神奈川県警足柄警察署天童分署 警察官達

 東谷が逮捕した後、沢崎は御殿場署に留置された。


 この天童地区は、バイパスの中間地点であるとともに県境という性質上、警察の管轄について微妙な状況だった。


 天童分署があたった犯罪――と言ってもほとんどが交通違反だが――については、本来神奈川県警足柄警察署が担当するのがスジだ。だが、被疑者の住所や仕事の場所・内容といったことや、あるいはどちらの警察署の担当者が先に現着したかによって御殿場署に任せることもある。


 天童分署があるのが神奈川県のほとんど端っこで、天童地区の半分は静岡県なのだ。だから、御殿場署の刑事達とも顔見知りだった。


 沢崎逮捕にあたっては、御殿場署の方が先に駆けつけてきたので、身柄を引き渡した。天童分署にも留置所はあるのだが、設備も人員も段違いだ。あんな超A級犯罪者をおいておくような所ではない。


 窓の外に再び目をやると、雨脚は更に強まっているように感じられた。


 あの時の沢崎の態度を思い出した。銃を突きつけた時、奴はしばらく考えた後、抵抗を諦めた。観念したという感じではなかった。奴は、素早く計算したのだ。


 ここで争っても仕方がない。一旦捕まり、その後何とかすればいい―。


 奴はそういう判断をしたのだと、今になって思うようになった。つまり、逮捕されても逃げる事は可能だと考えているのだ。そして、それだけの実力を奴は持っている。


 「必要があれば、天童地区を離れるまで護送車についていようと思います」


 そう言うと、牧田は大きく頷く。


 「そうしてくれると心強い」


 「では」と分署を出て行く東谷。辺りは真っ暗になっていた。


 ん? 立ち止まる。視界の端を、何か赤いものが動いた気がした。


 だが、すぐに勘違いだと思い直す。その方向は、今は暗くて良く見えないが、森のはずだ。この天候でそんな所で動く者などいないだろう。


 東谷は、急いでパトカーに乗り込んだ。

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