第21話 星空
アニメは楽しかったが、車内という狭い空間での長時間の移動はさすがにキツかった。
真ん中にベッドはあったが、みんなに囲まれて真ん中で寝るのは、とてもリラックスして寝られたもんじゃない。椅子に座り疲れた俺たちは、床に座ったり色々と体制を変えながら、過ぎる時間を必死に耐えていた。
「4つ目の街に入りました」プロメが言った。
プロメはずっと車の外についているカメラの映像を監視している。
「俺たちが全滅した街か」
「全滅じゃないぜ、俺とプロメは生きて帰った」
「撤退ですね」
「パトロールの車は多そうか?」
「どうでしょう。今のところ見えませんが、念のために前とは違う道を使います」
「任せる」
「前回は右回りでバイパスを使いましたが、今回は左回りで行きますね」
「了解だ」
俺たちは床に寝転んだり、3つ並んだイスに寝転がったり、ベッドの上でブリッジしたり、踏み台昇降運動をしたり、必死に耐えていた。
「少佐、お笑いは無いか?」
俺はベッドの上で逆立ちをして足を天井に付けて踏ん張りながら聞いた。
「あー、軍曹」少佐はプリンのような甘い食べ物をスプーンを使わずに口の上でプッチンして丸ごと一気に食べながら答えた。「日本人ってアメリカ人のお笑いは分からないだろ?」
「ああ、そうだな」
「同じ地球人でも、言語が違うだけでお笑いは分からなくなる」
「もしかして・・・」
「星が違うとお笑いは合わないんだよ」
「マジか」
「ぜんぜん笑えないってわけじゃないんだが、コレクションは無い」
「そりゃ残念だ」
俺たちは4つ目の大きな街を無事に通過した。
この通過時間を考えると、これは街というより県なんじゃないかと思ったほど、時間がかかった。日本語を間違えてるのかもしれない。
5つ目の街に入った所でテルルが吐いた。もうみんな限界だった。
そんなみんなの疲労状況を見て、プロメが「1回地上に出ましょう」と言った。
車は目的地を変更し、地下都市を離れて長い上り坂を登った。
地上に出ると、クネクネとした道をさらに登った。車はクネクネ道をしばらく登り、そこで停車した。
プロメが救急車のサイレンと車のライトを全て消した。車内が真っ暗になった。
車のモーター音も走行音も消えて、車内はしんと静まり返った。久しぶりの静寂だ。耳の中で軽く耳鳴りが聞こえた。
「出ても大丈夫です」
プロメが外部カメラの映像を見ながら言った。
俺たちはドアを開け、久しぶりに車外に出た。
空を見上げると、満天の星空だった。天の川が綺麗に見えた。
ただ、外の空気は思ったよりも冷たく、息が白くなった。それでも俺たちは、その冷たい空気を大きく吸い込んで何回も深呼吸した。
少し落ち着いてくると、周りの景色を見渡した。
そこは山の中腹だった。
下を見ると、真っ暗な大地に真っ黒な工場のシルエットが見え、街がそこにあるのが分かった。その中に赤いライトをピカピカと点滅させたパトロールの車が3台見えた。ヘッドライトが道を照らし、点滅する赤いライトが工場の壁を照らしている。3台はグルグルと街を巡回しているようだった。
反対側を見ると、小高い山が星明りに照らされて微かに見えた。星空のほうが遥かに明るい。そこに黒い山のシルエットが見える。
「何か建物があるわね」
よく見ると山のシルエットの中に、人工物のシルエットが隠れていた。道路の反対側、すぐそこだ。
「これは、天然のプラネタリウムです」
「天然のプラネタリウム?」
ちょっと聞きなれない言葉だ。プラネタリウムに天然ってあるんだろうか、天然温泉じゃあるまいし。
「建物に入れるか見ますので少し待っていてください」
プロメはそう言って、暗闇の中を建物の入口らしき場所に歩いて行った。
プロメの帽子が闇の中でチカチカ光った。次の瞬間「ウィン」という音が聞こえた。入り口は無事に開いたようだ。
「入りましょう」
テルルが闇の中で俺たちを呼んだ。
建物の中に入ると少しは暖かかったが、暖房はついていなかった。
入口の少し広い空間から、廊下が奥に伸びていた。
廊下には小さなライトが床すれすれにあり、緑の弱い光が廊下を微かに照らしている。
