椅子
キレイに燃えるサンタレーナの街と妖精の身体が焼ける音と臭いのなかで、
ココネに真っ黒なお似合いの首輪をつけてやることにした。
周りに金色のトゲトゲがついてて、外そうとすると手に当たって痛いタイプのやつだ。
現実世界では、ペットショップよりも、そのテの専門の店で売ってるようなやつな。
なんで、そんなの持ってるかって? ――闇の力で生成したんだよ。
「ほら、ココちゃん、パパにむーんってお顔上げて? お首見せて??
わあぁーーーココちゃんは首すじは真っ白なんだねえ。カワイイねえ。
ここにポチッとできてるニキビちゃんがカワイソーだねえええーーーパパがね、
パパがいまから首輪ちゃんつけてあげましゅからね、
それでニキビちゃん増えちゃうかもしれないでしゅねえええそれすらパパはココちゃんが愛しいんでしゅよおおおおお――って、オイ」
ひゅん、とヘンな鳴き声を上げておれの第一奴隷のココネがビビる。
違う、オマエじゃない。
「おい。
そこの。
木の裏に隠れてるヤツ」
雑魚木は、最後に焚き木にしてあったまろうと思っていたから、あえて残しておいたのだ。
おれはザッ、と立ち上がった。
ソイツがヒュッと縮こまるのが気配で、わかる。
おれはすかさず回り込む。
鷲のポーズのように、狂った人間のようにギャハハと笑って両手を天高く上げて、威嚇する。
「生き残りがいたとはな。小賢しい。
おれとペットの蜜の時間を邪魔するな。
一匹くらい、犬のエサにしてやろうか? お前らって食ったらうめえのか――って、おい、おまえ」
プルプル、と震えてこちらを見上げている、羽も身体も小柄な妖精の幼女。
おれがこの街を滅ぼすときに、
マザリアとココネの滑稽な決闘コロシアム開催のときに、
散々椅子として利用してやった、あの幼女妖精――イスちゃんだった。
「なーんだ。イスじゃん」
イスちゃんはおれをガバッと見上げると自主的に土下座をした。
「お願いします、魔王さまっ。イスのこと、イスにしてください!」
「おーおーおー、あいさつができてえらいじゃないの。まだこんなにちーっちぇえのによお」
「……ママ、に、教わりました」
「ああん? 殺すぞ」
「ごめんなさいっ、イスはまだちっちゃくてなにも知らないのですっ。魔王さま、いろいろイスに教えてくださいっ!」
「つってもイスに教えることなんざ良い座り心地を提供することくらいだろー。ペットより酷いぜ、家具でしかないかんなお前」
「……もちろん、もちろん、ココネよりももっと、イスは、下なんだって、わかってますから……。
……それでもイスは、魔王さまのイスになりたくてっ」
イスちゃんはみずから四つん這いになって背中をさらけだした。
パステルカラーの羽が、コイツの家族や仲間たちを燃やし続ける赤い炎によく映える。
「……ふーん。良い教育受けてんな」
おれはそう言いながらイスちゃんのイスに座った。
「おい、足組むから。もーちょいちゃんとしてよ、イスちゃん。
おーい、ココネ。こっちおいで」
ココネもおそるおそるやってくる。
ふらふら、と。
「……ココネちゃんのせいだよ。こんなの」
「だって、ボク、知らなくて」
ふたりの奴隷の会話をあえて俺はいまは止めないでおいてやった。
第一奴隷、犬のココネ。
ラックで手に入った、第二奴隷、椅子のフェアリー。
おれの気ままな旅がはじまるな、という爽やかな気持ちにおれは満ちていた。
緑と歌の平和な街、サンタレーナ。
虐殺、完了。
(第一部 完)
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