分署 警官達 囚人達

 「すまない」


 板谷が頭を下げながら言った。力のない声だ。


 同じように飛田も頭を下げる。2人とも首筋を押さえて苦痛の表情を時折浮かべる。どうやら、強力なスタンガンで襲われたようだ。


 もしナイフやサイレンサー付きの銃であれば2人は死んでいた。


 敵がそうしなかったのは、ターゲットの救出もしくは殺害以外には被害を最小限にしようとしていたからだろう。


 加藤が侵入に気づかなかったら、あるいは中里と勝俣も気を失わされただけだったのかも知れない。


 そう考えると複雑な思いが東谷を襲った。3人の警察官が命を失った。それ程の犠牲を払ってまで、この犯罪者達を保護する必要があったのだろうか?


 倒した5人の死体は留置所に置いた。皆日本人男性だった。当然ながら、身元を探ることのできる物は身につけていなかった。


 加藤、中里、勝俣の遺体は、迷った末に留置所の別の房に横たえられていた。また、後藤の遺体も別に1体だけ置いた。


 1階のロビーに集まっていた。沢崎達犯罪者も一緒だ。手錠をしている。藤間と熊井が2階で警戒している。裏口には事務机やロッカーなどを運び、バリケードをつくった。


 襲撃者達の装備が、今、目の前にあった。銃と自動小銃がそれぞれ5丁。予備の弾。サバイバルナイフがやはり5つ。そしてトランシーバー。


 自動小銃はヘッケラー&コッホ社製のMP5だった。東谷は驚愕した。こんな物を使用しているとなると、単なる暴力団組織や過激派とは思えない。


 一体何者だ……?


 東谷が険しい表情で腕を組むと、重苦しい雰囲気が更に濃度を増し、息苦しささえ覚える。いまだに三国の啜り泣くような声が聞こえてきて、神経を逆撫でした。


 「東谷くん」


 正面玄関を警戒していた牧田が顔を出した。その後ろに、道の駅責任者の篠山がいる。


 「道の駅にいる人々も、さっきの銃声に気づいたようだ。車が爆発炎上したのも知っている。異常事態だと感じているはずだ。現に篠山さんもそう思ってここに来た」


 見ると篠山の表情も硬直していた。あらかた牧田に説明を受けたのだろう。


 東谷は決断せざるを得なかった。ここが更に手薄になるが、道の駅に誰かを向かわせた方が良い。






 「今、道の駅には何名の人がいます?」


 東谷が訊くと篠山は少し考えてから応えた。「19人です。従業員が7人。お客が12人になります」


 「19人か……」木戸が顔色を曇らせた。けして少なくはない。


 「あちらにも警官を配備した方がいいな」牧田が言う。


 「はい」頷く東谷。そして考える。


 襲撃者達の狙いは、今この場にいる犯罪者達の中の誰かだ。その救出か殺害――。道の駅にいる人たちが巻き込まれたり、あるいは道の駅そのものが襲われたりする可能性はそれほど高くはないだろう。


 しかし、楽観視はできない。2回の襲撃が失敗に終わったとなると、敵はどう出てくるかわからない。あと何人いるのかも不明だ。多数いる場合、強引に道の駅もひっくるめて総攻撃をかけてくる可能性さえ捨てきれない。


 悩んだ末、東谷は牧田を見た。


 「分署長、藤間を連れて道の駅をお願いできますか?」


 牧田は頷いた。2人だけということに不満を持ったかもしれないが、特に何も言わない。この場で凶悪犯罪者達と一緒にいるよりはマシと考えたのかもしれない。


 「レストランがこの分署から一番離れている。そこに全員を集めて待機していてください。それから、もし何かあったら、非常ベルを鳴らしてください」


 電話も無線も通じない今、それしか危機を知らせる術はない。


 「わかった」


 「こちら側からも、道の駅周辺で不穏な動きがないか、充分に観察します。何かあったら、私がすぐに行きます」


 「頼むよ」


 牧田と藤間が、篠山とともに出て行く。藤間は不安そうな表情を隠さなかった。


 自動小銃を持っていくか訊いたところ、牧田は使い方がわからないからと断った。藤間は持って行きたいと希望したので、東谷が基本的な使い方を教えた。

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