結論

 いまや生首となった『大天使』マザリアに誘われて、死んだと思ったらこの世界に連れてこられて、

 サンタレーナという世界に到着して。やはりムカついたのは、そのまるで子供みたいに楽しそうに遊ぶ羽のついた妖精やら天使やらだ。妖精でも天使でも、どっちでもいい。おれには関係がない。

 おれはとにかくやつらが子供の姿をして何も知らずに遊んでいる純朴な姿が、我慢ならないのだ。



 あの幼稚園だか保育園だかのガキどもが、外のスペースで遊ぶ姿に、似ていたから。



 おれは、これでも、がんばったんだ。

 おれは努力家だったから、高校にも四年制大学にも行ったし、新卒でちゃんと就職できた。

 そこでどんな理不尽なことを言われても、おれは社会人だからと、耐えようとした。

 その会社には、一応入ったときにはおれのほかに二人同期がいたのだが、二人ともどうしようもない理由で半年したころには辞めていた。

 同期は、おれだけになった。

 おれも辞めたかったけど、もう一度就活の地獄を味わいたくなかったし、おれがここでやれなかったらおれはもう一生正社員になれないと思った。ブラックでもなんでも、おれは、正社員だったのだ。確かに。

 おれは、その会社で、一番の下っ端になった。横並びの同期はいない。ただ単純に、おれは最底辺となった。


 勿論家に帰れば、おれは空想の中で会社の上司を全員ぶっ殺していた。女の上司は、全員犯していた。というか時には男の上司もおれは犯した。上司どもの見た目はまちまちだったが性根が腐りやがっているから人間として魅力的な訳もない。

 けど、だからこそイイのだ。会社の上司どもをめちゃくちゃにしてやる妄想は、とんでもなくイイものだった。おれは毎晩仕事を終えると電気をつける前にまず妄想した。その日おれをもっとも理不尽に叱りつけた上司をまず一番に、主役にして、犯した。その役となる上司は大抵おれに泣いて謝っているか、おれが実はとんでもない潜在能力を秘めていて天才でそのことに気がついて足もとに縋って泣いておれを求めるのだった。安藤くん。いや、安藤さん。安藤新さま。ゴミクズの弊社を、犯してください。いいとも。おれは親指グッとサムズアップをしてやって、上司を片っ端から犯してやった。おれのチカラで、おれのモノで。あいつらは泣いておれを求めた。

 おれの足に縋りついてくる「御社」どもは最高に情けなくて惨めで憐れで無様で笑えておれは最高に興奮した。

 上司たちをおれの手やモノで片っ端からぶっ殺していくときにおれの快感は頂点へとジェットコースター式に昇りつめてゆき、最後のひとりの首をスパンと切って文字通りクビにするとき、おれはだいたいそのタイミングで……頂点を迎えた。


 そうやって一日平均五回は独りで妄想してを繰り返した。



 そんなおれの至福のひと時に邪魔だったのが、通勤途中にあるその園のガキどもだったのだ。

 あいつらが毎朝キャアキャア遊んでいるのがおれには本当に目障りだったし耳障りだった。

 思い出すたびにぶっ殺したくなる。ぶっ殺したくなる。


 何度も試した。あのガキどもを端からぶっ殺す夢想で抜こう、と。マシンガンで蜂の巣にしてやるのが一番良いと思った。ガキでも穴だらけにすればちょっとは楽しくなれるかもしれない。

 けど、ダメだった。

 ガキの姿を考えると、それだけで萎えた。ぶっ殺したいのは本音なのに。

 おれはロリコンでもショタコンでもなかったってことだ。ネタにできないことに落ち込んだが、観点を変えればおれはロリコンとかショタコンとかいう犯罪者予備軍ではないことに、安心した。よく匿名掲示板でロリコンショタコンは犯罪者って言うじゃねえか。おれは同年代どころかお世話になってる上司どもに夜もお世話になってるだけだから、何も問題はない。この国は、行為にさえ移さなければ犯罪ではないんだろう? ハイ思想の自由、ハイ万歳。


 仕方ないからおれはあの園の保育士やガキどもの親で抜いた。それはイケた。ナイフで血みどろもいいが、やはりマシンガンで蜂の巣というのは定番だ。いいね。



 だから、だよ。

 あの、お花畑で舞い踊るあのガキみたいなヤツらが許せなかったのは。



 あいつらは俺のネタにさえならない。

 役立たずだ。

 ただ、おれを苛立たせ、絶望させることしか、できないんだ。




 だからおれは絶望して、闇の力に覚醒した。

 ……ほら。常識的に考えて、当たり前の結論だろう?

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