道の駅 レストラン 国広

 息苦しく、動悸が激しくなりそうだった。国広豊は、レストラン内をもう一度見回し、警察官達の姿を目にすることで何とか気持ちを落ち着けようとする。


 重苦しい雰囲気だった。当然だろう。


 先ほど投げ込まれた死体は、国広は見ていなかった。


 だが、見た者からどんな状態だったか聞いていた――というよりみんな勝手に話していた。聞きたくなかったのに……。


 更に、凶悪な犯罪者達と同じ空間ですごさなければならなくなった。


 それまで、何とか待機している人々の間に一体感が生まれつつあったが、それも今は感じられない。


 小川がウエイトレスの鳥山美和子や長尾美由紀をしばらく慰めていた。


 すると、二人は立ち上がり、また、人々にジュースやコーヒーを配り始める。


 そんなに飲み物ばかり飲めるものでもないし、また、あんな事があったのだから身体が受けつけないかもしれない。


 実際、死体を見てしまった角田や小山、岡谷、大学生達などは真っ青な顔がまだひいておらず、下を向いたままだった。


 小川やウエイトレス達にしても、本気で飲み物を飲ませた方が良いと思っているのではないだろう。


 動きが必要なのだ。これだけ大勢の人間が集まり、沈黙しているだけでは、重い空気がますます増していく。少しだけでも、些細なことでも、動いて変化をつけた方が良いと判断したに違いない。






 国広の側から、沙也香が離れていく。


 「あっ」と声を出すと、振り返った沙也香はニコッと笑い、「手伝ってくる」と言った。みどりと顔を見合わせる。


 「どうやら、あの子が一番頼もしいみたい」


 苦笑しながら言うみどり。国広も何とか笑い、頷いた。


 犯罪者達五人のいる方に目を向けた。あの恐ろしい男達が、今、自分達と同じ立場であるのが何か皮肉に思える。


 見るからに凶悪そうな男が三人いた。そして、映画俳優のような風貌ながら、鋭利な刃物の鋭さを感じさせる男もいる。だが、国広が一番恐怖を感じたのは彼らではない。


 一見普通の若者、そう、客の中にいる大学生達に混じっても全く違和感のなさそうな男がいた。とても凶悪犯には見えない。


 しかし、彼がこのレストランに入ってきた時の不気味さはこれまで感じたことのないものだった。


 真っ先に沙也香に視線を向けてきた。まるで吸い寄せられているかのような表情になっていた。その時、背筋が寒くなり何とも言えない不安な感覚が襲ってきたのだ。


 小さな女の子が一人だけいるということもあり、他の犯罪者達もチラリとこちらを見てきたが、すぐに興味を失ったようだった。


 だが、あの男だけは違う。いつまでも沙也香に向けられていた視線はまるでスライムのようにねっとりとしていた。


 確か最近、幼女を誘拐して乱暴した後に殺害した犯人が捕まった、というニュースを見た。まさか、それがあの男なのか?


 心配になって沙也香の姿を目で追った。


 「あっ」思わず声をあげて立ち上がってしまう。


 なんと沙也香は、飲み物を乗せたトレーを手に、犯罪者達の真っ只中にいた。

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