滑稽
馬鹿みたいにポカンと口を開けて呆然とマザリアを見つめている可愛いココネに、おれは思いやりを示してやることにした。
何せおれは寛大なのだ。今後も寛大な方針でいこうと思う。
経営者がこのくらい思うようにやったほうが、結果的に良い結果をもたらすものだ。おれは社会人経験でそのことを嫌って程、学んだ。
「おい、イス幼女。おれが立ちやすいようにしろ」
「あ、あ、あうっ」
「返事がお馬鹿さんだな~。お馬鹿さんなのかな~?」
おれはイスになってる妖精の幼女と余裕あるユーモアを交わしながら、立ち上がった。
右手に力を込める。おれの右手はそれだけで黒い発光を増す。
「なんか残酷な武器。あぁ、そうだ、ココネに似合いそうな可愛いデザインにしてやろう」
バアッと黒い光が溢れる。
そこには、どす黒いカマがあった。死神が背負ってそうなカマだ。
「……悪くねーじゃん?」
おれは満足して呟くと、それを即興で作ったコロシアムにいるココネにヒョイと投げてやった。
ココネは投げられてからカマの存在に気づき、それを見下ろす。
そしてゆっくりと顔を上げて、おれを見る。
なんつーか絶望的な顔っていうのはこういうののことを言うんだろうなって思った。
燃え尽きてる感じの顔だった。
「おーい、ココネ。そんな顔すんじゃねえよ。
それじゃあ燃え尽きた真っ白な灰みてえだ。似合わねえよ、おい。
さっきおまえ闘志ギラギラのメラメラだったじゃん、……おれに向かってさ?
燃えるのは、これからだろ。
よ、そのカマ、てめえにプレゼントしてやっから、使え。
……『みんな』を、助けたいんだろう? なぁ、――アハハ!」
「……ぅ」
ココネは、カマを見下ろしていた。
「……ボクが、これを?」
そして、しゃがみこんだ。
ホンモノの犬の目みたいなカオをして死神のカマを観察する。
その顔に、ぶわっと涙が溢れた。
「……ボクがこのカマで戦うの……?
マザリアさまを、
ボクを拾ってくれて、育ててくれて、
……ボクのこと愛してくれたマザリアさまを、
……殺すの……?
それしか――手は、ないの?」
「おい、犬娘。早くしろよ! モタモタしてっとどっちもぶち殺すぞ。
……そうだ、今からもう始めちゃおうか。な、な、あんまギャラリーのみんなを焦らすのも、申し訳ねえもんな、なぁ?
サービスは円滑に! ひとの時間を無駄にしちゃいけねえんだぞ?
そんじゃま、始めまーす。カウント、スタート!」
おれが念じて右手を高く挙げると、都合の良いことに電子デジタルのカウントが始まった。
黒い背景に燃える炎の赤色がデジタル数字となって、10分のタイムリミットを刻み始める。
カラン、とあっけない音がした。
マザリアが手からナイフを落とした音だった。
マザリアは羽やら腰やらから、次々と武器を出していく。
カラン、カラン、カラン。
身体じゅうの武器をこれでもかって程捨てていく。
「……あの女あんなに武器持ってたの? ずるいねぇ。ずるいと思いまちぇんかー、イスちゃんー。あ、座るからちゃんと地に四つ足ついて。あー、そうそう、座り心地いいよ~、キミ才能あんじゃない~」
「……ッ、グスッ、グスッ……マザリアさまぁ、ココネちゃん……や、やだよぉ、……マザリアさまぁ……!」
マザリアは両手を広げた。
なにかが飛び込んでくるみたいに。
「――わたしをいますぐ殺しなさい。ココネ」
「……でも」
「命令です! わたしをいますぐ殺しなさい!
……わたしはもう天使ではない。ただの……堕天使です。
堕天使はいずれ悪魔になる。
悪魔になるくらいならその邪悪なカマで首を切り落とされたほうがマシ……」
「……はー、リッパだなーって思ったのに結局自己保身かよー」
「――わたしは悪魔にはならないッ!
魔王に利用されるくらいなら――いまここで命を犠牲にします!」
「はー、なんか、コント始まったなー。映画みたい。
つか、ポテチとか欲しくね? ポップコーンでもいいや。
イスちゃん、なんかツマミ知んねえ? ……つか妖精族って食えたりすんの? そこらでこんがりしてるけど。
あぁ、でも、おれはカニバリズムな趣味はなかったかんなあ……」
「……かみさま、りゅうさま、てんしさま……私たちを、サンタレーナを、……マザリアさまをどうか助けてぇ……!」
おれはこの世界でもう神様なのでイス幼女ちゃんに親切に返事をしてやった。
「んー。それは、ムリじゃないかな?
おれさぁ、同情されんのとか、でえっきらいなの。
……だからアイツは死ぬしかないんじゃないかな?」
マザリアとココネは見つめ合っててとても滑稽なシーンだ。
あぁ、まじで、この感動的なシーンのつまみどーしよ?
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