完全無音化ネックスピーカー
「博士、今日はお願いがあるのですが!」
「なんだ。言って見ろ」
「実は来週、大学のテストがありまして」
「記憶力増強機でも欲しいのか?」
「いや、その、そこまでは。テストくらい自力で受けたいのです」
「そうか。良い心構えだな。それで」
「家の前で道路工事が始まって、一日中うるさいんですよ。深夜工事までやってまして」
「騒音問題か!案外、根深い問題だ。それならノイズキャンセリングベットフォンとか売られているじゃないか」
「えぇ。それが今ひとつで。現場監督の怒鳴り声とか」
「なるほど。騒音の音波に対して、逆位相の音波を重ね合わせる。これによって音の波を相殺して、騒音の音波を消してしまう原理だ。これでは突発的な音を消すのは難しいからな」
「博士の言っていることがまったく理解できません」
「まあいい。任せておけ」
トッチンカン、ボンボン、ビビー、ガーガー、ガッコン、ピー。
「できたぞ。名づけて完全無音ネックスピーカーだ」
「さすが、博士」
「原理はノイズキャンセリングベットフォンと基本的に変わらんが、性能が段違いだ。AIフィルターを使って音の未来を予測してかき消すのだ」
「博士、その説明は何分くらいかかるのですか」
「シロートのキミが理解するとなると最低60分はかかる」
「・・・。説明はまた今度でお願いします」
「わかった。では早速、使ってみよう。使い方は簡単だ。これを首にかけてスイッチを入れる。ベットフォンのように耳が痛くならなくていいぞ」
「博士らしい心使いですね」
「うむ。では試してみよう。まず、キミはこれを首にかける。そしてスイッチを入れるだけだ」
「はい。じゃあ、スイッチを入れます」
「・・・(どうじゃ)」
「・・・(博士の声も自分の声も聞こえません)」
「・・・(口パクだけだな。成功だな)」
「・・・(博士、スイッチを切りますね)」
「驚きました。何にも聞こえなくなりました!」
「うむ。私の発明に不可能の文字はない」
「ありがとうございます。これで勉強がはかどります」
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「で、どうだった。テストの結果は?」
「それが。音がしないのが気持ちよすぎて、テストの日に寝過ごしてしまいました。目覚ましも聞こえないもので・・・」
おしまい。
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