片野くんは夢を追う

むく

episode1 片野くんは平穏を望む

プロローグ


 「か、片野君! お、おはようっ!」


 朝、教室へ向かう廊下を歩いていると後ろから女の子の声がした。

 振り返ると、女子生徒が何人か固まっている。



 「あぁ、おはよう」



 片野良太は普通の高校生が普通に友達へするように、笑顔で答える。



 「っ・・・・・・!」



 同時に、周りにいた女子生徒達は黄色い歓声をあげる。


 声をかけてきた女子を見ると顔が赤い。

 片野君は、熱があるんじゃないか? とでも言いたそうな顔をしている。



 「なんか、顔赤いけど大丈夫? 保健室行こうか?」



 女子生徒の顔を見ようにも、身長176センチの片野君が俯いた状態の女子生徒の顔を見るのは難しい。


 そのため、身を傾け横から覗き込む形になり自然と顔の距離が縮まる。


 急接近した顔に動揺を隠せず、耳まで真っ赤に染め上げる女子生徒。



 「あっ・・・だ、だいじょうぶ・・・です」


 「んー、そっか。 でも、熱があるかもしれないから、無理はしないでね?」


 「は、はい・・・っ!」



 屈託のない笑顔で爽やかに答える片野君に対し、女子生徒は憧れのイケメン俳優に会ったかの様に目に♡を浮かばせている。



 流れる様な自然な動作で女子生徒の頭を軽く二回、ポンポンッ、とする片野君。


 「それじゃあ、お大事に」とだけ言い残し教室へと向かっていく。



 残った女子生徒達の周りには、それはもうピンク色の空気が漂っているのだった。

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