魔力

 さあ、肝心の魔力についての話なのである。



 ★


 アラタ・アンドウ

 魔王有力候補


 HP :100

 MP :20

 ちから:21

 攻撃力:2100

 まもり:5

 防御力:500

 素早さ:34

 運  :1+∞


 魔力 :9999以上



 ★



 魔力――が、9999、しかも「以上」となっていること。

 これはステータスのパラメーターがこの世界では原理上、

 四ケタまでいかない仕様となっている、じつのところただそれだけの事情だ。


 そして、とりわけ、この世界では、

 魔力の「魔」という意味概念は、まさしく、魔、

 ――つまりして「悪魔」またそのもっともっとはるか先にある「悪魔王」、

 つまり「悪魔王」としての「魔王」、



 まさしくその素質として用いられているものだ。



 これはなぜかというと、



 この世界では、現在のシステム仕様では、

 魔力――というのは、「相対評価」なのである。



 さらに説明をしよう。

 新がアラタとしたこの世界にやってくる前、この世界は、たいそう平和であった。

 というか、平和そのものであった。


 ときにすこうしばかりの野望を抱く者というのはいた。

 それはたとえば、――アラタがいましがた出会った、七大天使女王――とはいうがつまりして「天使王」の座にあった、

 エルリアなんかも、そうであった。……だからエルリアは魔法が使えた。

 野望、いや率直に言えば、「悪」のぶん、――魔力というのはつよくなるもの。

 エルリアだって、アラタのくる前のこの世界では野望をもって退屈をして倦怠をしていたある種の危険種であったが、



 ――そんなものは現代日本からやってきたアラタの比などでは、ない。当然。無論。勿論。疑いようもなく、間違えようもなく。



 新の抱いていた負のパワー、闇というのは――この世界では「悪」とされつまり魔王力である「魔力」に直結をいたす。

 世界の仕様さえも、超越して、



 この世界に彼が降り立った瞬間漆黒となって爆発したのはむしろ当然の道理であったのだ。



 説明をひと通り終えて、エルリアは眼鏡の奥の瞳で微笑みふう、と息を吐いた。

 きゅいっ、といかにもエルフの女王の座りそうな、ツタの絡まった豪華な女王イスを、回した。

 広いイス。どちらかというと、生き物ごと、――ヒトさえ包んで含んでしまいそうな、

 緑色のたいそうデカいマユのごときイスなのだが。



「……と、いうことですのよ。

 ねえ、アラタさま。魔力以外のご説明、すべてわたくし済ませましたのですけれども、わたくしの、どこまでもどうしてもはてしなく拙いこのような説明で――わかってくださったでしょうか?」

「わかるよ。つまりおれがもはや最強だってことだろう?」


 エルリアは肯定の返事の代わりに、小さく静かにひそやかに微笑んだ。



 ぽつ、ぽつり。ふわふわ綿毛のようにまるい光が、淡くあちこちでかがやき。

 緑色の植物たちは、濃厚にその植物性を主張している。植物に土のにおい、胞子がパタパタ飛んで揺れる。



 エルリアは言った。



「……エルフィレーナの森は、キレイだと思いません?

 わたくし、ここの森のこと、……ほんとうに愛していて。

 だって植物たちってケナゲなんですもの――ひょっとしたら、エルフや、人間よりも。動物よりも。

 ……もっと高次元的な、神に近い生き物なのかもしれませんわ」

「なんだよ、植物がそんなたいそうなモンであるわけ、ねえだろ」

「ふふっ。アラタさま。……アラタさまにそう言われてしまえば、致し方ない側面も、ありますわ」



 エルリアはそう言ってアラタをもう一度胸のあたりに抱き寄せながらも、上を見上げた、――緑に覆い尽くされた玉座の間の天井を、見上げた。




「と、いう感じで、チェアたちは見ちゃった聞いちゃったのですね。魔王サマの強さのひみつ」

「あく、とか。にくしみ、とか? そんなものたっぷりもってるひとって、いたんだね……」

「それだからココちゃんは犬ココなのですよわんこはのんきでいいですねえ」



 と、いうわけで、アラタのパラメーター、その理屈やシステム、――憎悪が根拠だったというその秘密を知っているのは、

 アラタ本人、ステータス開示スキルのあったエルリア、

 彼らに取るに足らない弱小存在だと思われている、ココネとチェア、


 そしてあとは――のぞき見をしていた、エルフの女騎士トレディアだけだ。



 さあ。

 ――魔女裁判の、はじまりはじまり。

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