廊下を奥に進むと、そこには広い空間があった。夜の闇の中で、灰色の大きなイスが背もたれを倒されてズラッと並んでいるようだった。
「ここの棚に毛布があります。たくさん取ってイスに寝てください」
プロメはこの施設を利用したことがあるみたいだった。プロメの指示に従って、俺たちは毛布を何枚か取ってイスに横になった。
イスに寝転がって天井を見上げると、天井は無かった。いや、天井はガラス張りだった。
目の前に星空が広がった。
無数の星たちが寒い空気の向こうでキラキラと輝いていた。
「ここで朝まで眠るのか?」俺は誰ともなしに聞いてみた。
「朝は来ないって言ってるじゃない」テルルが答えてくれた。
「そうだったな。夜の側ってのは、そういう事なんだな」
「そうね、夜の側なんだから、ずっと夜よ」
「すごいな・・・」
俺は目の前に広がる星空に圧倒されていた。
「毛布ちゃんと掛けてね」
「ああ」俺は毛布を3枚体に掛けた。「何だか、星が動いてるのが見えるみたいだ」
星はじっと見ていると、左から右にゆっくりと動いているように見えた。
「動いてるわよ」
「そりゃそうだが」
「トランは1年が地球の12日だって前に話したでしょ?」
「ああ、覚えてる。12日で太陽を1周するんだっけな」
「だから星空も12日で1周するのよ」
「そうなのか」
「私が起こしますので、皆さん少し休みましょう」プロメが言った。
俺は星空に感動しすぎてずっと目を開けていた。そのつもりだったのだが、いつの間にか眠っていた。
「ピピピピッ!ピピピピッ!」
深い眠りの中、どこか遠くで目覚まし時計が鳴っていた。
「みなさん、起きてください!」
プロメが大声で叫んだ。
俺はガバッと起きたが、一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
暗い空間、自分の体に掛かった毛布、倒されたイス、空には星。
天然のプラネタリウムにいるってことを思い出した。
「トミー起きろ!」
マリーが起きてる俺の頭を思い切りひっぱたいた。
「いって! 逆に意識を失うわ」
「うがっ!」
前から少佐の声がした。見ると暗闇の中でプロメが少佐の腹にパンチをお見舞いしているのが見えた。
「みなさん、パトロールの車がこの山に登ってきます」プロメが状況説明した。「1本道ですので、パトロールがここに来るまでに救急車に乗ってください。急いで!」
「そんなのいいから早くしろ!」
マリーが怒鳴った。見るとテルルが毛布を丁寧に畳んでいるところだった。
俺たちは急いで建物の外に出た。
救急車は建物の入口に横付けされて停まっていて、運転席に充電完了のメッセージが闇の中で光っていた。
俺たちは充電完了の救急車に乗り込んだ。
プロメが目的地を設定し、救急車はサイレンを鳴らし警告灯とヘッドライトを点け発車した。
車はサイレンを鳴らしながら、制限速度を少しオーバーする程度の速度でクネクネとした山道を下った。
「来ました、すれ違います」
カメラ越しに外を見ているプロメが言った。
カーテンの向こうにピカピカとしたライトが見えた。俺たちはじっと息を殺した。パトロールに見つかるわけにはいかないのだ。
「大丈夫です。見えなくなりました」
俺たちはほっと肩をなでおろした。
その後、車は山を下り、平地に入り、さらに地下に入り、長い下り坂を走った。
車は地下都市の5番目の街に戻った。そしてまた、広大な街の端のほうにある真っすぐなバイパスを走りだした。
5番目の街を食事1回分ぐらい走って、車はやっと軍用列車の駅に続くトンネルに辿り着いた。俺たちはパトロールに見つからずに、やっとここまで辿り着くことが出来た。
ここの軍施設にも2つのゲートが有るらしく、トンネルを進むと1個目のゲートが見えてきた。
車は無事に見慣れた緑のゲートを通過した。
1個目のゲートを通過したところで、プロメが救急車のサイレンを止めた。
「もう大丈夫です」
俺たちはやっと緊張から解放された。
