空中庭園

 空中庭園っていうのはエルリアに聞いたところさぞかしきれいなところであるようだ!

 ……と、その前に。



 エルリアちゃんには、この森の全員を集めてもらっている。トレディたんも、それを手伝っているようだ。そう、トレディたん、たんたん。

 おれもだんだんこの世界の楽しみかたに適応してきたなと思う。



 そのあいだおれはココネとチェアの準備をしてやる。



 ココちゃんには、そこらへんの草で編んだかんむりをかぶせてやった。

「……ひゃ、ひゃ、ひゃっ。なにこれっ、草じゃんっ、草じゃないですかアラタさまっ」

「草だよ。なんかこう、むかしの救世主はいばらのかんむりかぶったみたいなやつ」

「ひ、ひうう、でもボクは救世主じゃないし……、これ、ただの雑草だよお……」

「は? 気に入んねえなら殺すけど。そらっ」

「――あああああっ、いた、痛い、痛い痛い痛いですっ、ご、ごめんなさい、これは最高の天樹だよぉ……!!」

「……はー、なんだ、やりゃあできるんじゃねえかっ。そらっ、頭ぽーんぽんっ。……ふふふ、ココネちゃんのおみみは、ワンちゃんでしゅねえ、ふわふわしてましゅねえ、もこもこでしゅねえ、ココちゃんもこもこー」



 チェアちゃんには、花飾りのネックレスをプレゼントしてやった。

 うげえみたいなカオして見下ろしてる。なんだこの幼女、ちゃんとこんなぶーたれた顔もできるんじゃねえか。


「……あの。なんでしょうか、これは、アラタさま」

「やーっ、おれからのプレゼントっ。さすがにチェアちゃんまだちっちゃすぎて、ブランドの財布とかはあげられねえんだわー、ごめんなっ」

「……いえ、いえいえいえ、アラタさまが謝ることなんて、ないんですけどぉ、ふにゅう。ぶらんど? さいふ? って、チェアちっちゃいんで、わかんないんですけどー。きゃーすごーいからふるなエルフの森産のはなかざりだー」


 でもなんだかんだでチェアはすぐに満足したようだった。よしよし。やっぱしょせんは幼女なのである。




 ……さて。

 そういや、ここに男はおれだけ。



 おれは女の闘いとやらの魔女裁判、見物できるってわけだな?

 女って集まるとすげえ醜く争うって聞くじゃん。マウント争いとかめっちゃドロドロなんだろ?

 ――はー、高みの見物ー、圧倒的に優れたおれ!




 さあ、空中庭園!



 そう、ここは、エルリアの玉座から続く、

 エルフィレーナの賢森のうえに浮かぶ、

 夢のごとし、


 空中庭園!


 バトル漫画、

 おとぎ話や西洋ファンタジーに出てくるかのごとし、

 とても夢のある闘いの舞台。


 コロシアム型の舞台。

 小さな雲のひとつのごとく、スキなく密集した森にそのかたちとおなじぽっかりとした影を落とし、ふわふわと浮遊するコロシアムは、

 近隣の種族たちから、「さすがは知恵で生き延びてきた羽の種族の上位者、エルフたちだ」と、

 おそれおののかれるほどのもの。


 外から見れば、レンガの巨大な家がひとつ浮いているようにも、見えるであろう。

 素材として、焦げ茶色のレンガを積み上げられて作られている。

 そこに絡まるツタや妖精花がキラキラフワフワと美しい。


 浮力の秘密は――飛空石。

 魔女の、秘術、とされていた。



 そして、高い建物を建設する文明を有さないこの世界では、きっともっとも大空に近い場所のひとつ。

 エルフの幼子たちは、はじめて見る空の近さに、うわあ……とほとんどポカンとしながら、

 近くなった空を、見上げているのだった。



 ――もっともその空はすでに新生魔王の手によってまがまがしく紫色なわけだけど。

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