第13話 アメリカン・ジョーク

「ピッチャー交代。ピッチャー那覇!」

 遂に出番がやって来た。2回の表、ノーアウト。4対2で俺たち日本代表は負けている。

(覚悟しろ! カナダ! 俺がマウンドにあがった以上、もう1点もやらねえからな!)

 俺は気合が入り過ぎて、いつもより体が軽く感じるくらい絶好調だ。

「プレイボール!」

 試合が再開された。

(いくぞ! カナダ! 俺のバーン・ボールを食らいやがれ!)

 俺は第一球を投げ込んだ。

「こい! ちびっ子! 打ち返してやる! ホームランだ!」

「おいおい? ここは砂場じゃないんだぜ? 子供はディズニーランドに行きな!」

「この試合、俺たちの勝ちだな。決勝戦はアメリカだ。ワッハッハー!」

 カナダチームは俺を見て、自分たちの勝利を確信していた。

 ズドーン!!!

 俺のボールは火花を上げながら加速しキャッキャミットに吸い込まれた。

「え?」

 審判もカナダのバッターも、カナダのベンチも観客も、言葉を失うぐらい驚いた。

「ええー!?」

 そして皆の止まった時間が動き出した。どう反応していいのか戸惑っているみたいだった。

「審判、入ってますよ?」

「あ、あああ、ストライクー!」

 日本のキャッチャーに促され、球審がストライクをコールする。

「な、なんなんだ!?」

「おいおい!? アメリカン・ジョークだろ!?」

「あんなボール見たことがないぞ!?」

 カナダの選手は俺のピッチングに夢を見た。

「キャアー! スゴイ!」

「坊や! カッコイイ!」

「ウオオオオオオー!」

 観客のボルテージは俺の一球を見て最高潮になる。

「うむ。将来のために球拾いで招待しただけのつもりが、まさか戦力になるとは!?」

「そうですね。長嶋監督。初めて見た時は、アメリカで初めて那覇を見た人々と同じ衝撃を受けましたよ。那覇がいればアメリカにも勝てるかもしれません!?」

 全日本代表の長嶋監督と原コーチも俺の投球を認めていた。

(毎回、この展開が嫌になるぜ。早く俺の名前を世界に響かせてやるぜ!)

 俺の野望は終わりを知らない。俺は次々と投げ込んでいく。

 ズドーン! ズドーン! ズドーン!

「ストライク! バッター! アウト! チェンジ!」

 2回の打者3人を9球で三者連続三振にとった。

(よし! 待ってろ! アメリカ!)

 俺の心の情熱の炎は更に過熱していく。

「すいません! すいません! ごめんなさい! 許してください!」

 那覇自身は体が勝手に動き、自分でも、なぜこんなに体が動くのか分かっていなかった。

 つづく。

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