第1話
(いやー、今日も至って普通に会話ができたぞ。 我ながら素晴らしい!)
友人と挨拶を交わし、具合の心配をして、問題がないならそれじゃあと別れる。
これなら、「キモい」と思われる事も無いだろう。
そんなことを考えている片野君は、いましがた起きた廊下でのやりとりを思い返していた。
(頭に手をやるのはやり過ぎたかな? いやでも、この間読んだラノベ主人公は物語に関係ない女子にも普通にやってたし、いまどき、みんなやってるか)
ただの挨拶みたいなもんだろ、アニメの外国人キャラも挨拶で頰にキスするし。
と一人で納得し、満足気な顔で廊下を歩く。
そう、片野君はオタクなのだ。
中学の時、初めて読んだライトノベルにドハマリして以降、ラノベ、アニメ、声優、ゲームetc...
「オタク」と聞いてイメージされるものほぼすべてに手を出した。
端から見ると、高身長、イケメン、運動神経抜群、成績優秀の完璧超人リア充に見える彼だが、中身はドがつく程のオタクだ。
しかし、昔からそうだったわけじゃ無い。
それこそ中学の時はデブ、メガネ、オタクで運動も勉強も苦手な俗に言う、陰キャラだった。
なぜ彼がこうなったかというと、まぁ、色々あってダイエットを決意し、普通になろうと努力した結果である。
だが、オタクで友達も少なかった彼が世間一般の「普通」が分かるはずもなく。
普通=リア充 リア充=ラノベ主人公 ラノベ主人公=普通
という風に、彼の中の普通が歪曲してしまった。
そんなこんなでキザな行動をしている内に、いまや入学一ヶ月ですっかり学校内の王子様。
当の本人に自覚は無く、人当たりもいいため、男子から疎まれる事も少ない。
(今日も目立たず、普通に、高校生活を送るぞ~)
自覚が無い。
それは時に人に不快感を与える事だとはつゆ知らず、教室のドアをゆっくりと開いていくのだった。
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