ポータブル核シェルター

「ハクション。もう博士ったら、花粉症がひどい時期に呼び出さなくても。ハクション」


「・・・」


「あれ、博士どこですか?」


「・・・」


「おっ。これはSF戦隊ヒーローシリーズの傑作。完造人間シャキーンの等身大フィギャアではないか。しかも、リーダーのレッド。博士にこんな趣味があったとは」


「・・・」


「うわっ。動いた!」


「ようやく気づいてくれたようだな」


「博士。何やっているんですか?コスプレですか」


「違う!何を隠そう、これが今回の大発明だ。今、装着を解除するからそこで見ていろ」


「はあ」


「シャキーン。レッド解除!」


カシン、カシン、カシン。パタパタ。ビュン。


「すっ、すごい。体をおおっていたパーツが背中のランドセルに収納されていく」


「どうだ。恐れ入ったか!」


「良くできたコスプレだとは思いますが・・・」


「違うぞ。これはコスプレなんかではない。名づけて『ポータブル核シェルター』だ」


「何をするものですか?」


「これは来るべき核戦争に備えて開発したものだ」


「・・・」


「いいかいキミ。核爆弾と言うものは地上を焼き尽くすが、地下は案外と影響が少ない。強固な核シェルターを作っても、いつもそこに避難できるとは限らん。核戦争が起きたら地下に避難するのが一番だ。問題はせまい地下でどれくらい暮らせるかだ。放射能の半減期は何十年にもわたる。せまい地下で暮らすのは限界があるのだ」


「これを装着して放射能まみれの地上を歩き回るのですか」


「キミ、察しがいいな!」


「それ以外どんな使い道があると言うのですか」


「くっ。まあいい。背中の『ポータブル核シェルター』の本体には高性能HEPAフィルター空気清浄機がついている。地上に舞っている放射能塵を99.97パーセント以上カットして、クリーンな空気のみを展開したスーツの中に送り込んでくれる優れモノだ」


「隙間だらけに見えましたが」


「そこがミソだ。内部の空気圧をあげることで、内側から空気は漏れるが、外側からの侵入はない。むれずに快適にすごせる。さらにヒーター内蔵だから核の冬にも対応できる。スーツの素材は放射能塵が付着しないフッ素樹脂加工だ」


「ん。なんだか20世紀の技術のような。それに現在の世界情勢では核戦争なんておきないと思いますが」


「だから備えだと言っている。私は常にあらゆる可能性を視野に入れているのだよ。このサイズなら持ち運びもできて、収納にもこまらん。それにこの『ポータブル核シェルター』はキミのような花粉症にはもってこいだ。PM2.5もへっちゃらだ。日常使いができれば、いざと言うときも探さずに済む。ほらキミの分だ」


「これは!完造人間シャキーンのブルー仕様!博士、ありがとうございます」


「では装着するぞ。シャキーン、レッド展開!」


ビュン。パタパタ。カシン、カシン、カシン。シャッキーン。


「私も、シャキーン、ブルー展開!」


ビュン。パタパタ。カシン、カシン、カシン。シャッキーン。


「では。ブルー、花粉地獄に出撃だ!」


「はい。レッド」


------


「どうだ、効果は?」


「すばらしいです。花粉症の症状がまったく出ません」


「おっ。あそこにいるのはキミの彼女じゃないか。われわれの雄姿を見せてやらねば!」


「博士、それだけは。シャキーン、ブルー解除!」


「おい、ブルー。勝手に解除するな!」






おしまい。

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