開示

「ステータス開示?」


 そのとき新たなる魔王になるべきアラタはきょとんとした。


 しめしめと内心思いつつ、そのふんわりと穏やかな森ガール的雰囲気を崩さないまま、

 エルフィレーナの賢森の女王、兼、大陸の七大天使のひとり、兼、


 ――世界征服を企むために堕天をすでになした、堕天使エルリアは、



 笑顔を、見せる。

 魔王の、隣で。その肩にしなだれかかり。膝や胸や顎や、女らしく、撫でまわし続けながら。


「ええ。……アラタさま。なぜ、あなたがお強いのか……知りたくはありません? ハァン」

「おいおいおいおいエルリアちゃーん、息が近いよお、エルリアちゃんの息ならいいけどさぁ、あったかーい」

「わざとですもの……」

「おいおいっ、悪いコだなあっ」

「フフ。……それでですねアラタさま。あなたがなぜこの世界で、そんなにもお強いのか、その秘密をわたくしでしたら――」

「ああっ、もーう、そんなとこおさわりしちゃダメなんだぞっ☆

 っていうか、おいくら?? おれそんなにカネねえよお、この世界のカネとか、知らないしィ、喰いモンもなんでもさあ、そこらへんのヤツさァ、おれのちからでぶっ潰せばさぁ、手にはいんじゃーん、だからおれお金ないんだよおエルリアたーん」

「……はい、はい、フフフフフ、――それで新たなる最強最大偉大で漆黒の魔王アラタさまのステータスの秘密なんですけどっ!」


 エルリアは半ば強引に説明モードに入った。

 赤色の宝石のはまった杖を振りかざすと、ブン、と音を立てて窓のようなものが開いた。

 白紙だ。


 隅っこではチェアが息を呑んだ。ココネが自分よりも体格の小さいチェアの肘をつっつき続けるが、チェアは腕でそれをガンッとはらいのける。


「えー、なになにー、これー。つか、ホワイトボードみたいじゃん。……やめてくれ。気分悪くなるよ」

「あら、あらあらあらあらアラアラ、アラタさま、なにかご不快な思いを?」

「やー、うん、まあ。おまえらになにひとつこれっぽっちとして、カンケーねえけど。

 ……前世のことをだなー」



「前世」



 エルリアの瞳は、ハイエルフらしかぬ邪悪な輝きでギラリと光った。

 ガバッ、とアラタの身体にのしかかるようにして、抱く。


「おーいおいおい、エルリアっちゃーん」

「まさしく――それなのです!



 アラタさまのおちからの秘密はこの世界のだれよりも、つよく、おおきく、ひろく、たかい、




 ――憎悪」




 憎悪。



「こちらをご覧ください」


 エルリアがふたたび杖を振ると、

 ホワイトボードみたいな白くて四角い大きな板には、



 アラタのパラメーター表示がなされた。



 新は、ポカンとする。

 とてもそれが自分のものだとは思えなかったからだ。




 アラタ・アンドウ

 魔王有力候補


 HP :100

 MP :20

 ちから:21

 攻撃力:2100

 まもり:5

 防御力:500

 素早さ:34

 運  :1+∞


 魔力 :9999以上




「……え。これ、おれのやつ?

「そうです、あなたさまのものです」


 エルリアはにこにこしている。

 動じていない。


 エルリアは、すでに知っていた。




「え? は? え? ……なにこれ。

 なんかアンバランスっつーか……つか、

 おれ、つよくね??」


「はい。アラタさまは最強かと思いますわ」



 にこにこ。にこにこと。



 アラタはパラメーター画面を見入っていたが。


「うーん。でも、おれ、ナットクできないことあんだけどさあ。いろいろ」

「まあ、なんでしょう。いくらでもわたくしに不明点をおっしゃってくださいませ。

 アラタさまのおはきものを脱がすのにもおこがましいわたくしでございますが、

 誠心誠意。説明をさせていただきますわ!」



 アラタはギュッと顔をしかめた。



「うーん。それじゃあさあ――」



 質問タイムの、はじまりである。

 さあ。……世界の命運をかけた、


 そういう、真剣勝負の、そう、……質問タイムであるのだ。

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