第23話 ナーヌ
プロメリの体ってのは、ほとんどが脳なんだ。
内臓も筋肉も骨もなく、目と耳と手足と、電力を蓄える素材で作られてる。
あの体は全て電気信号で動き、それは肉体だって同じで電気信号で動いているんだが、あの体は、体全てが脳の働きもしているんだ。体全体で思考している。
だけどな、あの体になって思い知った。
人の心ってのは、肉体が作ってるんだってな。
ドキドキしたりワクワクしたり、ソワソワしたりムラムラしたりな。それは全て、肉体の反応が脳に影響を与えてる。腹が減ってイライラしたりさ。
脳が命令を出してるわけじゃないんだ。
人の暴力性だとか恋愛感情だとかを、DNAを書き換えて消していって、私たちは最後にとどめを刺してしまったんだ。
残っているのは脳の思考力だけだ。
でもな、ほとんどの大衆は脳なんか使っちゃいないんだ。体が作りだすその瞬間の感情にしたがって生きてるのさ。そしてその行動の言い訳を後から付けているってわけさ。
そして私は、その感情を奪っちまった。腹も減らず、眠くもならず、大半の人は、やらなければいけないことも何もない。彼らが最後に強く抱いた感情は、仮想世界に入り浸りたいという強い思いだった。彼らはその感情の記憶に従い、仮想世界に入って行った。
そしてね、ジルコンが作る仮想世界に入ると、仮想だが自分の肉体があるんだよ。
そしてそこには、自分の体からフィードバックされる快楽があるんだ。
そりゃみんな戻ってこないさ。こんな体の現実世界にはね。
私とプロメは、何とか肉体に戻る方法を探したけど、それは見つからなかった。長い長い間、突破口を探したけど、そんなものはどこにも無かったのさ。絶望したね。絶望して何かを思いついて、失敗してまた絶望した。
そんな時、テルルから連絡が来た。惑星探査機のひとつが奇妙な電波をキャッチしたってさ。
テルルはスイングバイの天才だ。絶妙なスイングバイで惑星探査機を飛ばす。そこには計算では出せないコツみたいのがあるんだろうな。スピードが違うんだ。
「惑星探査機って何だ?」
「私たちはさ、大昔にニオンって故郷の星を逃げ出したって話は聞いてるね」
「ああ、前にテルルから聞いた」
「ニオンは今は住めない灼熱の星になっています。気温は平均気温が500ケルビンを超える高温、気圧もここの4倍から5倍の高圧で生物は生息不可能です」プロメが言った。
「温暖化暴走なんだっけ?」
「ネットの情報によれば、太陽系の金星も同じ状況になっています」
「そうなのか?」
「もしかしたら地球人も、元々は金星人で、私たちみたいに金星を捨てて逃げ出して、地球で最初から文明を作りなおしたのかもしれません」
「マジかよ」
「憶測です」
「私たちは、この星がダメになった時のために移住先の星を常に探してたの」テルルが言った。
「前みたいに逃げ出す時のことを考えてか?」
「そうね。天文台をたくさん作って、宇宙にも望遠鏡をいくつも上げて、キリアみたいな小さなタイプの太陽、地球では
「遠いんだろ、時間かかりそうだな」
「私たちの星系は、地球よりもスイングバイがしやすいって前に話したわよね」
「ああ、スイングバイしほうだいなんだっけな」
「そう。惑星が多くて距離も近いから、短時間にスイングバイを何回もできる。限界までスピードを上げられる。そしてさらにレーザーで押す」
「レーザーな」
「衛星軌道上には防衛衛星がたくさんあるから、出力を調整してね、弱く当てるの」
「前にも聞いたけど、よく分からんな」
「探査機は地球よりも気軽にすごい速さで飛ばせるのよ」
「その探査機が地球の電波を拾った?」
「地球の近く、そうね、地球から4光年ぐらいの所を通りかかった探査機が、雑音電波を拾ったって報告してきた。その雑音電波を解読してみたら、テレビ電波だった。私は宇宙望遠鏡の権限を持ってるプロメにお願いして衛星軌道上に浮かべた望遠鏡を地球に向けた。そして私たちは地球を発見したの」
「それで地球のテレビを見たのか」
「初めはラジオだったけどね、信じられなかった。恒星は大きくて強い紫外線を発するタイプだし、地球と太陽の距離は離れすぎてて、惑星は自転しちゃってるはずだし、クルクルと太陽の当たる場所が変わる星で知的生命なんてって思った」
「そんなに変か?」