運転席とのカーテンを開けると、フロントガラスの向こうに外の景色が見えた。道の両側に白い壁のアパートみたいな建物が並んでいる。ドアが等間隔で並び、2階への階段があり、2階にもドアが並んでいる。
「ゲートの中にあるってことは、軍人の宿舎か何かなのか?」
「そうだ。ここの地上は軍の基地だな。地上には、小さめだが滑走路もあって空軍が訓練に使ってる」
「空軍なんて必要なのか?」
敵国は隣の星ナーヌだったはずだ。
「敵はナーヌだが、惑星内でもクーデターとか反政府ゲリラとか、今まで色々あったんだよ」
「ゲリラねえ・・・」
救急車は宿舎の区画をゆっくりと走った。途中には通りに面した壁がガラス張りの商店らしき建物もあり、明かりがついていた。フロントガラス越しでは店内に人がいるのか、何を売っているのかは見えなかった。
車はそんな中を右に左にいくつかの角を曲がり、2個目のゲートに辿り着いた。
ゲートの手前で救急車のサイレンを点け、ゲートを通過するときはサイレンを鳴らしながら通過した。
「何が起こるか分からないですから」
プロメは用心深く言った。前回の失敗を気にしているのかもしれない。
ゲートの先に広がった軍の敷地は、だだっ広い空間に土の大地が広がり、人工の丘や川が見えた。天井も高くなっていて、天井にはいくつもの眩しいライトが見えた。昼間のように明るく照らされたランニングするには些か広すぎる何もない大地が広がっていた。
「ここは演習場だな」
「少佐もここで訓練したのか?」
「あたしは教える立場なんだ。けっこう偉いんだぞ!」
「マジかよ」
「上から6番目だって言っただろ?」
「そうだっけ・・・」
車は演習場の中の道をしばらく走った。敷地の所々には、高い天井まで伸びる茶色くて細いビルが何本か建っていた。数か所に窓はあるが、細いビルは普通のビルではない雰囲気があった。
「あのビルの中には、でっかいエレベーターがあるんだ」
「エレベーター?」
「戦車も戦闘機も乗れるエレベーターだ」
「そりゃでかそうだな」
車はそのビルの一つに近づいて行った。
ビルには巨大な黒い扉があり、救急車が近づくとその巨大な扉がゆっくりと開いた。
巨大な扉を潜りビルの中に入ると、内側にも大きなドアがあった。一回り小ぶりなドアだ。そしてそれは、見慣れたエレベーターの銀色のドアだった。でっかいが。
ドアの横にトラン語の数字が表示されていて、それがチカチカと変わっていた。
「ガシューン、ゴゴゴゴゴ」
大きな音をさせながらエレベーターのドアが開いた。
車はゆっくりとその巨大な銀色のドアの中に入った。
エレベーター内の空間はエレベーターに見えないほど巨大だった。白い壁に囲まれた空間は、救急車が何台も入る大きさで、大きな戦車でも10台ぐらい余裕で入りそうだった。
救急車を乗せると大きなドアが閉まり、エレベーターは下降を始めた。
ゴウンゴウンと大きな音が救急車を乗せた空間に響いた。
再びエレベーターのドアが開くと、白いタイル張りの地面があった。その空間の向こうに、巨大な駅の改札が見えた。
車はエレベーターを降り、外に出た。
駅の構内のような空間だったが、何もかもが縮尺が大きかった。その空間に銀色に存在感を示す大きな改札は、車が通れる大きさで、それが4つ並んでいた。自分たちが小人になった気がした。
車はゆっくりとその銀色の改札に進んだ。俺たちはそこでスキャンされ、認識番号を確認された。
「バッタン!」大きな音を立てて改札の扉が開いた。
「何だか全てがでっかくて迫力があるな」
「そうか? 見慣れてるから気にならないけどな」
改札を抜けると、下に向かうスロープが何本かあった。地面にトラン語で何かが書かれている。行き先だろう。車はその中の1本を下っていった。
スロープを下ると、そこは大きな駅のホームで、そこには平らな一直線の空間があった。
天井からは、電光掲示板が吊るされていて、次の列車の到着時刻が表示されている。
ホームの右側はコンクリートの壁で、左側に列車が到着するらしかったが、そこには分厚い透明なガラスがあった。ガラスの向こうに隣のホームの風景が歪んで見えている。
「このガラスは何だ?」
