分署 警官達 囚人達 武装集団 襲撃

 「何だ、おまえら?」


 加藤の怒号が響いた。


 二階に戻ろうとした彼が、階段にさしかかったところだ。留置所を見て、怒鳴った後、すぐに銃を取り出した。


 何があった?


 東谷も急いで駆けつける。その直前、躊躇しながら銃を撃った加藤がボールを腹で受け取るような仕草をしながら、前のめりに倒れた。


 「加藤!」


 叫びながら彼の身体を起こそうとする東谷。だが、視界に黒ずくめで顔を隠した男達の姿を捉え、横へ飛んだ。


 加藤の死体に更に銃弾がめり込んでいく。サイレンサー付きの拳銃を使用しているようだ。


 留置所の方から「うおおぉっ!」という叫び声が聞こえ、そして銃声が響く。中里と勝俣が侵入者達と撃ち合っている。


 東谷も階段へと這い進み、留置所の方へと銃を向ける。


 だが、侵入者達は梁に身を隠し、時折姿を見せるがすぐに銃撃を繰り出してくるため、こちらの体制を整えるのに難儀した。


 「何事だ?」


 木戸や牧田、藤間がやってきた。


 「侵入者です。ここは俺が対応する。他から更にくるかもしれない。警戒を解かないで」


 そう指示し、東谷は思い切って階段を転がり降りた。死んだ加藤の顔が一瞬思い浮かぶ。


 「くそぅっ!」


 怒りを込めて、銃を撃った。


 東谷を狙っていた男がいたが、反応はこっちの方が早かった。1人を倒し、そして、それに驚いたような仕草を見せた男も倒した。


 床を転がり、梁に身を隠す。様子を見た。






 黒ずくめの男達があと3人、サイレンサー付きの銃を手に隙のない姿勢でこちらを見ている。


 その後ろに中里と勝俣が横たわっているのが見えた。彼らもやられたのだ。そう判断した瞬間、銃撃を受けて首を引っ込めた。


 敵は3人。今は銃で攻撃してくるが、奴らの肩に自動小銃らしい武器があるのを東谷は確認していた。あれを使用されたらまずい。


 東谷は顔を出さず、手だけを出して銃を撃った。


 次にまた床を転がり、倒した男達がいる辺りまで行く。その死体から小銃を引きはがし、構えるまでコンマ数秒――。


 3人の敵が姿を現した。あっちも小銃を構えている。


 やられる。だが、こっちもやる――。


 その決意が相手を一瞬怯ませた。躊躇なく弾き金を引いた。久しぶりに受ける反動。懐かしさなどはない。ただ機械になって敵を討つだけだ。


 2人が倒れ、もう1人が梁に隠れた。倒れる刹那、1人が撃ってきたが、東谷には当たらなかった。


 もう1人――。


 隠れた辺りから目をそらさなかった。少しでも動きがあれば撃つ。


 次の瞬間、小銃ではない銃声が響いた。そして、隠れた男が姿を見せ、倒れた。


 誰が撃った?


 東谷は用心深く、小銃を構えたまま次の展開を待った。


 留置所からなんと沢崎が現れた。その手に銃が握られている。おそらく、中里か勝俣が持っていたものだろう。


 撃たれて転がったのを沢崎が拾った。そしてそれで、最後の男を撃った。鍵も銃で破壊したのだ。






 沢崎は、倒れている黒ずくめの男達の身体を確認していた。武器を探っているのだろう。沢崎の後から、遠藤と大熊が現れた。


 「動くな」


 東谷が強く言い放つ。


 沢崎の動きが止まった。近づいて行くと、沢崎は立ち上がり、東谷を見つめる。特に敵意は感じられなかった。だが、油断はできない。


 「協力してやったつもりだが?」


 沢崎が言った。冷静な声だった。


 「銃を捨てろ」


 動かない沢崎。ただ東谷を見つめ続けている。


 その後ろで、遠藤と大熊が固唾を呑んで成り行きを見守っているのがわかった。


 「どうした?」


 木戸がやってきたようだ。だが、東谷は振り返らなかった。沢崎から目を離せない。


 「東谷さん」


 藤間もやってきた。そして、彼は銃を取り出して東谷の隣に来て構えた。後ろにいる木戸も同様にしているのが感じられる。


 「銃を捨てろ、沢崎。手を挙げて、壁に向かって立つんだ。他の者もだ」


 動かない沢崎。


 遠藤と大熊も緊張した面持ちでこちらを睨んでいる。


 留置所から佐久間が遅れて現れた。


 「後藤が撃たれて死んだ」


 「なに?」


 木戸の声が、空気を引き裂くように留置所内に響いた。


 「頭を撃たれて脳みそが飛び出してる」


 佐久間の表情から感情が消えていた。消さなければ叫びだしてしまうのを、そうやって無意識に抑えている様な感じだ。壊れる寸前ではなかろうか?






 突然「うわあぁぁぁっ!」と泣き叫ぶ声が奥から聞こえてきた。


 「いやだ。死にたくない。助けて。助けて!」


 三国だ。恐ろしい嵐が去ったものの、目の前に無惨な死体。受け止められる許容範囲を超えた状況――。それを目の当たりにした者が出す声だ。


 2人もの少女を殺害したくせに自らが殺されるのがそんなに怖いのか?


 わき上がってくる怒りを東谷は抑え込んだ。


 「大変な状況になってしまったようだな」


 沢崎が言った。その冷静さが不気味だった。


 「黙って銃を捨てろ」


 東谷は一歩前に出た。


 遠藤と大熊が息を呑む。


 耳障りな三国の泣き声が相変わらず聞こえてくる。


 沢崎は、一旦「フッ」と笑うと、銃を放り投げて手を挙げた。ジャラリ、と手錠の音がする。言われたとおり壁に向かって立つ。


 「チッ」という大熊の舌打ちが聞こえてきた。


 「おまえ達もだ」


 木戸が東谷より先に強く言った。遠藤と大熊が沢崎同様にする。


 東谷が沢崎の身体をチェックした。木戸は遠藤。藤巻に目配せをすると、彼は恐る恐る大熊の身体を探った。


 「協力し合った方がいいと思わないか?」沢崎が言った。


 「黙っていろ」


 東谷が応えると、沢崎はまた冷徹に笑った。

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