道の駅 東谷 木戸

 「君達の目的は何だ?」


 木戸はあくまで冷静に訊いた。


 「犯罪者達だ」


 Kと名乗った男が言った。こちらも冷静な口調だった。東谷は、声の感じからして四十代くらいの無骨な男を想像した。


 「彼らをどうするつもりだ?」


 「抹殺する」


 ピシャリと言われて、木戸は息を呑んだ。チラリと東谷を見てから「なぜだ?」


 「許せないからだ。君は許せるか、そこにいる男達のことを」


 「そのために、我々も巻き込むというのか?」


 「そのつもりはなかった。だが、邪魔をするのであれば、仕方がない」


 Kの声に乱れはない。かなりの強者であると思われる。いったい、どういう連中なのだろう? 


 「この後も、攻撃を続けるつもりか?」


 「残念だがそのつもりだ。目的はまだ、達成できていない」


 「さっき君達の仲間が五人侵入してきたが、失敗した。それは把握しているだろう?」


 「5人とも死んだのか?」


 「残念だが、仕方なかった。そうしなければこちらが殺されていたんだからな」


 「大したものだな、君達も」


 何となく、トランシーバーの向こうで薄い笑みを浮かべているような気がした。


 「これ以上、お互いに犠牲者を出したくないとは思わないか?」


 「そっちにも犠牲者が出たのか?」


 「ああ、そうだ」


 「何人だ?」


 「若干名だ。犯罪者ももう、6人ではない」


 「誰が死んだ?」


 その時だけ、Kの声に感情が入ったような気がした。東谷は、彼らの目的が六人全員ではないと感じた。そのうちの一人だ。後はおまけだろう。






 「応えるわけにはいかない。それよりも、もう終わりにしよう。これ以上争っても、お互いに傷を深めるだけだ」


 「我々に退却しろと言うのか?」


 「そうして貰うとありがたい」


 「それはできない。目的は必ず達成させる」


 力強く、押しつけがましいような口調でもあった。


 「道の駅には民間人もいる。何の罪もない一般市民だ。彼らも巻き込むつもりか?」


 「邪魔さえしなければ、犯罪者以外には危害を加えることはない」


 「ならばなぜ、死体を投げ込むような真似をした?」


 「何を言っている?」


 「惚けるな。さっき、道の駅に無惨な死体を投げ込んできただろう。我々だけでなく、道の駅にいる人々を怯えさせるためか?」


 「くだらないことを言って、我々を混乱させようとしても無駄だ」


 Kは不愉快そうに言った。


 いいぞ、と東谷は感じる。相手に感情を出させるのだ。


 だが、同時に違和感も覚える。死体の件に関して惚けているとも思えなかったのだ。よっぽど芝居がうまいのか、それとも本当に知らないのか?


 「おい、あんな事をしておいて惚けることはないだろう。大体、あの死体は君達の仲間じゃないか。侵入してきた五人と同じ格好をしていた。ボロボロだったがな。彼は何か失敗でもしたのか? だから罰として殺し、あんな無惨な姿にしたのか? ずいぶん厳しい組織のようだな。俺は刑事をやって二十年程度になるが、あれほど酷い死体は滅多に見られない」


 「何の冗談だ? こちらを混乱させようとしているにしては、陳腐すぎるぞ。無駄なおしゃべりで時間を無駄にするのはやめよう」


 「芝居はやめてくれ。きちんと話をしようじゃないか。こっちだって時間を無駄にしたくはない」


 「これ以上くだらないことを言うなら、もう話はやめにするぞ」


 Kの口調に微かに苛立ちが感じられた。






 東谷は困惑する。木戸もこちらを見て首を傾げた。


 まさか、本当に連中の仕業ではないのか?


 「ちょっと待ってくれ。本当に、あの死体を投げ込んだのは君達じゃないのか?」


 木戸は、わざとなのかそれとも本当に慌てたのか東谷にさえわからないくらい戸惑った口調を、トランシーバーに叩きつける。


 「死体が投げ込まれたというのは、作り話ではないのか?」


 「違う。そんなことをでっちあげても何の得にもならない。ちょっと考えればわかるだろう。我々は、君達が脅しをかけるためにやったと思っていた」


 しばらく沈黙が訪れた。木戸が東谷を見つめる。どうなっているんだ? と目で訊いてきたが、応えられるはずもない。


 「本当に……」Kの声が再度聞こえてきた。さっきまでより更に冷徹さを増していた。「五人の侵入者以外に、我々の仲間の死体がそちらにあるというのか?」


 「ああ、そうだ。君達がやったんじゃないのか?」


 「身に覚えのない話だ」


 「犯罪者は誰も最初はそう言う」


 木戸が揶揄するように言った。そうやって相手を感情的にさせようとしているのだろう。


 「我々は犯罪者ではない」


 「いや、警察を銃で襲ってきたのだから立派な犯罪者だろう。それが嫌なら、テロリストとでも呼ぼうか?」


 トランシーバーの向こうで短い溜息をついたのがわかった。そしてKは続ける。


 「くだらんことを言い合っても仕方がない。まず言っておくが、我々は、5人を侵入させた後は、君達に対して何も行っていない。それは断言してもいい。再度訊くが、我々の仲間と思われる者の死体が投げ込まれたというのは本当か?」


 「本当だ」


 木戸は応えながら、困惑した表情を東谷に向けてきた。


 東谷の脳裏に、牧田の言った「怪物」のことが思い浮かんだ。


 しかし、まさか……。

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