「でもね、探査機が送ってくるテレビの映像を見たら、人類がそんな惑星の上で生活してるって分かった」
「そりゃな」
「地球から4光年の距離にある探査機が送ってくる地球のテレビは、1965年って言ってた。トランでキャッチしたラジオは1929年って言ってた」
「あーまた難しいのが出てきたな・・・」
「頭がこんがらがる?」
「でもそんな昔か、テレビ放送って何年からなんだろう」
「探査機がプラセオを使って送ってくる1965年のカラーテレビの映像で、地球人が私たちと外見が変わらないって分かって、髪の毛が赤くないって知った時はショックだったけどね」
「その赤はキレイだよな」
「地球の公転周期で1年を計算して、この星との距離を計算に入れると、1929年のラジオ電波をキャッチした時の地球は1969年ってことになるのね」
「何だって?」
「電波が届くまでに40年かかるから、1929年の電波がトランに届いたってことは地球は1969年なのよ!」
「お、おう・・・」
「私はそれを急いでプロメとマリーに教えたの」
「私はさ、やったって思ったんだ」マリーがガッツポーズをした。「この地球人をこの星に連れてくることが出来れば、肉体を作る操作が出来る。過去の自分を作ることが出来るってね」
「過去の自分?」
「スキャンした時の自分だな。プロメとテルルとマリーと長い時間話し合って、今回の計画を思いついた」
「でもそれじゃあ・・・」
「今の自分が過去の自分の脳を乗っ取るのは、プロメが後から考えたんだ。装置を乗せた探査機が地球に着くまで45年あったからね」
「フラッシウムとプラセオを組み合わせた大気圏突入可能で大気圏内でも多少飛行可能な探査機を地球に送って、地球人をフラッシウムで一人スキャンして、そのデータをプラセオでトランに送る」プロメが専門用語を並べ立てた。「プラセオを乗せているので多少のリアルタイム操作や計画変更は可能です」
「そのデータを基に地球人をトランで作る」マリーが言った。「だけどこれは、少しだけ失敗の可能性があったんだ。地球人のDNAがトラン人と同じなら人体作成のセキュリティーに引っかかる。そしたら私たちは作ることが出来なかった。でもね、いい感じにDNAが違ったんだ」
「軍曹は見事に作れたって事だな!」
ずっと黙って聞いていた少佐が話を締めた。
「みなさん、天文台を案内しますね」
プロメが立ち上がった。
俺たちはプロメに続いてダイニングを出た。俺たちの部屋がある廊下とは逆側の廊下の突き当りに、上へ上る階段があった。
プロメは俺たちを引き連れてその階段を上った。一つ上の階にもダイニングがあり、部屋のドアがズラッと並んでいた。
「この天文台は40人が寝泊まりできるように設計されています。ここは下の階とほぼ同じ作りです。では上へ」
その上の階は研究ラボの階だった。広い廊下に5つの大きなラボのドアと、エレベーターのドアがあった。エレベーターは車が乗れるエレベーターだ。
「乗ってきたエレベーターはここにも止まります。ここが最上階です」
「ここに車が出てくるのか?」
「大きな機械などはここから搬入します」
「大きな機械ね」
俺は何百万かする大きな天体望遠鏡を想像したが、たぶん違うだろうと思った。あれは素人の趣味用だ。
「昨日会った3人はそこのラボの扉の中にいるはずです。中は私も知りません」
「お茶飲みに入ったりしないのか?」
「お茶はダイニングで飲みます。もうお茶は飲まなくてよくなりましたが」
「そうだったな」
「手前の3つの扉は昨日会った3人、奥の2つは持ち主が不在です」
「仮想空間に行ったままか?」
「たぶんそうです」プロメが歩き出した。「上に行きましょう」
エレベーターの横に広い階段が上へ続いていた。
その階段を上ると頑丈な扉があり、扉を開けるとドーム状の大きな空間に出た。
天井が丸くドーム状になっていて、ドームの中には鉄骨が張り巡らされている。
鉄骨に支えられて大きな望遠鏡らしき機械が空中で固定され、斜め上を向いていた。
「観測の時はこのドームが半分開きますが、人間は退避して下のラボから操作します」
「プロメリの体なら問題無いがな」マリーが言った。
「その通りです。実に便利な体です」
「そこのロボットは何だ?」
片隅に2台のロボットが電源を切られたように座ってじっとしていた。
