パラレルワールド
「キミ、人生をやり直したいと思った瞬間はないか?」
「博士、いったい何ですか?いきなりすぎです」
「ないなら別にいいが」
「もったいぶらないでください。そりゃあ、人間ですからそんなことは日常茶飯事です」
「例えば」
「先日、例の彼女と食事に出かけて。私の好きなものでいいって言うから、鰻(うなぎ)屋に行きました」
「なるほど。キミにしては大奮発だな」
「ええ、まあ。でも、彼女、鰻は苦手らしくて天ぷらとかたのむんです」
「それは災難だったな。なぜ、私の開発した自動運転車を使わなかったのだ」
「博士が二千万円なんて言うからです」
「それはすまなかった。ではその時、別のお店を選んでいたらどうなったか見にいってみよう」
「・・・」
「世の中にはパラレルワールドと言うものがあってな」
「知っています。これでもSFオタクですから」
「なら話は早い。例の透明人間になれる香水を持ってタイムマシンで出発だ」
ブイーイーン。
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「よし、見つけた。それにしてもキミ、ずいぶんとデレデレだな」
「余計な所は見ないでください」
「それに彼女はキミには高根の花だ。遠からず破局するんじゃないか」
「余計な心配はしないでください」
「では偶然をよそおってキミが鰻屋に行くのを止める。キミは昔のキミに見つかると悪いので透明人間になってついてきてくれ」
「わかりました」
シュッシュッ。
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「おっ。偶然だな。今日は彼女と一緒か!」
「博士、どうしてこんなところにいるのですか?」
「これから鰻でも食べに行こうと思って。一緒にどうだ。そちらのお嬢さんも」
「デートの邪魔をしないでください!」
「そうか、これは失礼した。デートならやはり洒落(しゃれ)たイタリアンレストランとかが定番だな。ねえ、お嬢さん」
「は、はい!」
「では、私は失礼する」
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「そこにいるか。うまくいったようだ」
「はい。ありがとうございます」
「これでパラレルワールドの存在が証明された。私も透明人間になる。二人を尾行しよう。こっちまでドキドキするな」
シュッシュッ。
「なんで手を握るのですか!なんかベタベタするんですけど」
「お互いに見えないのだからしょうがないだろ。離ればなれになったら危険だ」
「透明人間で良かった。人に見られたらヘンタイ扱いですよ」
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「どうやらいい雰囲気だな」
「ええ。博士のおかげです」
「じぁあ、帰るか」
「えっ」
「パラレルワールドの世界に残ったらキミが二人になってしまうだろ。こっちのキミは幸せをつかんだ。戻った世界で幸せになれるかはキミ次第だ」
おしまい。
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