【回想】好きだった娘

 おれには、好きなコがいた。

 長い片思いだった。

 小一からだから、十五年くらい、か。


 彼女は髪が長くて、お姉さんみたいで、頭がよくて、けどかわいかった。

 なにより、小一の時点からキモいキモいと言われてるおれにも、分け隔てなく接してくれた。

 おれのおもらしに動じることがなかったのも彼女だけだ。

 いま思ってみればおかしい。あんなキタナイ状況でどうして彼女はあんなにふつうに笑ってたのか。


 そのあとの学校生活でもおれは彼女にだけはあいさつしてもらえた。



 天使かな、と思った。



 けど、違った。

 あのコは――アイツは、とんでもないビッチだった。


 アイツはたしかに天使だったかもしれない。

 けど、それは、だれにとってもそうだったのだ。

 みんなの天使だ。


 ビッチ天使だ。


 男女関係なく、困っていれば手を差し出し。

 笑いかけて。

 それだけならまだ、許してやったのに。



 中学に入って。

 あいつは爽やかなサッカー部のキャプテンのイケメンと、付き合いだして。

 おれはアイツをぐしゃぐしゃにしたかった。


 アイツはイケメンの隣でメスの顔して笑ってた。


 ……おれの小学校六年間と中学のそれまでの半年間を返せよって思った。



 けど、まぁ、ある意味ではよかったのかもしれない。

 アイツが単なるメスに成り下がったことを確認したあと、おれはひとりで暗い部屋でアイツをオカズにすることになんら抵抗がなくなった。

 おれのケータイはまず鳴らないし、家族もおれのことなど気にしてないから、おれは存分に思春期男子の遊戯にふけることができた。


 あれは、天使などではない。ただのビッチ、ただのメスだったんだ。

 ビッチメス天使め。おれがきょうも妄想のなかで存分に痛めつけて犯してやる。もっと喘げよ、もっと鳴けよ、おれの、おれの手――おれの――この――で――!



 まぁ、ほんとに、ある意味ではそれでよかった。

 なぜなら、おれは、アイツのおかげでもうすべてを諦められたからだ。

 この世の女はみんなビッチ。男はみんなリア充、そうでないやつはキモいからゴミ。あとおれはオタクにさえもなれなかった。オタクにさえも馴染めなかった。

 けど、おかげで、学生の本分である勉強に集中し、高校に引っかかって合格し、だれも名前を知らないがいちおう四年制大学というだけの大学に現役で合格し、イヤホンを突っ込みっぱなしの無意義な四年間を送り、こんなおれでも新卒で立派な社会人になれた。

 そのまま病んで、ひきこもって、飛び降り自殺をしたくなるほどにおれは立派な社会人だったのだ!

 そして、実行した。おれは、なんとえらいのだろう! 自分の後始末を自分でした。家族に賠償金の請求はいっただろうがそれくらいはささやかな復讐として勘弁してほしい。

 おれは近所のガキも殺さなかったし、飛び降りのときに目の前にいたスカートの短いメスを線路に突き飛ばすこともしなかった!

 ついでに言えば、初恋のビッチをレイプもしなかったし拉致監禁もしなかったし殺しもしなかった!

 おれは、とても立派な大人、いや社会人だった! 最後の、最期まで!




 だからこれはきっと、神からおれへの人生はじめてのプレゼントなんだ!

 人生は、努力は報われる!

 おれ、ここまで生きて、そんで死んで、よかった!




 ――だから、悪いな、マザリア。そして羽の生えた有象無象たち。

 おれは、おまえらのことが、焼却すべきゴミにしか見えねえんだよ。



 あぁ、そうだ、それとな。おまえらには、言わないけども。


 おれの右手は、黒くて太くて、幸い、男のソレと似ている。

 とても、幸いなことだろう?

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