「この向こうに列車が来る」
「列車が来ると、ガラスは消えるのか?」
「消えないよ、開くよ!」
「そうか・・・」
救急車はホームにオレンジで書かれた「ここに並びなさい」という線に沿って停車した。
「少し時間があるので降りましょうか」
プロメが言って車のドアを開けた。
俺たちは久しぶりに車を降りた。プラネタリウム以来だ。
「うーーーーん」
俺たちは伸びをして体を伸ばした。やっと長旅が終わった。かなりヘトヘトだ。
狭い空間でじっと耐えるのが、こんなにもキツイものだとは思わなかった。
俺はホームをブラブラして足を動かした。ガラスに近寄って下を見ると、線路のようなものが見えた。ガラスは真っすぐな線路を四角く覆っていた。
「左から来るからな」
少佐の指さす方向を見ると、ホームの向こうに丸いトンネルが見えた。だがトンネルは黒い頑丈そうな扉で閉ざされていた。
「なんで扉がある、そしてなんで閉まってる?」
「うーん、空気が入らないように?」
「空気?」
「なあ、プロメ」少佐は振り向いてプロメに話しかけた。「この列車の名前を日本語にするとどうなる?」
「真空超特急」プロメが答えた。
「シンクウチョウトッキュウ?」俺は謎の名前を繰り返した。
その頑丈そうなトンネルの扉を見ると、扉はゆっくりと開き始めていた。
「そろそろ来ます。車に乗ってください」
プロメが俺たちに言い、俺たちはその指示に従って車に乗り込んだ。
「少し忙しくなるけど頑張れよ」
「忙しい?」テルルが不思議そうに首を傾げながら言った。
無理もない、列車に乗るのに忙しいって何だろうか。
「荷物は全て収納扉の中に入れてください」プロメが指示を出した。
俺たちはバッグを救急車の収納扉の中に入れ、ついでに床に散らかったゴミをゴミ箱に入れた。長時間の移動で救急車の中は、食べ物の容器や包装紙が散乱していたからだ。
やがて車のフロントガラスの向こうに列車が現れた。
列車は四角くて角ばっていて、まったく速そうに見えない黄土色の車体だった。
新幹線というよりコンテナを積んだ貨物列車のように見える。それよりは全体的に少し大きい。
「これ、速いのか?」
「速いな」
列車はゆっくりと停車した。
列車が止まると、ホームの分厚いガラスの数か所が、バシューーーという大きな音と共に開いた。
開くと同時にガラスが全て白く曇った。
俺たちの前に停まった車両は、暗い黄土色で貨物列車の貨車のような窓もない車両だった。
車の正面の古ぼけた大きな扉がスライドしてゆっくり開いた。そこからホームまで車用の短い橋が伸びた。
車はその橋から列車の中に乗り込んだ。
車内に入ると、暗いオレンジのライトが空間を照らしていた。床に駐車する目安であろう白い枠が書かれていて、車はそこに合わせて駐車した。
「ガン!」車がロックされる音がして、体に振動が伝わった。
タイヤではなく、車のフレームをロックしたような振動だった。
「降車して整列!」少佐が叫んで車を降りた。
俺たちは少佐に続いて急いで車から降り、少佐の前に1列に整列した。
「なんなんだ?」
「走るぞ!!」
いきなり少佐が走り出した。俺たちは慌てて少佐の後を追った。
少佐は隣の車両まで走り、そこを1両まるまる通り抜け、次の車両まで走った。
その車両の連結部分の扉を開けると、車内には右側に通路があり、通路の脇に小部屋の扉がいくつか並んでいるのが見えた。少佐は1番近い扉に飛び込んだ。俺たちも後に続いた。
「扉を閉めろ!」
最後尾を走っていたマリーが扉を閉めた。
息を切らしながら改めてその部屋を見ると、その車両の小部屋は奇妙な空間だった。
部屋の真ん中に細い道が3メートルほどあり、その先に丸い小さな窓があった。
細い道の左右に、傾斜した鼠色のコンクリートみたいなスロープが天井まで続いていた。スケボーのハーフパイプのような、逆カマボコのような、実に変な部屋だった。
一息つくと、遠くで何かのアナウンスが聞こえた。トラン語だ。
「何て言ってる?」
「減圧中?」
テルルが首をかしげながら言った。
「よし、間に合ったな!」
「みなさん、構えてください。左に登る準備です!」