「あれはメンテナンスロボットです。修理などに使います」
「なるほどな」
「プロメの研究室ってのはどこなんだ?」
「私の研究室は、駐車場の下です」
「下の駐車場?」
「そうです。行きますか?」
俺たちは一つ下の階でエレベーターに乗った。大きな車が乗れるエレベーターは、人が5人乗っただけでは空間を持て余した。
エレベーターは少しだけ下降し、すぐに扉が開いた。
そこは駐車場と同じ広さの空間だった。
大きな車が20台ぐらい停められる空間に、車と同じぐらいの大きさの、いろいろな大きな機械が置いてあった。
奥の壁にはモニターが30ぐらい並び、その下には大きな機械がズラッと並べられ、チカチカとライトが点滅していた。
部屋の隅に衝立で仕切られた小さな空間があった。
その小さな空間には厚めの絨毯が敷かれ、大きなソファーが2つあり、真ん中に低い机があった。そして横にはテレビが置かれていた。
そこだけが地球のリビングみたいな空間になっていた。
少佐が走って行ってソファーに寝転んで地球のテレビを見始めた。
「あたしはここでゆっくりしてるから、ほっといてくれ」
「ではあちらへ」
プロメがズラッと並んだモニターの前へ案内した。
ズラッと並んだディスプレイには様々なデータが表示され、チカチカとデータの内容が変わっていっていた。内容はまったく分からなかった。
ディスプレイの中に、宇宙空間に浮かぶ衛星が映ったものと、地上の風景が4か所映ったものがあった。
4枚の地上の映像は、ビルが並ぶ大通りと、大きな高速道路らしきまっすぐな道と、海沿いの大きな港と、大きな都市を山の上のような高台から見下ろす映像だった。どれも太陽が斜めに照らし、建物の影が伸びている。
「この地上の風景は何だ?」
「それはナーヌです」プロメが答えてくれた。
「戦争相手の隣の星か?」
「そうです。現在のナーヌの映像をスパイロボットが送ってきています」
「スパイロボット?」
「これです」
プロメは機械の上に置かれた大きめな石を取った。河原にありそうな丸い大きめの石だった。
プロメがその石を手で叩くと、石から機械の足が6本生えた。足はシャカシャカと動いて地面を探していた。
プロメがもう一度叩くと、シャカシャカと動いていた足が引っ込んだ。
「スパイロボットなのか・・・」
「そうです。大気圏突入可能で、ただの隕石に見えます」
「そうなのか?」
隕石を見たことがないから良く分からないが、隕石ってのは河原の石ではない気がした。
「これよりも大きいと、ナーヌの防衛衛星によって破壊されます」
「ナーヌにも防衛衛星があるんだな」
「もちろんです」
俺はナーヌの地上の映像が映るディスプレイの横にある、宇宙に浮かぶ衛星の映像を見た。
衛星の映像は、ナーヌの青い惑星をバックに、大きそうな衛星が六角形の太陽光パネルを、何枚も何枚も広げているのが映っていた。
「これが防衛衛星なのか?」
「いいえ、それはジルコンです」
「ジルコンって、神アプリか?」
「そうです。それの本体です」
ジルコン本体だという衛星を映す映像は徐々に角度が変わっていった。
衛星の近くには、太陽光パネルが無数に遠くまで広がっていた。
「ジルコンはね、ナーヌで開発されたのよ」テルルが言った。
「トランで作られたんじゃないのか」
「モコソのアプリケーションとして、地球だとスマホアプリってことね、モコソアプリとしてナーヌで開発されたの」
「それがトランにも来たのか」
「ジルコンの開発者は世界企業なのよ。2つの星を股に掛ける巨大企業ね」
「何だか地球にも似たような会社があるな」
「知ってるわ」
「それで?」
「モコソのアプリとしてジルコンは大衆を操って、最終的に巨大サーバーを衛星軌道上に置いたの。そしてあの電力を供給する巨大太陽光パネルは増え続け、今ではナーヌの昼側の中心に巨大な影を落としてるの」
「巨大な影?」
「ナーヌの平均気温はかなり下がり、寒冷化しています」プロメが言った。
「寒冷化って、そんなに気温が下がってるのか?」
「緑の土地は10パーセント減りました」
「ナーヌの人々はどうしてるんだ?」
少しの間、沈黙が流れた。プロメはナーヌの地上の映像を見ながら少し考えていた。
「ナーヌには、ボロンもプロメリもありません」
「それってどういう意味だ?」
