道の駅 客

 小山武は、別に何か買う当てがあるわけではないのに、土産物売り場を歩きまわっていた。


 心ここにあらずという感じだ。さっき橋が上がってしまったことを知り、今日は配送の時間が予定より大幅に遅れることがわかった。


 それだけなら不可抗力なので仕方がない。だが、会社に連絡を入れ、配送が遅れることを取引先に伝えて貰おうと思ったのに、スマホが通じなくなっていた。仕方なく公衆電話を利用してみたのだが、なぜか不通になっている。これでは連絡の取りようがない。


 一緒に配送をしている岡谷和樹を見た。彼はぼんやりと窓の外を見ている。


 二人は名古屋に本社を持つ弱小の運送会社の社員だ。今日はドラッグストアの品物を配送してまわっている。静岡県内の店舗を終えこれから神奈川県に入る予定だった。


 「お客さん、気の毒だったね。足止めされちゃって」


 店員の大岡多恵が気さくに声をかけてきた。多分70歳前後だろうが、機敏に動く様は年齢の影響を感じさせない。


 「まったくだよ。もう何度もこのルートを通っているけど、橋が上がったのは初めてだ」


 「まあ、仕方ないから、ゆっくりしていきなよ」


 「わらべに行くといいよ」コンビニの方から店員の小笠原里枝がやって来て言った。「あそこの料理長は元横浜のホテルのコックだったんだ。何をつくっても、味は一流だよ」


 おそらく大岡多恵と同年代らしい小笠原里枝は、幾分若づくりにしていて、コンビニの店員としてはとうが経っているはずなのに、それを感じさせない。


 「じゃあ、行ってみるか」


 岡谷に声をかける。しかし、彼はまだ窓の外に目をやったままだった。


 「どうした?」


 横顔がいつになく真剣なものだったので、気になった。


 「いや、つい今、あの森の中で、赤い光が二つ動いていたのを見たんだ」


 「赤い光?」


 「ああ、何かの目みたいだった。だけど、だとしたらかなり大きいな。クマか何かいるのかな? いや、熊の目は赤くないか。それに、あれはかなり大きな赤い光だった。そんな目の動物、俺は知らない」


 「何かの見間違えだろう」


 鼻で嗤う小山。雨風で視界は乱れている。疲れもあって錯覚を見たのかも知れない。


 小山は、まだ顔を顰めている岡谷の腕を取りレストランへと引っ張って行った。

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