「登る?」
ガクン!列車が発車した。俺たちは左の坂に自然と登った。
「おっとっと」俺は少しよろけた。
「みんな気を抜くな、踏ん張れ!」少佐が叫んだ。
次の瞬間、列車はものすごい勢いで加速した。俺たちは加速に耐えながら壁をほぼ登り切った。さっきまで天井だった所が体の横にあり、手で触れる。ただ、体に掛かる加速の力が半端ではない。手は上がらない。壁は触れない。
加速の力で自分の体重が3倍にも5倍にもなっている気がする。俺は膝に手を当て、必死に踏ん張った。太ももがパンパンだ。
「おおおおおお!」
横を見るとマリーがガニ股で必死に頑張っている。
テルルは耐えきれず四つん這いになっている。
そんな加速の中、少佐とプロメは余裕そうに直立の姿勢で立っていた。俺の視線に気が付いて少佐がこっちを見た。そしてニヤッとした。
「先に言っとけよ!」
「先に言ったら面白くないからな!」
「面白がるな!」
「軍曹、腕立てしててもいいぞ!」少佐がスクワットをして言った。
「できるかよ!」
マリーがプロメの直立姿勢を見て気が付いたようで、直立してビシッと立った。
「なるほどな」マリーが無表情で言った。
俺も真似してみた。
確かに中腰よりも楽だが、上から何かで強く押し付けられているようで、背が縮みそうだ。「うううう」思わず声が出る。
「どうだ軍曹!」
「ハゲる!」
頭皮がヒリヒリした。髪の毛の重さに毛根が悲鳴を上げてる感じがした。
「私のほうがハゲる!」
一番髪の毛の長いテルルが四つん這いで叫んだ。
「少佐、いつまで加速するんだ?」
「もう少しだな」
「たのむぜ・・・」
少しというにはちょっとだけ長い時間が過ぎ、やっと加速が終わった。
加速が終わると俺たちを後ろに押し付けていた力が消え、重力が正常になった。俺たち3人はその変化についていけず、コンクリートのスロープを真ん中の通路まで転がり落ちた。
「よし、少しの間休憩だ!」少佐が腕組みしながら言った。
「なんなんだよ、この列車は!」
俺たちは汗だくで床にへたり込んでしまっていた。
「ぜんぜん速く見えないのにね」
「これは良いトレーニングになるな」
汗だくの3人を、2人の軍人がニヤニヤ見ていた。
「よし、休憩は終わりだ!」
「みなさん、構えてください」
「また加速するのか?」
俺たちは立ち上がって壁に登る準備をした。
が、今度は逆だった!
構えていた俺たちは反対側の斜面に勢いよく転がった。
「構えろと言っただろう?」少佐が言った。
「構えただろうが!」
「逆だったな! あははははは」
少佐が楽しそうに笑った。
「ストルン、これもさっきと同じぐらい続くのか?」マリーが聞いた。
「もちろんだよ。加速したんだから同じ時間減速する」
「よーし、面白いな!」
マリーは笑っていたが、顔の肉が重力で引っ張られ、引きつった笑い顔になっていた。マリーは笑いながら色んなポーズをしてこの状況を楽しんでいた。
「あー、おっぱいが垂れるー」
マリーが胸を持ち上げながら言った。
俺はとっさにテルルを見た。しまった!と思ったが遅かった。テルルと目が合った。そしてキッ!と睨まれた。
「良かった、垂れるほど無くて!」
テルルが叫んだ。
しかし、この加速と減速は普通ではない。真空超特急だと言っていた。空気を抜いて、空気抵抗を無くしているのだろう。空気が無ければ音速なんてあっという間に超えられるはずだ。時速何キロぐらい出ているんだろうか・・・
列車は程なくして停車した。外を見ると駅に到着していた。
俺たちはクタクタで汗だくになって床に転がっていた。下半身に集まった血がじわーっと頭に戻るのが分かるほどだった。ドクンドクンと心臓の音が聞こえる。
「みんな走れ!」少佐が突然叫んだ。「降りるぞ!」
俺たちは飛び起き、必死で救急車まで走り、車に飛び乗った。降りれなかったら地獄をもう1回味わうのだ。フラフラの体に鞭を打って急いだ。
車は何とか列車から降りるのに成功した。
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