「ナーヌの人々は、プロメリの体にはなっていないということです。私たちとは別の方法でモコソを体内に組み込みました。機械を体の中に埋め込む方法です」
「埋め込む?」
「その方法で仮想世界へのフルダイブに成功しました」
「それで?」
「ナーヌもトランから買ったDNA変更技術で、トランのように病気の排除と犯罪の撲滅に成功しました」
「トランがDNA技術を売ったんだったな」
「そして生身で仮想世界に入り浸り、おそらく肉体の寿命を迎えました」
俺はナーヌの地上を映す映像を目を凝らして見た。
そこには人も車も船も、動くものは何も映っていなかった。雑草が道路と建物を侵食しつつあった。
大きな港の海の上を、海鳥が飛んでいるのだけが見えた。
「もう誰もいないのか?」
「わかりません。もしかしたらジャングルの中などに原始的な生活を送る少数民族などが残っているかもしれませんが、長く観察していますが動く車などは発見されていません」
「そうなのか・・・」
「いつかナーヌに行ってみたいと思っていますが」プロメがナーヌの映像を見ながら言った。「ナーヌの防衛衛星が稼働している間は近づけません」
「物流とか貿易があるって前に聞いた気がするが」
「今ではナーヌと連絡が付きません。物流船の通行許可を出してくれる人がいないのです」
「なるほど・・・。高度なシステムは人がいないと崩壊するんだな」
「システムによっては、ですが」
誰もいなくなったナーヌの地上、そして巨大なジルコンの衛星。
人を駄目にするジルコン。いや、ジルコンは人に幸福をもたらすために作られたのだろう。仮想世界の中で人は幸福なのだから。
「防衛衛星とかジルコンの本体とか、こっちから攻撃してぶっ壊すわけにはいかないのか?」
「ナーヌの防衛衛星を攻撃すれば、冷戦モードが終わります。ナーヌがどれだけの核ミサイルを持っているのか分かりませんし、一度にどれだけ撃ってくるのかも予測できません」
「ナーヌには誰もいないんだろ?」
「あちらもこちらもAIの自動制御です」
「自動制御ってことは、撃ち返してくるのか?」
「ナーヌの自動制御の設定がどうなっているのか知る術がありません」
「勝てないのか?」
「こちらの防衛衛星の迎撃性能以上のミサイルが来た場合、トランは終わります」
「そうか・・・」
俺は宇宙空間を飛んでくる核ミサイルを想像した。それを撃ち落とす防衛衛星、そしてそこをすり抜けた核ミサイルが地上に落ちるのを想像した。マリーと俺の子供が心配だ。
地下都市にも被害は出るのだろうか。ジルコンの作り出す仮想世界に行って戻らない金属の体の人々。
「ジルコンか・・・」
「ジルコンの本体も防衛対象になっていると思いますが、ジルコン本体の破壊に成功したとしても、ジルコンアプリで並列化された多くのモコソの中にあるジルコンアプリは消せません」
「ごめん、良く分からん」
「無理ってこった!」
少佐がソファーの上で大声で言った。
「だがな、この星のトラン人の未来を考えた場合」マリーが腕組みしながら言う。「この星で1からやり直すのは、農業や漁業や、狩猟すら違法で、パトロールに発見されたら捕まってしまうんだ」
「捕まって、DNAを改変されて、プロメリの体です」
「お隣のナーヌはね、機械化が進んでいたけど、最後まで人が農業や漁業を続けていたの」
「ナーヌなら畑を耕しても魚を捕っても大丈夫ってことか?」
「その通りだ」マリーが大きく頷いた。「だからな、もしこのキリア星系で人類の未来を繋げていくなら、私たちはナーヌに行きたいんだ」
「しばらくしたらマリーの待ってるDNA研究所に戻って、色々と下準備をしてからだけどね」
「その為には防衛衛星を何とかする方法も、考えなければいけませんが」
「なるほどな」
人類の未来をナーヌで繋げる。俺には話のスケールが大きすぎて半分も理解できたか怪しかったが、なんとなくみんなが考えていることは分かった気がした。でも・・・
「それで、俺たちは何で宇宙に行くんだ?」
「地球を目指します」
「地球?」
「トミー、私たちは地球をずっと見てきた」
「地球ではもうすぐ神アプリが誕生します。いつ誕生してもおかしくありません」
「そうしたら、トランと同じ歴史になるのか?」
「可能性は少なくありません。トランと同じ歴史にならなくとも、ナーヌと同じ歴史になる可能性は高いのです」
