性が感じられない。我々を混乱させるために作り話をしているとしか思えないが」


 「そんなことはない。これは事実だ。俺はあの死体を目の当たりにした。全身から血液を抜き取られミイラみたいになって、更に内蔵をくりぬかれていた。悲惨すぎて脳裏を離れてくれない。あんなの、人間のすることじゃないぞ」


 木戸の声には悲壮感が含まれていた。これも芝居だろうか? 海千山千の刑事なら、そのくらいできるかもしれない。


 だが、それにしても妙だ。作り話にしても、もうちょっとマシな内容にできないか?


 宇野を見るとやはり困惑している。


 田沼は顔面をヒクヒクさせるほど怒りを表に出していた。


 「もういい。その話は一旦置いておこう。それよりお互いの今後について話そうじゃないか」






 「今後だと?」


 「そうだ。あまり長引かせたいとは思っていない。速やかに目標を達成する。その邪魔をするというのであれば、警察も民間人も容赦はしない。だが、犯罪者でもない人間を無闇に殺傷することもよしとは思っていない。言っている意味はわかるね」


 木戸が息を呑んでいるのが伝わってきた。


 「犯罪者達を差し出せと言うのか?」


 「その通りだ」


 「俺は、犯罪者であってもきちんと法によって裁くのが社会正義だと思っている。君達のやっているのは正義ではない」


 「君と正義について議論している暇はない。それよりも、君達警察官と罪のない一般市民達が助かりたいのであれば、よく聞くんだ。犯罪者達を天童分署の留置場に閉じこめろ。すでに死亡している者がいるなら、その死体も一緒にだ。そして、それ以外の者は分署を出るんだ。道の駅にでも待機して、あとは何も見るな。そうすれば、我々は犯罪者達以外に危害を加えることはしない」


 「本当に、一般市民には手を出さないというのか?」


 「約束する。分署に残っている者、道の駅からでもこちらを見ている者については別だ。死にたくない者は、しばらくの間道の駅に伏せてでもいろ。そうすれば、嵐は去る」


 沈黙があった。考えているのか、別の人間と相談でもしているのか?


 田沼に目をやると、歯噛みしているのがわかった。納得いかないのだろう。


 「時間をくれ」木戸の声が聞こえた。「他の刑事達と相談したい」


 「君がリーダーではないのか? リーダーの判断でいいと思うが」


 「俺は護送の責任者ではあるが、この場のリーダーというわけではない。判断するのに時間が必要だ。一時間くれ」






 「駄目だ」


 「ならば応戦するしかない。お互いに犠牲者が出るぞ。それは回避したいだろう? 君たちが何人いるか知らないが、我々もむざむざ殺されるつもりはない。戦うとなれば、皆必死になる。言っておくが、勝ち目がゼロとは考えていない。すでに5人は倒した。彼らの武器もこちらの手に入った。けして負け戦とは思わない。だが、お互いに傷が残るのは否めない。それを避けたいんだ」


 この木戸という男、なかなか強者だな、と感じた。


 「一時間で長いなら、四十分でいい」木戸続けてが言った。「お互いのために、そのくらいの時間を割くのは無駄ではないだろう?」


 宇野を見る黒崎。彼は、一旦目を閉じたが、ゆっくり頷いた。隣の田沼が激しく異議を唱えそうになったので、その前に黒崎はマイクに向かう。


 「わかった。四十分後にもう一度連絡をいれろ。その時の答えですべてが決まる。それから、その前に何かおかしな動きを見せた場合、即座に総攻撃に入る。それを覚えておけ」


 言い終え、黒崎は無線のスイッチを切った。


 不満そうな田沼が何かを言う前に、指示を出す。


 「田沼、分署と道の駅の偵察にまわれ。指示があるまで偵察だけだ。気づかれないように注意しろ」


 次いで、東西それぞれの橋に張り付かせている部下達を呼び戻す指示を出した。


 しばらく橋は下ろさない。連中も今は分署に足止めになっている。無駄な人員配置はやめ、分署周辺に集中させた方が良い。


 実働部隊の訓練の意味も含めて28名という大人数をかり出したことは、当初は少し大げさかと思った。だが、今となっては、この人数もけして多すぎではないと思える。


 渋々ながら、田沼が動き出す。宇野がその背中を見て表情を顰めた。そして黒崎に視線を戻し「死体の話が気になります」  


 「うむ。だが、今気にしていても仕方がない。何かあるなら、いずれわかる」


 何故か2人同時に、空を見上げた。どんよりとした闇が広がっている。ガラにもなく、不吉な予感がよぎった。

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