「そうなのか?」
「私達はね、なんとかそれを阻止したいのよ」テルルが言った。「私達だけでは、大したことは出来ないかもしれないけれどね」
「でも、地球に行くって言っても時間がかかるんじゃないのか?」俺は言った。「もうすぐ神アプリが誕生してしまうんじゃ、間に合わないだろ」
「トランと地球との距離は40光年あるわね。普通に行ったら物凄い時間が掛かるわ。でもね・・・」
「秘策があります」プロメが珍しくニヤッとして言った。「もう秘密道具は飛ばしてあります」
「秘密道具って?」
「もちろん秘密です」
「・・・」
地球に行って神アプリを止めるという。
秘密道具は飛ばしてある? いったい何をどうするのか、俺にはまったく分からなかった。
ああ、頭のよくなるサプリをしばらく飲んでないのを思い出した。DHAだっけ。
「トミサワさん、これを見てください」
プロメが機械を操作するとモニターに青っぽい地球みたいな星がいくつも表示された。少しずつ青の色味が違う。どこの星だろうか。
「地球か?」
「これはね、私たちが今までに見つけた居住可能惑星よ」テルルが説明した。
「居住可能?」
「7つあるわ」
モニターには7つの青い星が映し出されていた。
「そんなに地球みたいな星はゴロゴロしてるのか?」
「もう惑星の地上に探査機も下ろして、動植物が生息しているのも確認してるわ」
「良く分からないんだが、地球みたいな星はめったに無いって、昔テレビで言っていた気がするんだが」
奇跡の星、地球、みたいな番組を見たような記憶がある。
「何でテレビの言ったことを全部信用するのよ!」テルルは少し怒って言った。「このあたりの宙域はね、宙域っていうのは、私たちの銀河の、私たちの星の近くの、百光年ぐらいの領域って意味だけどね」
「うん・・・」
「遥か昔に、緑に覆われた自然豊かな星があったらしいの。それが恒星の爆発、太陽の爆発ね、その恒星の爆発で、緑の惑星は粉々になって飛び散ったみたいなの」
「飛び散った・・・」
「私たちのキリア星系の小惑星帯に、遥か昔の植物の種とか微生物とかが入ってる小惑星がいくつもあるのね。その小惑星の中から出てきた植物の種が作られた年代は、この星が生まれるよりずっとずっと昔なのよ」
「ずっとずっと昔の種?」
「その大昔の種はね」テルルが俺の目を覗き込んで言った。「DNAから作られてるのよ」
「トラン人と地球人のDNAが変わらないってのは、そういう意味なのか?」
「そうね、この辺の宙域の水のある惑星は、みんな同じDNAを受け継いでるのよ」
「同じような動植物がいるってことか」
「おまけにね、私たちは小惑星の中から、文字が彫られたセラミックプレートを発見した」
「セラミックプレート?」
「人工物だ」マリーが言った。「遥か昔にも知的生命がいたってことだ」
「知的生命って、ご先祖さまってことか・・・」
「私たちはね、新しい星に旅に出たいの。一緒に行ってくれる?」テルルが言った。
「そりゃいいけど、俺はついていくだけだからな」
「いやなら言ってね」
「俺には何も無いからな。いや、違うな。俺にあるのは、みんなとの繋がりだけだ。俺はみんなが好きだ。一緒ならどこでも行く」
「トミー、なかなか嬉しいことを言ってくれるな」
言いながらマリーが俺の背中をバンッと叩いた。
「軍曹を曹長に昇格させるか!」少佐がソファーで言った。
「いや、何でもいいが・・・」
何だか難しいことを一気に聞いた気がする。頭が少し混乱している。聞いた事柄がうまく纏められない。何か話の中に矛盾しているものが含まれている気がする。なんだ、何か矛盾してた。なんだろう、ダメだ、頭が疲れた・・・
「これから宇宙空間に浮かぶ最大のボロンで、宇宙船を作ります」
「ボロンって宇宙に浮かんでるのか」
「作るんですが、今現在、材料を運搬中ですので、ここで少し待ちます」
「材料?」
「小惑星です」
「なるほど・・・」
プロメが操作しているモニターには、キリア系の現在の惑星の位置と、外側の小惑星帯から小惑星を運んでくる宇宙船の位置が表示されていた。近いからそんなに時間はかからないらしい。
俺たちはしばらく天文台でのんびりと過ごすことにした。
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